全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦オートポリス、ホンダ勢が表彰台を独占し、それまでシリーズランキング上位に並んでいたトヨタ勢を脅かす展開となった。
これから残り3戦、そのうち今回のオートポリスと同じくホンダ勢が得意な鈴鹿が2戦続くことからも、チャンピオン争いはさらに混沌の状況となってきたが、まずは今季のターニングポイントとなりそうなオートポリス戦を、各ドライバーのレース後のコメントとともに振り返ってみよう。
決勝レース15周目、ステイアウトを選んでトップを走る山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)とピットインを終えた4番手の野尻智紀(TEAM MUGEN)はお互いに“見えない敵”との戦いに突入していった。
左リヤタイヤがパンクした坪井翔(JMS P.MU/CERUMO・INGING)のマシン回収のため、13周目に2度目のセーフティカーが導入された際、コース上の多くがピットインを選択したが、山本、ニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)、笹原右京(TEAM MUGEN)の3名はピットインせず、ステイアウトを選択した。
一方、ポールポジションからスタートした野尻は2度目のセーフティカーが導入される直前、抜群のタイミングでピット作業を済まし、1周前にピットへ入り追い上げてきた牧野任祐(TCS NAKAJIMA RACING)の猛追を抑えきって、事実上のトップ。ポジション的には圧倒的に野尻有利の構図だったが、リスタート後はやや様相が異なった。トップからリスタートした山本は1周1秒以上速く周回を重ね、野尻とのギャップを広げていく。
山本はこのリスタート直前、セーフティカーラン中にエンジニアに「このまま走ってギャップを稼いでくる。(野尻の)前に出るには何秒必要?」と、無線で聞いていたことをレース後の会見で明かした。
ここ2年、一度も失敗したことがなく、自分が失敗するなど思いもしなかったスタートでまさかの失敗を喫した山本。そのため、レース序盤は集団のなかで走ることになってしまったが、前がクリアになれば「絶対に速く走れる」という自信があった山本は、逆転優勝を目指して、コース上で野尻とのギャップを稼ぐ選択をした。
ピットストップにかかる時間はおそよ7秒前後、オートポリスのピットロード速度時間をプラスすると、約28秒のギャップが必要になる。残りの周回数は27周──。ピット作業義務も残っているため、1周1秒以上の差をつけないと逆転はできない。
これだけ聞くと、あまり現実的ではないように思える。しかし、山本にはそれができる自信があった。土曜日に行われたフリー走行でトラブルに見舞われ、予選に向けての確認をすることはできなかったが、決勝に向けてはロングランを試すことができ、手応えのあるセッティングの方向性も見つけられていた。山本を担当する杉崎公俊エンジニアも「決勝には自信があった」と振り返る。
「(土曜日に)予選に向けた確認ができなかった。そこに関しては山本選手がうまくまとめてくれたのですが、少し足りないところがありましたね。ただ、ロングランはできていたので決勝に向けてペースがどれぐらいかというのはつかめていましたし、自信がありました」
一方、事実上のトップである野尻サイドの状況は芳しくなかった。セーフティカー明けのペースが上がらず、山本が1分28秒台後半で走れているのに対して、野尻は1分29秒台後半〜1分30秒台。この時の状況を担当の一瀬俊浩エンジニアは悔やむ。
「単独で走っているときはよかったのですが、前に3台いたときのペースが良くなかった。じつは決勝に向けて、路温が高かったのでリヤタイヤをケアできるようにいろいろと細かい部分でセットアップをいじりました。それをウォームアップで確認したのですが、少し失敗してしまって……。結局グリッドでバタバタと変えてレースに挑んだのですが、それでも実際のペースを見ると良くなかったですね」
このままではピットストップ分のロスタイムを山本に稼がれてしまう。しかし、12周目にタイヤを変えた野尻はここで無理をすることはできないため、我慢のレースとなった。結果として燃料が軽くなるにつれ、徐々にペースを上げられた野尻は山本が手にしたかった28秒を渡さずに済み、最終的に0.664秒差で勝利を掴んだ。だが、一瀬エンジニアは「素直には喜べない」という。
「正直、手放しで喜べる優勝ではなかったのでチェッカーを受けた瞬間の無線では「よかったね」という声をかけることができませんでした。ペースが上がらない中盤、野尻はうまくタイヤを壊さないようにケアしながらコントロールしてくれた。そのおかげもあって最後のほうは普通に走れてよかったとは思います」
「でも、そのセーブしていた分を加味しても、まだ(山本選手とは)コンマ5秒以上差があったかなという感じがある。レースには勝ったけど、パフォーマンスでは負けたなという感じで、少し複雑ですね」
野尻陣営にしてみれば、優勝はできたものの、課題が残るレースになってしまった。とはいえ、ポイントランキングでは3位に浮上。2位の山本も勝てない悔しさからか、マシンを降りた後はがっくりと肩を落とす様子も見られたが、こちらもランキング4位とポジションを上げる結果となっている。