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ル・マン/WEC ニュース

投稿日: 2020.06.01 17:31
更新日: 2020.06.01 17:56

ル・マン24時間で優勝した『マツダ787B』のエンジンを分解。前代未聞の解体ショー顛末記

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ル・マン/WEC | ル・マン24時間で優勝した『マツダ787B』のエンジンを分解。前代未聞の解体ショー顛末記

 1991年ル・マン24時間レース。4ローター・ロータリーエンジンR26B(2616cc)を搭載したジョニー・ハーバート/ベルトラン・ガショー/フォルカー・バイドラー組の55号車『マツダ787B』は、21時間目にトップに立ち優勝。マツダのル・マン挑戦18年/13回目の快挙だった。

 日本車として初めての総合優勝であるとともに、これはロータリーエンジンのル・マン初優勝だった。当時ロータリーにこだわり続けたマツダはその技術をアピールするために、前代未聞のイベントを仕掛けた。優勝車両のエンジンをメディアの前で分解するのだ。

 今回は6月5日発売のauto sport本誌より、このイベント開催に向けて準備をした当時のマツダスピード広報担当三浦正人氏の手記を掲載する。
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 1991年6月23日は、私にとって一生忘れられない一日となった。その年のル・マン24時間レースで、賭け事好きの英国のブックメーカーからマークもされていなかったマツダ787Bが総合優勝を飾ったからである。

 フォトグラファーたちから預かった35mmリバーサルフィルムの束を抱えて月曜日の全日空便に乗り、機中で泥のように眠ったことをよく覚えている。それぼど、前日のゴール以降の時間はクレイジーだった。しかし、成田空港に着いた後も結構なフィーバーだった。写真週刊誌の記者が待ち受け、ハイヤーで成田からオフィスのある勝どきまで送ってくれた。

 道中、ル・マンで何が起きたかを話した。オフィスでは、メディアの人たちからの電話攻勢が待っていた。現代のようにメールやSNSのようなものがない時代だったので、全部片付けて家に帰ったのはすっかり夜遅くだったと思う。その後の数日間も多忙を極めた。

 赤坂プリンスホテルで行う帰朝報告会の準備、銀座通りを787Bでパレードできないかとか、広島に787Bが凱旋したら汚れたまま工場内のミュージアムに運べだの、ファン向けの記念グッズを作ろうとか、販売会社向けの販促キャンペーンを企画するぞといったイレギュラーな話が次から次に舞い込んだ。

 そんななか、787Bが空輸で日本に戻る日程が決まった。その後、帰朝報告会や広島での祝賀会の合間に、マツダ横浜研究所(現在のマツダR&Dセンター横浜)で、到着したばかりの787Bからエンジンを下ろし、ジャーナリストや報道メディアの方々が見守るなか、エンジンを完全分解して中身を全部見せるという広報イベントが組み込まれた。

 ECUからのデータを見れば、各ローターハウジング(気筒)内の圧縮が下がっているようなことはなく、分解してもまったく問題ないとエンジン開発の担当者は胸を張っていた。このイベントを仕切ったのはマツダ東京広報部だったが、思惑としては9月に予定されていた新型RX-7のローンチに花を添える目的があった。

 分解してみると、案の定、エンジンオイルは非常にクリーンで、異物などは一切なかった。シール類の異常摩耗も気筒ごとの異常燃焼の痕跡も見当たらなかった。当時モータースポーツ主査であり、次期RX-7の開発主査を兼任していた小早川隆治さんは、それを見て「みなさん、ご覧ください。R26Bエンジンは、24時間走っても完璧な状態です。あと24時間あってもこのまま走り続けられたでしょう」と話した。私もメディア対応しながら、これは凄いことだと思い、誇らしかった。

 しかし、ロータリー実験畑一筋で、当時はマツダスピードの取締役技術部長だった松浦國夫さんが、「わしはレース屋として、24時間と100m走り切れるエンジンが作りたかった。目的を果たしてフィニッシュした後、命を終える無駄のないエンジンが理想だった」と小声で言ったのを聞き逃さなかった。ふたりのロータリー専門家の、結果に対する評価の違いが面白いと感じた。このおふたりには今でも親しくしていただいている。時々イベントでこの話を持ち出しては、懐かしがっている。

1991年のル・マン24時間レースで総合優勝を果たしたレナウンチャージカラーの55号車マツダ787B
1991年のル・マン24時間レースで総合優勝を果たしたレナウンチャージカラーの55号車マツダ787B

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 6月5日発売のオートスポーツNo.1531号では『ル・マン24時間 名車とテクノロジーの50年史』と題してル・マン24時間レースを特集。本誌ではこのページで掲載した写真のほか、分解中のR26Bロータリーエンジンパーツの画像もお届けしている。内容の詳細と購入は三栄のオンラインサイト(https://www.sun-a.com/magazine/detail.php?pid=11414)まで。


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