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ル・マン/WEC ニュース

投稿日: 2020.10.02 20:36
更新日: 2020.10.02 20:47

【トヨタ ル・マン報告会見】7号車のトラブルはエキマニの溶接部脱落「すごい寂しかった」と小林可夢偉

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ル・マン/WEC | 【トヨタ ル・マン報告会見】7号車のトラブルはエキマニの溶接部脱落「すごい寂しかった」と小林可夢偉

「僕、自分では(トラブルに)気付いてなくて、なんかえらい直線が遅いなと思ったんですよね」(小林可夢偉)

 10月2日、17時。奇しくもホンダがF1参戦終了を発表した記者会見と同時刻に、WEC世界耐久選手権に参戦するトヨタGAZOO Racingはリモート形式での記者会見を開き、9月19〜20日に決勝レースが行なわれたル・マン24時間レースにおける3連覇達成を報告した。

 会見では優勝した8号車TS050ハイブリッドの中嶋一貴、3位に入った7号車の小林可夢偉、村田久武チーム代表、そしてTGR WECチャレンジドライバーとしてLMP2に出場した山下健太が、記者からの質問に答えた。

 冒頭の可夢偉のコメントは、レース開始から12時間、深夜2時半にステアリングを握っていたときの話である。トラブル発覚後の顛末を、可夢偉はこう振り返る。

「チームから『右側のターボがおかしい』と(無線で)言われて。『どうしたらいいの?』と聞いたら、『ちょっと待ってくれ』と言われたんですけど、その間も毎周10秒くらい、タイムが遅いんです」

「そのあと『いま、ターボを準備しているから走っておいてくれ』と言われ、その間は無言なんですよ。すごい寂しくて。10秒遅いし、これ壊れないのかな? って」

 7号車のクルーに完全な実力を発揮する場を提供できなかったことを「痛恨の極み」と表現した村田久武チーム代表からは、そのトラブルの詳細も明かされた。

「エキゾーストマニフォールドの集合部に補強パッチの板が溶接してあるのですが、その溶接部が脱落し、排気ガスが抜け、過給が上がらなくなりました」

「当然、台上でも実際の車両での走行テストでも1万kmの耐久試験をし、クリアしています。だけど、今回7号車の決勝用に準備したエキマニに(トラブルが)出てしまった。すなわち、作ったもののなかで(1万km)もつものもあれば、もたないものもあるということです」

 1万kmといえば、ル・マンの決勝で走破する距離のおよそ倍にあたる。トヨタは2016年の『3分前の悲劇』で、そして3台体制で挑んだ2017年にオペレーションミスによって勝利を失ったあと、「強いチーム」を目標に掲げさまざまな“想定外”に備えた訓練を行なってきた。

 その成果もあって2018年に悲願の初優勝を達成。しかし2019年レース終盤のパンクチャーへの対応や今回のトラブルなど、その後も三連覇の陰でたびたび試練に見舞われている。

「溶接の品質の“抑え込み”がまだまだできていなかった。これだけ一生懸命やってきても、まだできないというのは、本当に奥が深い、もしくは自分たちの実力がまだまだ足りていないということ。そういうことを改めてル・マンに教えてもらったというのが実際のところです」と村田代表は語る。

 7号車はガレージに入れられ、およそ30分をかけて右側のターボを交換、7周おくれで戦線に復帰した。

深夜2時41分、トップを走っていた7号車はガレージに入れられた
深夜2時41分、トップを走っていた7号車はガレージに入れられた

「コースから帰ってきたエキマニもターボも、ものすごく温度が高い状態。排気ガスは通常800℃くらいありますし、金属部分も300℃をゆうに超えています」と村田代表。

「さすがにその状態での訓練はできていませんでしたが、メカニックは耐火手袋から煙が上がるような状況のなか、交換作業をやり切ってくれた」

「その部分に関しては、自分のチームでありながら『本当にこの人たちはプロフェッショナルだなぁ』と。チーム代表が他人事みたいなことを言うなっていう話なんですが、そこはすごく誇りに思いました」

「そのあと12時間、ノントラブルで走り切れたということは、作業は完璧だったということなのでその部分は誇りに思います。ただ、出してしまったトラブルについては言い訳のしようがない。それはここから徹底的に、イチから出直します」

 可夢偉もこのターボ交換作業については、「あのクルマの取り回しと熱を考えたら、1時間くらいかかるかなと思いましたが、びっくりするくらい早かったです」と言う。

「村田さんも言ったように、溶接の部品が壊れるなんてなかなか想像もできないし、もちろんメカニックが誰ひとり手を抜いて仕事をしたわけじゃないのは分かっています」

 真のチームプレーヤーであり、ともに働くスタッフに厚い信頼を寄せる可夢偉らしい発言だ。

「ル・マンに行く前に、(ケルンの)TGR-Eに寄ってシミュレーターに乗ったんですが、そのときにファクトリーでクルマを整備しているところも見て、やっぱり彼らはものすごく気を使ってやってくれてるなと感じたんです」

「だからああいうトラブルが出たとき『起こるべくして起こったのかな』と思いました。これもレースであって、そこからはいい気分ではないけど、ドライバー3人で力を合わせて最大限の力を発揮するということに切り替え、残りのレースを戦いました」

「『なぜまた7号車に?』とは思わなかったか」と記者から問われた可夢偉は、8号車のトラブル(ブレーキダクトにデブリを拾ったことでブレーキ温度が上昇したと村田氏が説明)を引き合いに出し、こう語った。

「8号車に起きたトラブルも、そんなところどうやってデブリが入るの? っていう場所なんです。でもそういうことが実際に起きてしまうのがル・マン。正直なところ、たまたま僕ら(7号車)にちょっとダメージがデカいトラブルが来ただけ……というくらいの感じです」

「もうこれは運だな、というのが正直なところです。そういうことが突然起こるというのが、このレースの過酷さなんだろうなと思います」

 その後、7号車はデブリによってフロアにダメージを受け、空力性能が低下。交換には20分近くかかる可能性があったため、残り8時間ほどをその状態で走ることを選択した。7号車は、最後まで辛い戦いが続いたことになる。

「そんなこともあったので、ル・マンというものは実力とか速さとかではなく、本当にすべてが噛み合わないと勝てないんだなと痛感しました」と可夢偉は総括する。

「でもだからこそ、ル・マンは人を、挑戦し続けたいという気持ちにさせるんだろうなって思いました」

可夢偉の心のなかの、ル・マン制覇を目指す炎は消えていないはずだ
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