11月3日に、今季限りでWEC世界耐久選手権のレギュラードライバーから退くことが発表されたトヨタGAZOO Racingの中嶋一貴。発表から丸1日が経過した4日、第6戦バーレーン8時間レースのFP1走行開始に先立ち、現地バーレーン・インターナショナル・サーキットからリモート形式の会見で、一貴が日本メディアの質問に答えた。
約20分にわたって行われた会見では、勇退発表の背景と今後の活動ついて質問が集中した。
冒頭、前日の勇退発表を受け「非常に残念にしてくださっている皆さんの声もいただいているので、非常に心苦しい面もあるのですが、最後のレースを笑顔で終われるように、優勝目指して最後まで頑張っていきたいと思います」と語った一貴。柔和な表情と明瞭な受け答えは普段と変わらないが、“いつもとは違うこと”を口にするためか、緊張感も漂っているように感じられた。
このタイミングでWECのレギュラードライバーから離れるという決断をした背景について、一貴は次のように説明した。
「僕自身、レースドライバーとして、WECがこれから面白い時代になっていくとは思っているので、そのタイミングで離れることには残念な気持ちはもちろんありますが、トヨタのモータースポーツのなかで若いドライバーを育てていかなければいけない、ちょうどそういうタイミングであるということは理解しています」
「そういう意味では、大きな変革をするタイミングとしては(適切で)、(LMDh規定の採用によりライバルメーカーが増える)2023年からチームがより良い形で戦っていくためには、正しい決断なのかなと思っている部分もあるので……そういうことですね」
記者からの「中嶋選手から引退を申し出たわけではないのか?」との質問については、「その辺は、相談して決めさせてもらったことだと理解してもらえれば、ありがたいです」。
さらに、引退について「自分では(引退の)判断を下せるタイプではなく、先に周囲の状況がそうなってしまうのではないか」という趣旨の発言を過去にしていたことを引き合いに、「今回はその“状況”になってしまったという理解でよいか?」と問われると、次のように回答した。
「トリッキーな聞き方ですね(笑)。ただ、ある意味そのとおりで。ドライバーとしてよっぽどパフォーマンスが落ちてきていれば、さすがに自分で区切りを決められる部分もあるのでしょうけど、自分はわりと優柔不断な性格でもあるので、ある意味では、いろいろな状況によって自分の身の振り方を決める方が、自分の性格にも合っているのかなという部分もあるので」
「もちろん、そういう意味では自分で決めたことでもありますけど、まわりの状況と、まわりの人たちと相談させていただきながら、こういうことになりました、ということですね」
個人のエゴを押し通すのではなく、“トヨタのモータースポーツの将来”を考えた総合的な判断として『勇退』に至った、ということだろう。
また、来季以降に関してはドライバーとして他カテゴリーに参戦する可能性も残しながら、トヨタのなかで若手ドライバーの育成に積極的に関わりたいという意向も語った一貴。一方で、NAKAJIMA RACINGを継ぐ可能性については「あまりない」と述べている。
以下、会見のなかから、WEC勇退に関連した項目について質疑応答のほぼ全文を掲載する。