更新日: 2024.10.17 07:46
【WECジェントルマン物語vol.1】走れる実業家のオモテ稼業とは。プライベートジェット250機保有って本当?
WECの最終戦まであと1カ月弱。バーレーンのレースでは、いよいよハイパーカークラスのタイトルが決着するが、それより一足先に、先月の富士戦でGTクラスのドライバーズタイトルが決定した。今年から2クラス制になったことでGTカーの台数も増加。争いは熾烈さを増しているのだが、そこで鍵を握るのが、実はジェントルマンドライバーの面々だ。
必ずブロンズクラスのドライバーを1人は乗せなければいけないというレギュレーションになっているGTクラスではここ数年、シーズンオフに“速いジェントルマン獲得争い”が起きている。その一方、ジェントルマンドライバーの方々は、もちろんビジネスを成功させているやり手揃い。そこで、今回から3パートに渡って、WECのGTクラスに挑戦しているジェントルマンドライバーの素顔をご紹介しよう。
初回は、レクサスとアストンマーティン、フェラーリをドライブしている6人だ。
■黄色いポルシェに一目惚れ。ル・マン育ちの国際騎手も
●木村武史
#87 アコーディスASPチーム/レクサス
昨年からWECにフル参戦している木村。今年は、アコーディスASPチームでレクサスRC F LMGT3の87号車をドライブしている。そんな彼は、子どもの頃から大のクルマ好きで、小学校時代はフォード・マスタングに憧れた。自動車免許を取得すると“男の60回払い(昭和世代には懐かしい)”でニッサンのフェアレディZ(Z32)を購入したのを皮切りに、5台続けてAE86(カローラ・レビン)を乗り継いだ。
その86で現在の奥様(当時の彼女)とスキー旅行に行った帰り、都内のクルマ屋のショールームに飾ってあった黄色いポルシェ911・カレラRS3.8を偶然目にして一目惚れしたそう。「あのクルマを手に入れられるなら何でもする」と心に誓った。
どうすれば手に入れられるかと父に相談すると、勧められたのが不動産業。そこで一旦は不動産会社に就職し、ちょうどバブルが弾けた後のことだったが、そこから順調に営業成績を上げて30歳の時に独立、RUFという自身の会社を立ち上げた。
現在では日本各地で不動産業を展開しているが、ビジネスが軌道に乗る前は軽自動車に乗っていた時期もあったという。会社が軌道に乗り始め、初めてスーパーカーを購入する時には、契約書にサインするのが怖かったというが(怖くてキャンセル経験もあり)、今では数十台の凄いクルマを所有するようになった。
私生活では、クルマ好きの仲間とジムカーナ大会などを催して遊んでいたが、これがCAR GUYの前身となっている。そのなかで、レーシングドライバーの織戸学と知り合ったことがきっかけとなり、ル・マン出場を勧められて本格的にレースを始めることとなった。
その後、レーシングチームを立ち上げただけでなく、海外のチャンピオンシップにも果敢に挑戦。今では、奥様もWECとル・マンに情熱を燃やしており、木村がル・マンでクラス優勝する日を夢見ている。
●アーノルド・ロバン
#78 アコーディスASPチーム/レクサス
木村と同じく、アコーディスASPチームに所属し、レクサスRC F LMGT3の78号車をドライブしているジェントルマンがフランス人のアーノルド・ロバン、40歳。
12~13歳の頃、初めてカートに乗ったのだが、その時は余り情熱を持つことができず、20歳になった頃に改めてレースを開始。フォルクスワーゲン・ビートルに似たクルマで競うFUN CUPというのが最初に参加した競技だった。本格的に取り組むようになったのは2020年、35歳の時だったという。
ELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズにLMP3クラスで参戦開始したのを皮切りに、2021年にはLMP2でELMSとル・マン24時間レースに参戦。2022年はGTワールドチャレンジ・ヨーロッパにアウディで参戦した(パートナーは富田竜一郎)。昨年はELMSとル・マンにGTEクラスのTFスポーツから出場している。
そんなロバンは、何とル・マン出身。サルト・サーキットから数百メートルという至近距離にある病院で産声を上げた。当然、子どもの頃から24時間レースにも足を運んでおり、ル・マンで3連覇を含む4度の優勝を飾ったフランスの英雄、アンリ・ペスカローロに憧れた。また、彼の父はモータースポーツ好きで、競技にも参加。1980年代後半には、パリ・ダカールにもドライバーとして数回出場したそうだ。
その父の影響もあり、前述のように12~13歳でカートを体験したのだが、それとほぼ時を同じくして乗馬も経験。当時の彼は、乗馬に対してさらに強い興味を持ち、熱中したのだった。そこから本格的に競技に取り組み、最終的にはフランス・ナショナル・チームのメンバーにまで上り詰めている。少し時期がズレていたら、今年のパリ・オリンピック代表選手だったかもしれない。“初老フランス”のメンバーとしてヴェルサイユを疾走していたかも知れないのだ。
さて、そんなロバンの現在の本業は、不動産業。父や叔母、姉とともに、ル・マンにある同族会社で働いている。
●イアン・ジェームス
#27 ハート・オブ・レーシングチーム/アストンマーティン
ハート・オブ・レーシングチームのアストンマーティン・ヴァンテージAMR GT3をドライブしているジェントルマンが、50歳のイアン・ジェームスだ。ジェームスの人生は、つねにモータースポーツとともにあった。
イギリス生まれ、イギリス育ちのジェームスは、18歳の頃からジュニア・フォーミュラに参戦。フォーミュラ・ヴォクソール・ジュニアを皮切りに、イギリスF3やフォーミュラ・パーマー・アウディなどにも参戦している。ただし、トップクラスのフォーミュラレースまで到達することはできず、カテゴリーを耐久レースにスイッチ。20代でアメリカに移住した後は、GTカーやプロトタイプを年に数回ドライブして腕を磨いた。
一方、ドライバーとして活動するとともに、レーシングチームに就職。そこでマネージャーとしてチーム運営のノウハウを学んでいる。そして10年前、自身のチームであるハート・オブ・レーシングを設立。代表としてチームを躍進させようと忙しく仕事をする傍ら、他チームでドライバーとしても活動する。2020年からは、自らのチームでステアリングを握り、IMSAを中心に活動してきた。
今年のWECにも、チーム代表兼ドライバーとして出場しているジェームス。「50歳だしブロンズドライバーということで楽しんでいるよ」と笑顔を見せる。来年は、アストンマーティンがハイパーカーにデビューする。その運営もハート・オブ・レーシングが担当することになっており、彼はチームプリンシパルという重要な役割をこなすことになるが、引き続きドライバーとしても出場するのか。興味は尽きない。