マイク・コンウェイ、小林可夢偉、そしてニック・デ・フリースが勝利の喜びを口にするすぐ横で、平川亮の唇は真一文字に結ばれ、なんとか感情を押し殺しているようにも見えた。
各クラス3位までのドライバーが出席するル・マン24時間のレース後記者会見は常に、勝者の達成感に満ちた表情と、栄光にあと少し届かなかった敗者の無念が同居する、残酷な空間だ。トップから4位までがわずか32秒という大接戦となった2026年は、なおさらそのコントラストが際立っているように感じられた。
ブレンドン・ハートレー、そしてセバスチャン・ブエミを含めた8号車TR010ハイブリッドの3人は、チームとしてル・マンに勝てたことの喜び、そして優勝した7号車クルーへの祝福をそろって口にしたが、「同時に少しの悔しさもある。複雑な心境と言える」(ハートレー)、「もちろん、8号車サイドとしては少しがっかりしている。レースに勝つチャンスがあると思っていたからね。少しの運も必要なんだ」(ブエミ)と、3位という結果に対する正直な心境も吐露した。
会見後、ミックスゾーンに姿を現した平川に、まずはフラットに「今の気持ちは?」と聞くと、意外にも明るい声色が返ってきた。
「(7号車が)勝てて本当に良かったなと思います。昨年悔しい思いをしてから1年間、このル・マンのために頑張ってきたので。勝てるのは1台だけで、それが今回は僕たちではなかったですけど……」
深夜のフルコースイエロー時には、システムがうまく作動しなかったことが速度違反につながり、ドライブスルーペナルティを受けた。また、夜が明けてからは左フロントのブレーキドラム取り付け部に緩みが生じて交換が必要となり、順位を落とす場面もあった。
それでもセーフティカー導入もあり、終盤まで勝利のチャンスを手にしていた8号車陣営。最終的には、「戦略的にうまくハマらなかった」と平川は振り返った。
「ペースに関しては、コンディションやタイヤによって違いがありました。ドライブスルーや、左フロントブレーキのパーツが壊れたりはしましたけど、最後にまたセーフティカーでチャンスが巡ってきたかな、と。ただ、戦略を2台で分けた部分もあって、(8号車としては)うまくハマらなかたった。そこはしょうながないのかな、と思いますけども……」
8号車としてはタイヤを変えずに前に出ることで、20号車BMW Mハイブリッド V8を抑え、7号車をサポートする場面もあった。「結果的に7号車と20号車のギャップを作ることもできました。そこはチームワークでしたね」。
トヨタ・レーシングは今回のレースウイーク、完全な形での予選アタックシミュレーションを行わず、決勝に向けたセットアップに集中してきた。
可夢偉と平川が担当したハイパーポール1では、それぞれトラックリミット違反とトラフィックにアタックを阻まれたことで7号車が14番手、8号車は15番手にとどまったが、準備してきたとおりに決勝で好ペースを見せたことについて、平川は次のように語っている。
「レースに向けてやってきたのですが、まだそれでも全然足りなかった感じはします。もちろん、予選でもっと前に行っていた方がいいというのはあるかもしれませんが、(決勝がスタートして)1時間も経ったら(順位は)ぐちゃぐちゃになるので、予選はあまり関係ないかもしれないと思いつつ……」
戦前より、レースのキーファクターとして開幕戦から新たなスペックが投入されているミシュランタイヤが挙げられていたが、平川は「レースをやっている中で、結構学べました。この新しいタイヤがちょっと難しいというのは、誰もが言っていますね」と、理解が進んだ面もあったようだ。
マシンにアップデートを投入して戦った2026年のル・マン。その成果について「まぁそこは勝ったので、このプロジェクトに取り組んできたみなさんに、『おめでとうございます』『ありがとうございます』と言いたいですね」と最後までチームの優勝を讃え、感謝を口にした平川。もちろんその言葉に嘘は感じられなかったが、同時に物足りなさも滲んでいた。悔しさは、“次の一年”へと向かう活力となるはずだ。


