新たなスローガン『For the Engineering Race』を掲げ、2026年のル・マン24時間レースに挑んだ新生TOYOTA RACING。4位までが33秒以内という大激戦を制したのは、7号車TR010ハイブリッドのマイク・コンウェイ/小林可夢偉/ニック・デ・フリース組だった。
セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川組の8号車も一時は首位争いに絡み、最終的には20号車BMW Mハイブリッド V8を挟んで3位表彰台に登壇。トヨタは2台がともに表彰台に立つという、好結果を手にすることになった。
彼らの勝因はどこにあったのか。新スローガンのとおり、そこにはエンジニアリング面で3つの重要なポイントがあったように思われる。
■「マイルドで、攻められる」TR010ハイブリッド
ひとつ目のポイントは、マシンのアップデートに成功したことだ。2025年のル・マンでパフォーマンス不足に直面した彼らは、規則上許される“ジョーカー”制度を使ったマシンのアップデートを敢行。GR010改め『TR010ハイブリッド』と命名された改良型では、フロントおよびリヤ部分を中心としたエアロダイナミクス(空力)、そして駆動系に大きな変更を受けた。
昨年まではややピーキーな面も併せ持つクルマだったというが、この改良によりだいぶマイルドな特性となり、ドライバーにとって扱いやすいマシンに進化したという。
「ダウンフォースが安定して出る領域が広くなっているイメージもありますし、ブレーキの部分も含めて自信を持っていけます」とル・マンのレースウイークを前に平川はポジティブな印象を口にしていた。
「昨年は、フロントホイールがロックしてしまうとそのままどこかに飛んで行ってしまいそうでしたが、今年はロックしたとしてもコントロールができるクルマになっています」
平川は2026年の開幕戦イモラで、トップからわずか0.011秒差の予選2番手といきなり気を吐いたが、そこまで“攻めていけるマシン”に仕上がっていることが、大接戦となったル・マンでもドライバーたちの味方となったことは間違いない。
■F1チームにも似たサポート体制を構築
ふたつ目のポイントは、エンジニアリング面のサポート体制の充実だ。WECではサーキットの現場で働くスタッフの人数に規則上の制限があるが、TOYOTA RACINGではレースウイーク中、東富士やドイツ・ケルンの拠点で行う分析やシミュレーションを強化。この強靭なリモート体制が、2026シーズンの好調のひとつの要因となっている。
「エンジニアリング体制の拡充はチームとして大きなテーマでしたし、今年は日本からも大きなサポートをいただき、だいぶ大きなステップを踏めたかなと思います」と説明するのは中嶋一貴チームディレクター。
通常のWECのレースでは、現地と日本の時差も活かしながら、現地が夜の間に日本で検証作業を進め、その『答え』が現地時間の朝までに届く。そして、東富士のエンジニアの多くが現場にいるル・マン期間中は、ケルンが“遠隔サポート”の中心となった。テストデーからレースウイークまでの2日間にも、ケルンでシミュレーター作業にあたったエンジニアとドライバーがいたという。
「クルマのセットアップや、いろいろな部分の改善のスピードサイクルを上げることができるようになりました。いかに早くテレメトリーのデータを分析し、現場のエンジニアやドライバーにフィードバックをしていくか。WECは近年、そういった部分が重要になってきていて、要はF1チームにやり方が近くなってきているんです」(一貴チームディレクター)
このあたりは、ハースF1チームとの提携を通じてその重要性やノウハウを認識した側面もあるのかもしれない。
実際、平川も「エンジニアリングに対してドライバーがフィードバックしたとき、いままでは時間がかかっていたことも、ものすごく短期で改善してくれることが多くなりました。そこはクルマだけでなく、人的リソースという意味でもかなり強化されていますね」と指摘しており、体制強化によるチーム力の向上を実感しているようだった。



