新型コロナの影響で例年より遅い8月末に開幕した2020年シーズンの全日本スーパーフォーミュラ選手権も、12月19日〜20日に富士スピードウェイで開催される第7戦で最終戦を迎える。
改めて、国内トップフォーミュラとして開催されているスーパーフォーミュラとはどのようなレースなのか、同じく日本のトップカテゴリーとして開催されているスーパーGTとの比較とともにお届けしよう。
●ワンメイクとコンペティションの違い
スーパーフォーミュラはイタリアのダラーラ社が供給するフォーミュラマシン『ダラーラ・SF19』のワンメイクシャシーで競われる。様々なメーカーのマシンが参戦するスーパーGTと違い、全20台が同じシャシーでレースを戦うのだ。
さらにスーパーGTでは4社のタイヤメーカーによるタイヤ開発競争が繰り広げられているが、スーパーフォーミュラでは全車がヨコハマタイヤを装着する。
エンジンに関してはスーパーフォーミュラには「NRE(ニッポン・レース・エンジン)」と呼ばれる仕様でトヨタ、ホンダの2社がそれぞれ2リッター直列4気筒の直噴ターボエンジンを開発し、各チームに供給している。
一方のスーパーGT GT500クラスに参戦するトヨタ、ホンダ、ニッサンの3社も、もともとはスーパーフォーミュラと同じ「NRE」仕様だが、同じ2リッター直列4気筒の直噴ターボエンジンを採用しながら、実際は仕様は同じながらスーパーGT用に特化した専用エンジンとなっている。
いずれにしても、スーパーフォーミュラではエンジンこそ2社が供給しているが性能はほぼ同じと言え、シャシー、タイヤはワンメイクを採用しているため、マシンの性能差は出にくい。そのためレースの展開もドライバーの技量やチーム戦略に大きく左右されることになる。
さらに、スーパーフォーミュラではスーパーGTなどに採用されている成績に応じた性能調整もない。さらにはF1でもチームごとにシャシーが異なり、同じワンメイクでレースを行うF1傘下のFIA-F2は実は車体、エンジンの管理の面で差が大きくなってしまうという面もあり、日本の車体、そしてエンジンの開発&メンテナンスの管理面から大げさでもなくスーパーフォーミュラは世界的にも誇れる“究極のドライバーズレース”と呼ぶこともできる。
●国内最速のラップタイム
そんなスーパーフォーミュラの最大の特徴は“日本最速”のラップタイムだろう。富士スピードウェイにおけるスーパーGT GT500クラスのコースレコードは福住仁嶺(ARTA NSX-GT)が2020年の開幕戦で記録した1分26秒433。それに対し、スーパーフォーミュラのコースレコードはアンドレ・ロッテラーが2014年に記録した1分22秒572だ。GT500クラスマシンと比べると4秒近く速いコースレコードを記録しているのだ。
しかもこのタイムは現在スーパーフォーミュラで使用されているダラーラSF19ではなく、2018年まで使用されていた前型のダラーラ・SF14で記録されたもの。これはダラーラSF19導入後初めての富士開催となった2019年シーズン第2戦が、予選・決勝ともにウエットコンディションで開催されたためである。
2019年大会で唯一ドライセッションとなったフリー走行では、ニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)が1分22秒569を記録しており、2020年大会ではコースレコードが更新される可能性が十分にあると言える。コースレコード更新の瞬間を見届けるためにも、公式予選から目が離せない展開となるだろう。
●ドライバーへの負担と富士スピードウェイの走行の違い
実際、スーパーフォーミュラとスーパーGT500クラスのマシンが富士スピードウェイを走行した場合、タイムの他にドライビングで異なる部分はどのようなポイントになるのか。ここで重要になってくるのが、車両重量とエンジンパワーの関係だ。
スーパーフォーミュラで使用しているダラーラSF19の最低重量はドライバー搭乗時で670kg、市販の軽自動車ほどの車重でありながら最高出力550馬力以上を発揮するNRE仕様エンジンを搭載している。
一方、スーパーGT GT500クラスに参戦するGT500マシンも同じ2リッター直列4気筒の直噴ターボエンジンを搭載しているが、シャシーの最低重量は1020kgだ。
車重だけでも350kg近い差があるダラーラSF19とGT500マシン、実際の走りではどれだけの違いがあるのだろうか。スーパーフォーミュラではTEAM MUGEN、スーパーGTではARTA NSX-GTの両カテゴリーでエンジニアを務める星学文氏に話を聞いた。
「富士スピードウェイの1コーナー、TGRコーナーの場合、ブレーキングでスロットルをオフしてからボトム速度までの制動距離は、ダラーラSF19の方が40mほど短いですね」と星氏。
オンボード映像からもスーパーGTでは100メートル看板手前からブレーキングを開始している様子がわかるが、仮にTGRコーナーから100メートル手前と考えると、スーパーフォーミュラでは60メートル近辺からのブレーキングとなる。
スーパーフォーミュラのマシン、ダラーラSF19がGT500マシンよりも軽く、より多くのダウンフォースを得られることから、いかにストレートから急減速してTGRコーナーを旋回しているかが分かる。
当然、短い制動距離のブレーキング下では、ドライバーへ身体への負担も大きい。
「スーパーフォーミュラの加速度はGT500マシンよりもコカ・コーラコーナーで1.1G、トヨペット100Rコーナーで1.2Gほど高くなります」と星氏。
仮にスーパーGTのマシンで3Gとすると、富士スピードウェイのなかでもハイスピードで旋回するコカ・コーラコーナーで4.1G、トヨペット100Rコーナーで4.2Gがドライバーに掛かることになる。
スーパーフォーミュラを戦う20人のドライバーはGT500マシンを走らせるよりも身体的に高い負荷がかかる状況下でレースを戦っていることが分かる数字だが、この違いはやはり、サーキットで実際に目にすることでリアリティが増す。
ブレーキングの急減速に旋回スピードの速さ。このスーパーフォーミュラマシンの魅力と迫力を是非、富士スピードウェイの現場で体感してほしい。