更新日: 2023.01.01 23:17
フェラーリ、ポルシェ、BMWなどが新規参戦。2023年、耐久レースは黄金時代に突入【WEC/IMSA最新状況まとめ】
2023年は世界三大レースのひとつであるル・マン24時間レースの100周年大会が開催されるメモリアルイヤーだ。同時に耐久の雄ポルシェ、かつてル・マンを席巻したフェラーリ、北米選手権からグローバルシリーズに進出するキャデラックなどの自動車メーカーが、ル・マン/WEC世界耐久選手権のハイパーカークラスに新型マシンを投入することから、プロトタイプレースにおける“黄金時代”の再来を予感させる年でもある。
また、アメリカを中心に開催されているIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権では、WEC/ル・マンにも出場可能なLMDhという新しい車両規則が導入される。2022年のIMSA最高峰クラスには、アキュラとキャデラックが参加していたが、新シーズンはここにポルシェとBMWが加わり一層激しい戦いが繰り広げられることになる。本稿はそんな2023年のプロトタイプカー事情をまとめたもの。今月28~29日に開催されるIMSA第1戦デイトナ24時間レースや、3月にセブリングで行われるWEC開幕戦を迎えるにあたって事前情報の整理に役立ててほしい。
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■LMDhがついに発進! LMHとの対決も実現
2021年からWECのハイパーカークラスで採用されているル・マン・ハイパーカー(LMH)規定の導入から遅れること2年、サプライチェーンの遅延問題などもあり当初の予定から1年遅れてIMSAの新プラットフォーム、LMDhがデビューする。
北米のウェザーテック・スポーツカー選手権を運営するIMSAが、ACOフランス西部自動車クラブと共同で作り上げた同規定は2017年から2021年までの間、同シリーズの最高峰カテゴリーで採用されてきたDPi規定に代わるものだ。LMP2ベースのクルマにブランドごととオリジナリティを出すため、自動車メーカーが規定の範囲内でカウルデザインを変更できる点や、自社製エンジンなどに載せ替えることが可能な点が旧規定から引き継がれた一方、LMDhはモーターアシストを備えるハイブリッドカーとなったことがDPiとの大きな違いとなっている。
また、DPi車両がIMSA専用マシンだったのに対し、LMDh車両はル・マン24時間の運営団体であるACOとIMSAのパートナーシップの下で誕生したプラットフォームであることからル・マンへの出場が可能に。同時にWECハイパーカークラスに参戦することも可能になった。反対に、すでにWECの最高峰クラスで走っているLMHカーについても、メーカーがIMSAの商業条件に合意すれば北米シリーズに参加することができる。
■WEC世界耐久選手権/IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権
プロトタイプカテゴリー参戦・参入予定メーカー
参戦開始 | メーカー | シリーズ | プラットフォーム | マシン |
---|---|---|---|---|
2021 | トヨタ | WEC | LMH | トヨタGR010ハイブリッド |
2021 | グリッケンハウス | WEC | LMH(ノンハイブリッド) | グリッケンハウス007 LMH |
2022 | プジョー | WEC | LMH | プジョー9X8 |
2023 | フェラーリ | WEC | LMH | フェラーリ499P |
2023 | ポルシェ | IMSA/WEC | LMDh | ポルシェ963 |
2023 | キャデラック | IMSA/WEC | LMDh | キャデラックV-LMDh |
2023 | ヴァンウォール | WEC | LMH(ノンハイブリッド) | ヴァンウォール・バンダーベルLMH |
2023 | イソッタ・フラスキーニ | WEC | LMH | ? |
2023 | アキュラ | IMSA | LMDh | アキュラARX-06 |
2023 | BMW | IMSA/WEC(2024) | LMDh | BMW MハイブリッドV8 |
2024 | ランボルギーニ | IMSA/WEC | LMDh | ? |
2024 | アルピーヌ | WEC | LMDh | ? |
■初年度からカスタマーカーも登場
トヨタGR010ハイブリッドやプジョー9X8などのLMHカーがパワートレインを含めてクルマを一から設計・開発するの対し、LMDhカーはオレカ、ダラーラ、リジェ、マルチマチックの計4社がそれぞれ製造する次世代LMP2カーをベースに新しいプロトタイプカーを製作する。このため後者は開発コストを抑えることが可能だ。また、パワートレインの電動部分も後輪を駆動させる共通ハイブリッドシステムを使用するため、この点でも主に自社開発のパワートレインを搭載するLMHカーと比べてリソースを節約できる。
LMDhはこうした製造コストの面と、共通ハイブリッドを採用することによる運用面の敷居の低さで優れているのが特長だ。自動車メーカーにとっては一定レベル以上のクルマを安価で製造することができるうえに、伝統のル・マンへの挑戦、巨大市場アメリカでの露出拡大が望めるなどいいことずくめ。これを裏付けるように、2023年に登場するポルシェとBMWに続き、2024年に向けてランボルギーニとアルピーヌがLMDhプログラムを計画するなどメーカーの参入が相次いでいる。
なお、ポルシェに関してはペンスキーが走らせるワークスカーに加えて、参入初年度からカスタマーカーを展開する。組み立てに係るサプライチェーンの問題からシーズン途中からの導入となる予定だが、3つのカスタマーチームに計4台のクルマを供給するとしている。
■LMHでフェラーリ・プロトタイプが登場。半世紀ぶりにル・マン復帰へ
一方のLMHでは昨季2022年途中からの参戦となったプジョーに続き、フェラーリがWECのトップカテゴリーを戦う新しいブランドとして参加することが決定。既報のとおり、新型ハイパーカーのフェラーリ499Pが2023年のWEC最高峰カテゴリーに登場する。
また、同じくイタリアからイソッタ・フラスキーニがハイブリッドシステムを搭載した新開発のLMHカーでル・マン出場を目指していることが伝えられているほか、バイコレス・レーシング改めヴァンウォールもシリーズ復帰を計画。すでにノンハイブリッド仕様のヴァンウォール・バンダーベルLMHでテストを重ねている。
“リヤウイングレス”という独創的なキャラクターのプジョー9X8を生み出したLMH規則は、LMDhに比べて車両設計時の自由度が高く、よりメーカーの色を出すことができる。しかし、LMP1-H時代のような過度な開発競争を防止する観点からBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)を前提としたルールとなっており、パワートレインでいえばフロントに置かれるMGUの出力は最大200kWを上限とし最高出力はモーターとエンジンで合わせて500kW(約680PS)に制限。BoPによって車種ごとに加速プロファイルが設定される。また、空力レベルも一定の枠内に納める必要がある。
LMDhもモーターとエンジンの合計出力は同じく500kWとなっているが、力行は後輪で50kWのみとLMHに比べてアシスト量が少ない。エアロダイナミクスはL/D値が4.0になるようしなければならない。車両重量はどちらのハイパーカーも1030kgが下限だ。これらの数値の共通化はACOとIMSAによって実現された両規定のコンバージェンス(収束、収斂の意)によるもの。WECハイパーカークラスとIMSAの新しい最高峰クラスであるGTPクラスでは、各シリーズごとにBoPによって車両間のパフォーマンス調整が行われる。