更新日: 2024.12.20 22:44
佐藤琢磨への“直訴”も結実、海外挑戦の太田格之進が抱く『その先の夢』。LMP2で追加参戦の可能性も
12月11日、都内で行われた『2025 Honda Racing 四輪レース体制発表会』にて、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権GTPクラスへの参戦が明らかとなった太田格之進。アキュラARX-06をドライブし、シリーズ開幕戦かつ最大のイベントであるデイトナ24時間レース、さらにワトキンス・グレン6時間、インディアナポリス6時間という3つのレースへの出場が明らかとなったが、会見後の取材では参戦決定への経緯や2025シーズンのIMSAへのさらなる出場可能性、そして将来に描く夢などが太田の口から語られた。取材に同席した佐藤琢磨HRCエグゼクティブアドバイザーのコメントも交えながら、お届けする。
■伝え続けていた海外への想い
記者会見の壇上で琢磨アドバイザーは、太田が早くから海外挑戦の意思を周囲に伝えていたと明かした。
「自分は2019年からスクールを見ていますが、彼は2018年のスカラシップ生だったということで、じつは2019年を通してかなり注目している選手でした」と琢磨アドバイザー。2019年といえば、太田にとってはFIA F4への参戦初年度だ。
「2019年の終わりだったと思いますが、僕の出るイベントを聞きつけた彼が自ら連絡をしてきて、『どうしても時間を作って欲しい』というとで、個人的に相談を受けました。そこで『とにかく世界に行きたいんだ』と、ものすごいアピールを受けたんですね。本当に初々しく思いながらも、ずいぶんとしっかりと考えを持ったドライバーだなと思いました」
太田自身は、この琢磨アドバイザーへの“直訴”が発端という認識ではなく、キャリアを始めてから常に「上を目指す気持ちは誰にも負けない」と思い、海外を意識しながらやってきたという。思い描いていたのは、やはりF1だったのだろうか?
「あまりどのカテゴリーというのは決めてなくて、世界的に認識されているカテゴリーでやりたい、という感じでしたね。事あるたびに『何かないですか?』『何か(海外に)行けないっすか?』と言い続けてはいました」と太田。
もちろん、“ただ言うだけ”ではなく、努力も重ねてきた。幼稚園からインターナショナルスクールに通っていたことで英語でのコミュニケーションには覚えがあったが、スーパー耐久に海外チーム(クラフト・バンブー・レーシング)から出場することで、レースの中での生きた英語、必要とされるコミュニケーションも磨いていった。
2023年にスーパーフォーミュラにステップアップした太田にとって、転機となったのは最終戦での初優勝だった。時を同じくして、アメリカでのレース活動を担ってきたHPD(ホンダ・パフォーマンス・デベロップメント)が『HRC US』と社名変更・リブランドされたことで、日本のHRCとのつながりも強化された。琢磨アドバイザーも後述するように、スポーツカーレースの最高峰を戦うARX-06に誰か日本人ドライバーを、となったときに、自然と太田の名前が浮上する流れはできていたと言える。
■「いまだに涙が出る」2017年インディ500
太田にとっては悲願の海外挑戦が決まった形だが、「まったくゴールだとは思っていない」と、本人は“その先”を見据えている。
「チーム(メイヤー・シャンク・レーシング)はインディカーもやっていますし、僕としてもル・マンだとか、インディ500だとか、ここまで来たからには、そういうところまで行き切らないとダメだと思います」と語る太田の目つきは力強い。
「2017年の、琢磨さんが勝ったインディ500。いまだに、あのレース見ると涙出るくらい感動するんですよ。やっぱり、やりたいのはあれなんです。(勝ったら)一生、言えるじゃないですか。世界三大レースで勝ちたい。それはドライバーなら誰しも心の中にあることだと思うんですけど、いま自分はそこにどんどん近づいて行ってるなと」
さらに太田は、自身のキャリア形成を超えた、海外挑戦の『もうひとつの大きな理由』も口にした。
「レースファンじゃない人でも、その名前を知っているということですね。スーパーフォーミュラもスーパーGTもいま盛り上がってますし、認知度も上がっていると思いますけど、やっぱり『デイトナ24時間』『ル・マン24時間』『インディ500』『F1モナコ』といったイベントは、別(格)の認知があると思うので、そういったレースのひとつに出られるのは本当に名誉だと思っています」
すでに11月のIMSA公式テストの時点で速さは見せることができており、「あとはエマージェンシーだとか、何か起きたときのルールとか、スイッチ類の操作だとか、そのあたりのエラーを減らしていく方向になると思う」とデビュー戦に向けた現状を冷静に語る太田は、今週のスーパーフォーミュラ鈴鹿テストの後、またも渡米してテストに参加するという。
ただし、これはテスト規制の厳しいLMDhカーではなく、LMP2車両でのものになる。
さらに、2025年のアキュラARX-06での出場レースはこの日発表された3イベントのみだが、それ以外もLMP2クラスから出走するレースが予定されている模様。3月のスーパーフォーミュラ開幕翌週に行われるIMSA第2戦セブリング12時間レースにも、LMP2クラスに出場する可能性があるようだ。出場チーム等は、追って発表されるだろう。
「もちろん結果は求めつつも、来年はアメリカという土壌に慣れつつ、サーキットの習熟など、いろいろな意味で“成長どころ”ですね」と太田は2025年に始まる挑戦を広い視野で捉える。
「それがまた再来年以降につながってくると思うし、僕としてはそんなに焦っているわけでもなく、短期的なゴールというよりはある程度中長期的にプランを組み立てて、やっていきたいと思っています」