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ル・マン/WEC ニュース

投稿日: 2023.03.15 11:01
更新日: 2023.03.15 11:21

WEC新時代の手応えとコールドタイヤの危険性「フェラーリは結構速いと思う」【可夢偉&平川 開幕直前インタビュー】

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ル・マン/WEC | WEC新時代の手応えとコールドタイヤの危険性「フェラーリは結構速いと思う」【可夢偉&平川 開幕直前インタビュー】

 3月11〜12日に公式テスト『プロローグ』を終え、15日から始まる第1戦セブリング1000マイルレースの走行を待つばかりとなっているWEC世界耐久選手権。ハイパーカークラスに2台のGR010ハイブリッドで参戦するトヨタGAZOO Racing(TGR)は、ディフェンディングチャンピオンとして多くのライバルを迎え入れる立場となるが、彼らはいま、どんな状況で開幕を迎えようとしているのだろうか。

 レースウイークの走行を翌日に控えたアメリカ・フロリダ州のセブリング・インターナショナル・レースウェイから、チーム代表を兼務する7号車の小林可夢偉、そして8号車の平川亮が、日本メディアのリモート取材に応じた。

■「ライバルはすべてを見せていない」

 今年のGR010ハイブリッドには、空力面やブレーキの冷却など、いくつかのアップデートが施されている。オフの間にセブリングで走行したライバルも多いなか、TGRはヨーロッパでオフのテストを行っており、アップデートされたGR010のセブリングでの走行はプロローグが初となった。

「不安はたくさんありましたが、来てみたらクルマのフィーリングはすごく良かったです」と可夢偉は語る。

「今回のアップデートはすごく良くて、乗った瞬間に『このクルマ、いいな』というのが分かる状態のものでした。それがこのバンピーなセブリングに来て実現できたということで、このクルマへの期待という部分では非常にいい感覚でプロローグを終えられたかなと思っています」

 先週末のプロローグはキャデラックVシリーズ.R、フェラーリ499P、ポルシェ963、ヴァンウォール・バンダーベル680ら新たなハイパーカークラスのライバル車両と初めて混走する機会となったが、TGRの2台は安定した速さを見せ、総合タイム結果ではワン・ツーで2日間の走行を終えた。

 ライバル勢の印象について聞かれた可夢偉は「実際、フェラーリは結構速いと僕は思っているんですけども……現状タイムだけで見たら他のLMDhとも似たようなところにいるので。まぁ、もうちょっと様子見が必要かなと思っています」と答えている。

セブリングのプロローグを走るトヨタGR010ハイブリッドとポルシェ963
セブリングのプロローグを走るトヨタGR010ハイブリッドとポルシェ963
フェラーリAFコルセの50号車フェラーリ499P
フェラーリAFコルセの50号車フェラーリ499P

 ドライバー別に見ると7号車ホセ・マリア・ロペス、8号車ブレンドン・ハートレーに次ぐ、全体の3番手タイムを記録した平川も、「プロローグの走り出しから速いタイムを出せましたし、ロングランも非常にいいタイムで走れていて、自分としては今のところすごく順調には来ていて、あとは明日からクルマを最終調整する段階かなと思います」と手応えを口にする。

 だが平川も「まだまだライバルはすべてを見せてきていないと思うので、あまり楽観的になりすぎず、自分としては少しでも多くチームに貢献できるように頑張りたいと思っています」と慎重な姿勢だ。

 記者団としては増えたライバル勢への具体的な印象を聞き出したいところだったが、「トヨタしか興味ないですよ。くれるって言うなら全部欲しいですけど……別に気になるクルマは、特にはないですね、正直」(可夢偉)、「まだどのクルマも間近で見たわけではないですが……。あんまり興味がないっていうのが本音ですが(苦笑)、レースのグリッドでちょっと見てみようかなと思います」(平川)と、当事者としてはGR010ハイブリッドの戦闘力アップに集中している状況のよう。

「自分たちがやるベストを尽くす、ということには変わりはありません」と可夢偉。

「チーム代表的にはいろいろと仕事というか、やることは増えてきていますが、ドライバーとしては急にライバルが来たから何かを変えるというのではなく、やっぱりクルマの最大限を引き出す、チームワークをしっかりする、自分らにベストなクルマを作る、という部分に変わりはないので、ドライバー目線では変わるところはないかと思います」

2023年WEC開幕戦を前に記念撮影に臨むトヨタGAZOO Racing7号車のクルー

■SF、SGT経験者は有利も、WECタイヤの温め方は「手探り」

 ハイパーカークラスへの新規参入メーカー増加とともに、今季WECの大きな注目点となるのが、昨年まで許されていたタイヤブランケット(タイヤウォーマー)の使用が禁止されることだ。

 オフのテスト、そして今回のプロローグでもコールドタイヤを経験している可夢偉は、次のように現状を語る。

「去年のブランケット付き(想定)のタイヤとまったく同じもので走っているわけではなくて、おそらくIMSAとかで使っているタイヤ……“温まりも良くて持ちも良い”というタイヤをミシュランが用意したのではないかと思いますが、冬のテストでは正直、ウォームアップに苦戦した部分はありました。このクルマ自体、そこまで極限にグリップが少ない状態を想定していないものだったので」

「だからそういう意味ではちょっと調整が必要だったかなと思いますが、ここセブリングに来て気温が高い状態で走ると、思ったよりも悪くないかなと思っています。ただ、(コールドタイヤでコースに)出た瞬間は結構危険だし、もっと気温が下がる朝イチなんかは滑りやすかったりということで、結構そのあたりはシビアかなと思っています」

温暖な気候のフロリダ州・セブリングで行われる公式テストと第1戦
温暖な気候のフロリダ州・セブリングで行われる公式テストと第1戦

 この状況は可夢偉・平川ら、タイヤウォーマーが禁止されているスーパーフォーミュラやスーパーGTといったレースでの経験が豊富なドライバーたちに、有利に働く可能性もありそうだ。

「僕らはスーパーフォーミュラとかスーパーGTとかでコールドタイヤで走っていて、“極限に滑る”という状況を結構経験しているので、あまり『ヤバイな』というところまでは感じないのですが、そういうことをあまり経験していないドライバーは結構『ヤバイ……』とみんな言ってる感はあります」と可夢偉。

「たとえばピレリのGT3なんかも、コールドではあるんですよ。でもあれは“温まりやすく、タレやすい”という設定。(WECの)エンデュランス用のタイヤはタレたくないわけで、そこは結構難しいところ。だから厳しいって言ってる人は厳しいんじゃないかと思いますし、実際フェラーリの51号車は(プロローグ2日目の朝に)コールド(タイヤ)でクラッシュしてますし、実際(レースでも)そういうことが起こるのではないか、と思っています」

 このアドバンテージについては平川も同意見で「冬のテストではかなりウォームアップはきつかったですが、そういった状況でも、僕が過去に(スーパー)GTで経験したウォームアップがすごく悪いタイヤよりは、まだ温まってくれたので、そこはアドバンテージではあると思います」という。

 だが同時に、今季のWECでのコールドタイヤの扱いについては課題もあると平川は指摘している。

「ただ一生懸命に早く温めたからといって、そこでタイムが稼げても、タイヤを痛めてしまう可能性もあるので。そこはまだ手探りのところではありますね」

 今年はLMGTEプロが消滅し3クラス構成となったが、クラス間のタイム差等、コース上のトラフィックの印象はあまり変わらないと可夢偉は言う。ただしここでも“コールドタイヤ”は不確定要素を生む要因となりそうだ。

「自分がホット(温まった状態のタイヤ)で走っていて、コールドの人が(ピットから)出てくると、彼らはコーナーでものすごく減速していたりする。僕ら、それが分からないじゃないですか。そういうところでは、カテゴリー問わず危ない瞬間というのはありますよ」(可夢偉)

 いまだ“真の勢力図”が明らかになっていないハイパーカークラスの戦い含め、来る“耐久新時代”の開幕戦ではタイヤ交換直後のコールドタイヤでの各車の走りにも注目していきたい。

2023年WEC開幕戦を前に記念撮影に臨むトヨタGAZOO Racing8号車のクルー
2023年WEC開幕戦を前に記念撮影に臨むトヨタGAZOO Racing8号車のクルー


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