WEC世界耐久選手権に参戦しているTOYOTA GAZOO Racingのテクニカル・ディレクターを務めるパスカル・バセロンは、2022年シーズンを前に『トヨタGR010ハイブリッド』に行われたアップデートにおいて、メーカーに認められた5つの“エボ・ジョーカー”が使われていないことを明らかにした。
トヨタはセブリングで行われた公式テスト“プロローグ”の1週間前に、アップデートを受けた2022年仕様のハイパーカーを発表。異なるサイズの前後ホイールとタイヤを選択し、空力性能を維持するためにボディワークに修正を行ったことをアナウンスしている。
その際、日本のメーカーがLMHル・マン・ハイパーカー規定によって定められている5つの“エボ・ジョーカー”のうち、ひとつ以上を使用したと考えられていた。しかし、バセロンはその説に異を唱えた。
プロローグテストの直後に取材に応じた彼は、トヨタのアップデートのルーツは、2021年のプラットフォームデビュー前に行われたLMHの技術設計の変更に根ざしていると説明した。
彼によれば、トヨタが行った修正はパフォーマンスの向上というよりも“是正措置”としての意味合いが強く、エボ・ジョーカーに分類されないという。
「2018年12月に検証されたレギュレーションに向け、我々は同年にクルマの開発を開始した」とバセロンはSportscar365に語った。
「以来、いくつかの変更があった。そのひとつは2020年に起こった最低重量の変化で、LMDhとの収束に備えるため1100kgから1030kgへと突然変更されたんだ」
「だが、この変更については、我々は全面的に支持している。コンバージョンスのための条件だったため、それを受け入れた。一方でそれを完全に達成することができなかった。重量配分の点で我々にとっては痛手となった」
「(最低重量が)1100kgの状態であれば、バラストで適正なバランスをとることができたが、それを積めなくなったため当初予定していた重量配分を実現できなかった。昨年、私たちが持っていたタイヤはこの重量配分にまったく適していなかった」
「これは私たちがすべての株主とオープンに議論したことだ。タイヤを交換しなければならなかったのは、考えるまでもないことだった。パフォーマンスを求めただけではないのだ」
トヨタは、フロント12.5インチ、リヤ14インチのホイールサイズに変更することで、重量配分の問題を解決した。それは自然に新しいミシュランタイヤをもたらすことになり、フロントに29/71-18サイズ、リヤは34/71-18のタイヤが採用されている。
「すべてはタイヤの変更がきっかけだ」とバセロン。
「当初の計画よりも重量配分が後ろ寄りになってしまった以上、私たちは正しいタイヤを用意しなければならなかった」
「これを行ったとき、クルマを(指定された)エアロ・ウインドウの中に戻す必要がある。単純に大きなホイールを履くだけだけではうまくいかないんだ」
「そこで我々はエアロ・ウインドウに戻すために最小限のボディワークの変更をしなければならなかった。もっとも労力を費やしたのは空力的な安定性を取り戻すことだった。そのために小さなフィンを用いるなどしている」
「それがパフォーマンスとは関係ない理由だ。(ボディワークの変更は)あくまでもエアロの安定性を回復させるためのものだった」
トヨタは先週、車体側の変更に加え、2022年よりトタルエナジーズから独占供給される100%再生可能燃料の導入に対応するため、GR010ハイブリッドに搭載される3.5リットルV6ツインターボエンジンの最適化を行ったと発表している。