2020年シーズンの全日本スーパーフォーミュラ選手権も、今週末の12月19日〜20日に富士スピードウェイで開催される第7戦でついに最終戦を迎える。チャンピオン決定戦となる第7戦開催を直前に控え、タイトル獲得ドライバーの条件、そしてチャンピオン獲得のポイントをみていこう。
これまで全戦の獲得ポイントで競われていたスーパーフォーミュラだが、2020年シーズンに限り、7大会中5大会分の有効ポイントで争われる。1大会に獲得できる最大ポイントは、ポールポジション獲得の3ポイント、そして決勝レース優勝で手に入る20ポイントの計23ポイントだ。
第6戦までの有効ポイントでチャンピオンの可能性を残しているのは55ポイントを獲得している平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)、同ポイントでランキング2位につける山本尚貴(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)のふたりに加え、ランキング3位の野尻智紀(TEAM MUGEN)、ランキング4位のニック・キャシディ(VANTELIN TEAM TOM’S)のトップ2名から23ポイント差以内の4名となる。
それぞれのドライバーのシリーズタイトル獲得条件をみていこう。
順位(決勝&予選) | 獲得ポイント | 平川亮(55pt) | 山本尚貴(55pt) | 野尻智紀(43pt) | N.キャシディ(42pt) |
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優勝+PP | 23 | 78 | 78 | 66 | 65 |
優勝+予選2位 | 22 | 77 | 77 | 65 | 64 |
優勝+予選3位 | 21 | 76 | 76 | 64 | 63 |
優勝 | 20 | 75 | 75 | 63 | 62 |
2位+PP | 18 | 73 | 73 | 61 | 60 |
2位+予選2位 | 17 | 72 | 72 | 60 | 59 |
2位+予選3位 | 16 | 71 | 71 | 59 | 58 |
2位 | 15 | 70 | 70 | 58 | 57 |
3位+PP | 14 | 69 | 69 | 57 | 56 |
3位+予選2位 | 13 | 68 | 68 | 56 | 55* |
3位+予選3位 | 12 | 67 | 67 | 55* | 54* |
3位 | 11 | 66 | 66 | 54* | 53* |
・上記表は、第7戦を有効ポイントで終えることを前提に、過去4戦分の有効ポイントと第7戦で獲得できうるポイントを示している
・『*』は有効ポイントを獲得しても平川、山本に届かずタイトル獲得とはならない
ライバルの順位に関係なく、勝てば優勝が決まる、通称“自力チャンピオン”の可能性を残しているのは、ランキング1位の平川と2位の山本のみ。決勝2位以上もしくは予選でポイントを獲得し決勝3位以内で入賞すれば他のドライバーの順位に関係なくシリーズタイトルを手にすることとなる。なお、平川と山本はこれまでリタイアしているラウンドが2戦あり、第7戦の結果にかかわらず有効ポイントが減ることはない。
総獲得48ポイントでランキング3位の野尻は、最低でも13ポイント以上のポイント獲得が必要だ。そのためには予選で2番手以内に入り、2ポイントを獲得した上で決勝では3位までに入賞する必要がある。なお、ポールを獲得した上で優勝しても平川、山本のどちらかが2位以上、もしくは予選でポイントを獲得のうえ3位以上であればシリーズタイトルには手が届かないという状況だ。
野尻は第7戦で5ポイント以上を獲得した場合、第1戦の4ポイント、第2戦の1ポイントが減算対象となる。
総獲得49ポイント、現状の有効ポイントで46となりランキング4位につけるキャシディの場合、最低でも14ポイント以上の獲得が必要だ。そのためには決勝で2位以上となるか、予選でポールを獲得した上で決勝3位までに入賞しなければ逆転チャンピオンの望みは消えてしまう。
ポールポジションを獲得した上で優勝を決めても、平川と山本のどちらか11ポイント(決勝3位以上、予選ポール+決勝4位以上)を獲得してしまった場合、2年連続タイトル獲得とはならない厳しい状況だ。
さらに、キャシディには悩ましい問題がある。
前戦鈴鹿をエンジントラブルによりリタイアで終えたキャシディは、最終戦はエンジン交換により10グリッド降格のペナルティが下される可能性がが残っている。その場合、たとえ予選でポールポジションタイムを記録しても10番グリッドスタートとなり、タイトル獲得の可能性は大きく遠のいてしまう。
ただし、前回エンジントラブルでリタイアした決勝をノーポイントで終えたキャシディには10グリッド降格ペナルティが適用されない可能性も残っており、ペナルティの有無は最終戦の富士の審査委員会で裁定されるため、その裁定次第で大きく状況が変わってくることになる。
キャシディは来季、フォーミュラEに参戦するため、第7戦富士がスーパーフォーミュラのラストレースになる可能性が高い。ペナルティの有無が気になるが、キャシディの国内最後になるであろうその走りをしっかりと目に焼き付けておきたいところだ。
最終戦富士を戦う上でクライマックスとなるのは、まずは予選の戦いだ。1ポイントでもシリーズポイントを加算するため、そしてレースでの優勝に向けても、まずは予選の順位が最大の山場になってくる。2020年シーズンから予選1位に3ポイント、2位に2ポイント、3位に1ポイントが与えられるため、タイトルの可能性を残す4名は是が非でも予選でポールポジションを獲りにくるだろう。
そのためには、まずは土曜日の走り出しのタイム、持ち込みのセットアップが重要になってくることは間違いない。そして予選セッションでは前回から導入されることになったタイヤウォーマーを有効活用した予選での戦略が重要になる。
前回の鈴鹿大会、第5戦、第6戦の予選では、その時点での自分のパフォーマンスを把握し、4セットのニュータイヤを予選Q1〜Q3でどのように使用するかで各ドライバーの戦略が分かれた。
ポールポジションを狙う正攻法としては、予選Q3でニュータイヤを2セット投入するのがセオリー。そのためにも予選Q1,予選Q2をニュータイヤ1セット、つまり1回のアタックでミスなくきっちりとクリアすることが求められる。
一方、予選Q3進出をターゲットにするのであれば、予選Q1,または予選Q2でニュータイヤを2セット投入して確実にノックアウトを避ける予選の戦い方となる。そのうえでそれぞれ10分のセッション時間のどのタイミングでアタックを行うのか。また、タイヤを装着するタイミングなど細かな戦略が明暗を分けることになるため、今回も予選から目が離せない展開となりそうだ。
40周の決勝レースで鍵となるのは、オーバーテイクシステム(OTS)の存在だ。決勝レース中の計100秒間、エンジンへの燃料流量を増やし、エンジンパワーを上げてオーバーテイクチャンスを広げるシステムだが、冬の気候、コンディションでエンジンパワーが増大した影響からか、前回の鈴鹿戦ではその効果は絶大だった。
富士スピードウェイは全長1,475メートルのホームストレートや、TGRコーナーからコカコーラコーナーにかけての高速区間、ADVANコーナーから300Rにかけての立ち上がりなど富士は鈴鹿以上にオーバーテイクがしやすく、OTSの効果が前回以上に大きく見られることは間違いない。オーバーテイクを仕掛ける側のタイミング、そして防御側のディフェンスにOTSを使うタイミングと、ドライバー同士の詠み合い、心理戦は今のスーパーフォーミュラならではの醍醐味となっている。
計100秒間に使用が限られたOTSをいつ、どこで、どういった状況で使用するのか、状況に応じた適切な判断をドライバー自身が行うことができるかが、決勝結果を左右する大きな鍵となりそうだ。
そして決勝の勝敗を握るもうひとつの要素がピット作業。タイヤの摩耗に心配がないだけに、早めにピットに入るドライバー、そしてレース終盤にピットインするドライバーと大きくふたつの戦略に分けられるが、いずれにしてもそこで重要になるのがチームのタイヤ交換作業時間。
コース上で1秒タイムを削ることは非常に難しいが、ピット作業ではワンミスで数秒失ってしまうだけに、チームにのし掛かるプレッシャーは計り知れず、緊張感の髙いシビアな戦いになっている。上位を狙うにはドライバーだけでなく、チームのパフォーマンス、そしてその連動が欠かせない。
4人がチャンピオンの可能性を残す大接戦のなか、12月19日〜20日の富士スピードウェイではどのような戦いが繰り広げられるのだろうか。2020年シーズンのシリーズチャンピオン決定の瞬間を是非、富士スピードウェイで見届けて欲しい。