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ル・マン/WEC ニュース [PR]

投稿日: 2022.09.22 10:29
更新日: 2022.09.29 17:25

20年で走行可能距離は“5倍増”。わずか1種類のスリックで熾烈なWECを戦うグッドイヤー「技術レベルは大きく上がった」

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ル・マン/WEC | 20年で走行可能距離は“5倍増”。わずか1種類のスリックで熾烈なWECを戦うグッドイヤー「技術レベルは大きく上がった」

 世界各国からハイレベルなチーム・ドライバーが集結し、激しい戦いが毎レース繰り広げられているWEC世界耐久選手権のLMP2クラス。スタートからゴールまで僅差の争いが続き、勝負の行方が最後まで分からないスリリングな展開により、その存在感は近年高まる一方だ。

 そのLMP2クラスにタイヤを供給しているのがグッドイヤーだ。2019年、WECに復帰した彼らは、2021年シーズンからは単一サプライヤーとしてLMP2クラスにタイヤを供給している。グッドイヤーはなぜ新たなるチャレンジの場としてWECを、そしてLMP2というクラスを選んだのだろうか。

 その理由について、レース・プログラム・マネージャーのマイク・マクレガー氏は次のように語る。

「コンペティションと技術の両面において、とてもハイレベルなレースだからです。LMP2にはフォーミュラEのチャンピオンや元F1ドライバーが多く出場していますし、チームのエンジニアリングレベルも非常に高い。私はかれこれ20年ほどレースに携わっていますが、その昔スポーツカーレースにエンジニアはひとりしかいませんでした。しかし、今はチームによっては14人もいます」

「そのような高いレベルのレースであるからこそ、最高の性能と安定性を両立するタイヤを開発し供給するメリットは非常に多く、それがWECへの復帰を決断した大きな理由のひとつです」

富士スピードウェイのパドックに設けられたタイヤサービスで組み付け等を行うグッドイヤーのスタッフ
富士スピードウェイのパドックに設けられたタイヤサービスで組み付け等を行うグッドイヤーのスタッフ

■「F1なら2レース分以上」の距離を悠々と走破

 グッドイヤーがWECに復帰した2019年のLMP2はマルチメイク・タイヤの時代であり、技術競争が非常に盛んだった。やがて2021年シーズンからワンメイクとなったが、アプローチや技術面に関して何か変化はあったのだろうか?

「開発競争があった時代は、レースごとにより良い結果を得るべく集中して性能向上に取り組み、我々の技術レベルも大きく上がりましたし、そこでライバルに対して勝利を収めることができたのは非常に光栄なことでした」

「しかしワンメイクに移行することになり、タイヤに求められる要素は大きく変わりました。当初はスリックで3種類、ウエットで2種類のコンパウンドを準備していたのですが、現在スリックは1種類だけです」

「3月の暑いフロリダ(セブリング)、一般道もあり長距離を走るル・マン、涼しい秋の富士、砂漠のバーレーンなど、気温も路面も大きく異なるサーキットを1種類のスリックで戦わなければならないのです。そのすべてのサーキットでベストなパフォーマンスと高い安定性を両立させることができるタイヤを作り上げるのは、以前とはまた大きく異なるチャレンジでした」

ル・マンの長い直線区間は一般公道。LMP2車両でも、最高速は330km/hに達する過酷な世界だ
ル・マンの長い直線区間は一般公道。LMP2車両でも、最高速は330km/hに達する過酷な世界だ

 タイヤワンメイクの時代には、自由開発競争とは違うアプローチと、高い技術力が求められると、マクレガー氏は強調する。

「2000年に耐久レースを戦っていた時代は、1スティントにつき1セットのタイヤを使っていましたが、それが今では1セットで5スティントを、安全性を確保した上で走り切ることができます。それはF1でいうと2レース分以上の距離に相当し、サスティナビリティの面でも非常に意味があることです」

「しかし、それによってグリップ性能が大きく落ちるようなことはあってはならず、開発競争があった時代のパフォーマンスレベルを維持しながらも、高い耐久性と幅広い対応力、そして品質の安定性を確保することに、大きなやり甲斐とプレッシャーを感じています」

レース中、ピット作業では“念のため”毎回タイヤが準備されるが、交換作業はされないことも多い。1セットのタイヤで何スティントも連続走行ができるからだ。
レース中、ピット作業では“念のため”毎回タイヤが準備されるが、交換作業はされないことも多い。1セットのタイヤで何スティントも連続走行ができるからだ。

 マクレガー氏によれば、条件が大きく異なるサーキットを1種類のスリックのみでカバーするのは、想像以上に困難なことだという。たとえばセブリングはバンピーなだけでなく、路面が39回も変わり、ル・マンでは公道区間で道路補修が頻繁に行われているにも関わらず、そこをレースで走ることができるのは年に一度だけだ。

「確かに難しいチャレンジですが、ワンメイクになって良かった面も少なくありません」と述べるのは、カー・モータースポーツ・セールスマネージャーのマティアス・キッブ氏。

「マルチメイクの時代は、ライバルよりも高い性能のタイヤを開発することが何よりも重要でしたし、各チームからのプレッシャーも相当なものでした。しかし、ワンメイクとなったことで開発のサイクルはやや穏やかになり、入念に開発をした、より高品質で信頼性の高いタイヤを供給することができるようになりました」

現在のWEC・LMP2クラスには世界トップレベルのチームやドライバーが集結している。
現在のWEC・LMP2クラスには世界トップレベルのチームやドライバーが集結している。

■インターミディエイトを廃したのは「技術の進化」の証

 サスティナビリティという点では、今シーズンからインターミディエイトを廃止し、スリックとフルウエットの2種類のタイヤのみ供給していることにも注目すべきだろう。

「技術の進化により、ウエットからドライまで広いレンジをカバーできるようになった結果です。昨年のル・マン24時間のスタートはレインコンディションとなり、何チームかはインターミディエイトでスタートしましたが、その後ピットに入りウエットタイヤに交換してレースに戻りました」

「一方、ウエットでスタートしたチームは何も問題なくスリックに移行することができたのです。そういった実績もあって、インターミディエイトを廃止することをチーム側も受け入れてくれました」とマクレガー氏。

今季、グッドイヤーは雨量が少ない時向けの『インターミディエイト』を廃し、雨用タイヤを1種類に統一した。
今季、グッドイヤーは雨量が少ない時向けの『インターミディエイト』を廃し、雨用タイヤを1種類に統一した。

 また、供給するタイヤ本数や種類が少なくなれば「その分だけ輸送時の二酸化炭素排出量も減ります」とキップ氏は付け加える。

「そして、対応幅の広いタイヤを開発するための技術は、市販車用タイヤの開発にとっても非常に有効です。WECへのタイヤ供給によって開発技術のレベルは大きく上がりますし、それを市販車用のタイヤにも活かすことができるのが、我々にとってWECに出場する大きなメリットなのです」

 モータースポーツ・マーケティング・マネージャーのトニー・ウォード氏は「技術的なショーケースであるだけでなく、マーケティング面でもWEC参戦は大きな意味があります」と、別の面から参戦の意義を述べる。

「WECの主催者は、テレビや雑誌など伝統的な媒体だけでなく、ソーシャルメディアとの連携にも長けていて、地域やプラットフォームごとにアプローチを変え、さまざまな視聴者を取り込んでいます。たとえば、彼らが最近立ち上げたYouTubeの新シリーズもそのひとつで、これはとても素晴らしい試みです。我々は彼らと連携し、シリーズのパートナーとして一緒になってシリーズを盛り上げ、マーケティング価値を最大化しようとしているのです」

富士スピードウェイでの第5戦では、ピットロードにもグッドイヤーのロゴが。単にタイヤを供給するだけでなく、シリーズとともにマーケティング価値を最大化しようとしている。
富士スピードウェイでの第5戦では、ピットロードにもグッドイヤーのロゴが。単にタイヤを供給するだけでなく、シリーズとともにマーケティング価値を最大化しようとしている。

 LMP2クラスへの単一供給メーカーであるからこそ、市販車用タイヤへの技術的フィードバックも行いやすく、サスティナビリティを重視したアプローチもスムーズに進めることができる。そして、WECが多くのファンや潜在的カスタマーに情報発信できる仕組みを築いていることも、グッドイヤーにとっては大きな魅力となっているようだ。

「我々はWECのファミリーの一員であるという意識を常に持って働いていますし、この仕事に誇りと大きなやり甲斐を感じています」と、マクレガー氏。来シーズン以降、さらに多くの注目を集めるであろうWECにおいて、グッドイヤーは、タイヤ・サプライヤーとしてより重要な役割を担っていくことになるだろう。

WEC富士戦で取材に応じていただいた、(左から)マイク・マクレガー氏、トニー・ウォード氏、マティアス・キップ氏と、日本グッドイヤーの高木祐一郎マーケティング部長
WEC富士戦で取材に応じていただいた、(左から)マイク・マクレガー氏、トニー・ウォード氏、マティアス・キップ氏と、日本グッドイヤーの高木祐一郎マーケティング部長


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