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コラム ニュース

投稿日: 2020.05.29 11:43
更新日: 2020.06.16 18:00

2015年ル・マン24時間、ニッサンが犯した“アメリカで製造するという過ち”【日本のレース通サム・コリンズの忘れられない1戦】

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コラム | 2015年ル・マン24時間、ニッサンが犯した“アメリカで製造するという過ち”【日本のレース通サム・コリンズの忘れられない1戦】

 スーパーGTを戦うJAF-GT見たさに来日してしまうほどのレース好きで数多くのレースを取材しているイギリス人モータースポーツジャーナリストのサム・コリンズが、その取材活動のなかで記憶に残ったレースを当時の思い出とともに振り返ります。

今回は2015年にWEC世界耐久選手権第3戦として開催された第83回ル・マン24時間レース。アウディ、ポルシェ、トヨタがしのぎを削ったLMP1クラスにニッサンがGT-R LMニスモで参戦した大会です。コリンズは特にGT-R LMニスモの製造品質に衝撃を受けたようです。

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 2015年のル・マン24時間はアウディ、ポルシェ、トヨタがつねに激しい戦いを繰り広げ、まさにスリリングなレースとなった。しかし、メディアの注目の大部分はもうひとつのマニュファクチャラーの取り組みに注がれていた。ニッサンの取り組みに、だ。

 ニッサンによるスポーツカーレース最高峰への復帰は、大々的なプロモーションが行われた。2012年に行ったデルタウイングとのプロジェクトがどれだけメディアの注目を集めたかを認識したニッサンは、新マシンについても従来の枠に縛られない形にすると決めた。

 同時にメディア対応についても他社とはまったく異なるアプローチを取ることにした。厳格な秘密主義をとるドイツのマニュファクチャラーと違い、ニッサンはすべてをオープンにし、メディアやファンをガレージに招き、公に開発を行なったのだ。当時、これは非常に新鮮な取り組みであり、後にほかのマニュファクチャラーも追随することになった。

 そんなニッサンの取り組みの一環として、私はニスモが展開するレース番組『NISMO TV(ニスモTV)』の司会を務めるよう依頼された。その番組ではピットレーンやガレージを映すだけでなく、3台のGT-R LMニスモに装着されたオンボードカメラの映像を放送することになっていた。

 その模様はYouTubeを通じてライブ配信された。だが配信自体はレースのみをカバーしていたので、私は英語放送のコメンテーターを務めつつ、雑誌やモータースポーツ系ニュースサイトのレポーターとしての仕事も行った。

 また、あの年はLMP2クラスに童夢S103で参戦していたストラッカ・レーシングとも少し仕事をしていた。彼らはチームのプレスキットやプレスリリースについて力を借りたいと言ってきたのだ。

 当時チームが組んでいた広告代理店は童夢のことや、私の個人的な知り合いである鮒子田寛さんのような重要人物をあまり知らなかったからだ。ストラッカとの仕事は楽しいものだったが、ル・マンに向かうころには役目を終えたので、私はストラッカ・童夢チームの幸運を祈った。

 童夢は開発面で困難に直面しており、2014年は多くのレースに出場できず、デビューを飾ったのは2015年になってからだった。ただ童夢が直面したトラブルも、さらに問題を抱えたGT-R LMニスモと比べれば些細なものだった。

 さて、そのGT-R LMニスモは鳴り物入りで、そしてもっとも注目を集める瞬間にお披露目された。世界でもっとも多くの視聴者を集めるアメリカ最大のスポーツイベント、スーパーボウルでCMを流したのだ。

 スーパーボウルで流れたコマーシャルは奇想天外なシーンの連続だった。なぜ、このコマーシャルのなかでマシンが月面に置かれていたのか、その描写に関する説明はなにもなされなかった。

 そして、このCMでお披露目されたマシンはツインターボV6エンジンをフロントに積んだ前輪駆動車だった。後輪はツインフライホイールのハイブリッドシステムで駆動しされ、四輪駆動を実現する仕組みだ。ハイブリッドシステムはマシンのフロント部分に搭載されていて、マシン中央部に長いシャフトを通し、後輪と複雑に結合されていた。

 マシンデザイナーのベン・ボウルビーがこのレイアウトについて説明してくれた時、私は混乱した。リヤにツインエレクトリックモーターがあった方がシンプルな造りになることは確かだし、扱いもより簡単だろうと私は逆の意見を述べた。

 ボウルビーは私には同意せず、私の言うアプローチだとマシンの重量配分という点で妥協を強いられると語った。

 空力の面でもそのマシンは非常に独特だった。ダウンフォースの大部分を、マシンの前部から後部に通る2本の太いトンネルを通じて生み出していたのだ。私は、このプロジェクトのコンサルティングを務めていた親友のリカルド・ディビラから風洞のデータを見せてもらう機会に恵まれた。

 そのデータを見る限り、マシンのコンセプトが機能していることは明らかだったが、十分に洗練されているわけではなかった。彼は風洞実験でマシンがほぼ反転しかけた様子を、ビデオで見せてくれた。

米国アメリカンフットボールの第49回スーパーボウルのコマーシャルタイムで発表されたニッサンGT-R LMニスモ
第49回スーパーボウルのコマーシャルタイムで発表されたニッサンGT-R LMニスモ

■ニッサンが犯した“大きな過ち”


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