6月14~15日に決勝レースが行われる今季2025年『第93回ル・マン24時間レース』のハイパーカークラスBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)が発表された。WEC世界耐久選手権のハイライトに位置づけられるレースに向けた調整は、前年の同イベントでの変更と比べ比較的小さい印象だ。
8日(日)の公式テストデーに先立ち、5日(木)に発表されたこのBoPテーブルでは、昨年サルト・サーキットでレースを戦った7台のうち、1台を除く全車において、ベースパワーは大幅に変更されているものの、最低重量はほぼ変わっていないことが示されている。
ル・マンのBoPは、WECの通常ラウンドで使用されているシステムの外にあるため、先月のスパ6時間レースでの調整値との直接の比較はできない。これらの値は、実際のレースデータではなく、主にシミュレーションから算出されたものだ。
499Pで3連覇を目指すフェラーリの最低重量1042kgは前年から1kg減。最高出力はパワーゲインのしきい値である250km/hを下回る状態で、7kW増の515kWとなっている。
これはクラス全体で見ても顕著なパワーアップのひとつであり、キャデラックVシリーズ.Rは8kW増の517kW、アルピーヌA424は10kW増の517kW、そしてトヨタGR010ハイブリッドは12kWアップでクラス最高の520kWが認められた。
そのトヨタの最低重量は2024年同じく1053kgだ。グループ内ではキャデラックとアルピーヌのみ重量が増加し、それぞれ1kg増の1037kgと1039kgの設定に。昨季はトップスピードに苦しんだポルシェ963は1kg軽量化されて1041kgとなったが、511kWの最高出力は前年から変わっていない。
重量面で大きな違いを見せているのはプジョー9X8で、競争力が著しく低下した昨年のレースから1039kgへと8kg引き下げられた。一方、ベース出力は1kW低下し507kWとなった。これによりプジョーはパワーゲインのしきい値を下回る領域でのパワーがもっとも低いクルマとなっている。9X8に続くのが1039kgの重量を維持するBMW MハイブリッドV8で、ベース出力は510kWとされた。
しかしBMWは、パワーゲインがプラスに設定されたわずか2台のうちのひとつだ。MハイブリッドV8の出力は時速250kmを超えるとクラス最高の520.2kW(2.0%増)に上昇し、同じくプラス設定のポルシェは518.2kW(1.4%増)でこれに続いている。
フェラーリはしきい値を超えると2.9%(14.9kW)のパワーを失い、499Pは250km/h以上の領域でもっとも非力なクルマとなる。プジョーは1.2%(9.2kW)のマイナス設定により高速域での出力が2番目に低い。この他、アルピーヌA424は1.7%、トヨタは1.3%、キャデラックVシリーズ.Rは0.8%の減少となる。
ノンハイブリッドのV型12気筒エンジン搭載車であるアストンマーティン・ヴァルキリーは、ル・マン24時間レースデビューにあたり、クラス最低重量となる1030kgを受け取った。ベース出力は520kW、パワーゲインはマイナス0.8%となっている。
■アメ車勢の戦闘力がアップ
LMGT3クラスのBoPでは、シボレー・コルベットZ06 GT3.Rとフォード・マスタングGT3が最大の勝者となり、どちらも昨年のレースと比較して出力の増加と軽量化が認められた。
昨年このクラスに出場した7台すべてが今回はより軽い車重でレースに臨むが、コルベットとマスタングの2車種のみ200km/h以下のベース出力も向上している。
アメリカを代表するふたつのモデルは、どちらもP1(理論上の最大出力より1%低い値)が設定された。昨年はそれぞれコルベットがP4、マスタングがP5だった。
しかし、コルベットのパワーゲインは昨年のマイナス2%に対して4.6%のマイナスに。マスタングはプラスマイナス0だ。
最低重量を確認すると、コルベットの車重は2024年のレースから14kg減の1333kg、マスタングは9kg減の1318kgとなった。マスタングより軽いのは1315kgのポルシェ911 GT3 Rのみだが、ディフェンディングウイナーである同車はベースパワーがP3からP4に落とされている。
レクサスRC F GT3もパワーアップと軽量化の両方を手にしたが、重量の変更はわずか1kgで調整後の値は1354kgだ。ベースの出力はP4からP2となり2%増加した一方、パワーゲインは前年の0.0%からマイナス3.7%へと減少している。
LMGT3クラスでもっとも重いのは、この2025年に26年ぶりのル・マン復帰を果たすメルセデス・ベンツのマシンだ。C9を想起させるシルバーのトリビュートカラーをまとう3台のメルセデスAMG GT3エボは1360kgで24時間レースを戦っていく。