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投稿日: 2021.07.12 18:02
更新日: 2021.07.13 13:18

【三浦愛の突撃ドライビング取材/第4回 前編】山本尚貴選手に聞く、タイトル獲得のたびに変わる考え方

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スーパーフォーミュラ | 【三浦愛の突撃ドライビング取材/第4回 前編】山本尚貴選手に聞く、タイトル獲得のたびに変わる考え方

 2021年もスーパーフォーミュラのピットリポーターを務めるほか、レーシングドライバーとしてスーパー耐久をはじめとしたさまざまなカテゴリーに参戦中の三浦愛さん。今シーズン、オートスポーツwebでは、三浦さんの目線で気になるスーパーフォーミュラドライバーに突撃取材を敢行し、同じドライバー目線で気になることをぐいぐい質問していく企画『三浦愛の突撃ドライビング取材』がスタートしました。

 第4回目の突撃取材のターゲットはTCS NAKAJIMA RACINGの山本尚貴選手。スーパーフォーミュラでは3度の王座に輝いたほか、2018年と2020年にはスーパーGTと合わせて国内二冠を達成し、現役最強との呼び声も高いドライバーです。

 今回は、三浦さんがチャンピオン山本選手に意を決して、突撃取材します。

「山本選手は、シリーズタイトルを何度も獲得されている選手なので、ぜひ取材させていただきたいなと思っていました。今の私は、メンタル面とかクルマが悪いときにどう立て直すかというのが課題になっています。今シーズンの山本選手は正直苦戦している感じですが、必ず予選よりも良い順位で帰ってきます。何度もチャンピオンに輝く人は、どういう考え方でレースに臨んでいるのか、というのを知りたいなと思っています」

 さて、三浦さんと山本選手のドライバーズトークをお楽しみください!

2021スーパーフォーミュラ第4戦SUGO 山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)
2021スーパーフォーミュラ第4戦SUGO 山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)

【いきなり、山本選手から思いがけない言葉が!!】

三浦:今年、この突撃ドライビング取材を3回やってきているのですけど、実は(今までの3回は)自分より年下のドライバーばかりだったので……今回は、ちょっと緊張してます(汗)

山本:そうなのですね。でも、よくレースをやりながら、逆のメディアさんの立場になって仕事ができるのは、すごいなと思いますし、器用にやっているなと思います。

三浦:ありがとうございます! まだまだ至らない点もありますが、すごく勉強になっていて、特にスーパーフォーミュラのお仕事はドライバーの皆さんがプロフェッショナルな方ばかりなので、どのようなことを聞いても勉強になりますね。

山本:でも……本当は逆の立場にいたいはずだから、その気持ちもあるでしょうし、その葛藤を通して、メディアさんの立場にたっていろいろと勉強している姿は立派だなと思います。

三浦:こういうふうに言ってくださったドライバーさんは初めてです(涙)

山本:多分、大きな声では言えないでしょうけど、ドライバーでずっとやってきたから……悔しいと思うのですよ。でも、頑張っていれば、どこかで必ずチャンスが来ると思いますし、レースをやっていると良いときばかりではないですからね。

三浦:ありがとうございます(涙) 今のお話からも、いっぱい良いものが聞けたのですけど、そこから根掘り葉掘りお聞きしたいので……よろしくお願いします!

山本:はい、お願いします。

【王者獲得のたびに変わっていった心境】

三浦:早速なのですが……私は昨年レース人生の中で初めてシリーズタイトルというものを獲りました。KYOJO CUPという女性ドライバーのみのレースだったのですけど、やはりシリーズチャンピオンになるためには速さだけじゃない部分も必要になってくるなと感じました。

何度もシリーズタイトルを獲得されている山本選手ですが、タイトル獲得のための取り組み方というか、レースに対する姿勢……あとはタイトルを獲ると周りから追いかけられる立場になると思いますが、そこで意識していることや心がけていることはありますか?

山本:そうですね。スーパーフォーミュラだとタイトルを3回獲ってきて、今は4回目を目指している最中ですけど……3回目を獲っても、何が本当に正しいのかが、わかっていないですね。

1回目、2回目、3回目とそれぞれタイトルを獲得したときに置かれていた状況も違いましたし、心境についても、その都度変わっています。常にこれだけをしておけばチャンピオンになれるという、確信めいたものがあるかというと……正直、まだないです。

三浦:そうなのですね!

山本:とはいえ、自分の中で崩してはいけないと思っているのが“諦めないこと”ですね。でも、言葉で言うのは簡単で、みんな諦めないように頑張っているし、諦めようと思っている人はこの世界には誰もいないでしょうけど、諦めない気持ちがより強い人が、最後にチャンスを掴み切る一握りの人になってくると思います。

諦めないという言葉には、いろいろな意味があります。毎戦勝てているわけではないから、負けたレースでも諦めないで、勝つまで努力しようという気持ちも大事です。

あと三浦さんもレーサーだからわかると思うのですけど、自分がどれだけ天才で、どれだけ技量があったとしても、そこには多くのメカニックさんやエンジニアさんがいて、1台のクルマを仕上げてレースに出ています。やはり、そういう多くの人たちが自分のために働いてくれて、ひとつの目標に向かって成績を残そうとしてくれています。たくさんの人たちが関わっているので、そういう人たちを引っ張っていく気持ちを持つことは絶対に必要なことだと思います。

三浦:なるほど……。

山本:勝てているときって、何をやってもうまくいくし、悪いことはなかなか表面化されません。でも悪いときにどれだけ辛抱強く、前を向き続けられるかというのが、すごく重要だと思います。悪いときこそ「この人のために頑張ろう」と思えるので、そういう悪いときにどれだけ辛抱できるか、諦めないでいられるかという気持ちは常に持ち続けようと心がけています。

三浦:やはり、お仕事なので、ドライに考えなきゃいけない部分もたくさんあると思います。特に山本選手はストイックだなと思います。レースウィーク以外の私生活のときの“オン/オフ”の切り替えはどういうふうにやっていますか?

山本:それも、タイトルを獲った年によって違いがあります。1回目を獲った2013年前後は、本当にレースのことばっかりを考えていた時期でした。何にしても、オフの時間をなるべく取らないように心がけていました。オフになった時間が多くなればなるほど、レースがダメになっちゃうなと思っていたので、レースのために時間を費やそうと思ってました。

それが良い部分もあれば、逆にレースのことしか見えなくなってしまっていて、いっぱいっぱいになってしまっていた自分もいて、自分で自分の首を絞めてしまっていたのかなと思います。特に結果が出ていなかった時期だったので、余計に頑張らないといけないという気持ちになっていました。

タイミングにも恵まれて1回目のタイトルを獲ることができて、そこから2回目を獲るためにもっと頑張らないといけない思いから、今振り返ると……少し空回りしていたのかなと思います。

三浦:そうだったんですね……。

山本:それが顕著に出ていたのが、2017年ですね。ピエール・ガスリー選手とチームメイトになって、開幕戦は表彰台に上がって彼よりも前で走れましたが、そこから何をやってうまくいかなくなってしまいました。彼に負けるはずがないという思いもあったし、負けてはいけないという思いが強くなればなるほど、どんどん周りが見えなくなってしまっていました。完全にスランプでしたね。

そのシーズンオフに『何がいけなかったのだろう?』って反省をしていたのですが、そのタイミング(2018年2月)に子どもが生まれました。その年くらいから、レースはレースでオンになっているのですけど、子供が生まれてから、レースから離れる時間を自然と作れるようになって、家族と子供のことをケアする時間が増えたことで、オンとオフが自然とできるようになりました。

それって、オフがあるから、オンを考えなきゃいけなくなった時に、ちゃんと考えられるようになったし、レースウィークに入ったときにちゃんと集中して走れるようになりました。走り終わって家に帰ったら、レースのことは極力持ち込まないようにして家族の時間を楽しむことができるようになってから、メリハリがつけられることができました。その年に初めてダブルタイトルを獲ることができました。

子どもと家族は、ドライバー人生において良い転機になったのかなと思っています。そのあとも3回目(のSFタイトル)も獲ることができて……もちろんレースも楽しいんですけど、家族と過ごす時間が今は一番楽しいかもしれませんね。

同じドライバーとして、気になるポイントをぐいぐい突っ込む三浦愛さん
同じドライバーとして、気になるポイントをぐいぐい突っ込む三浦愛さん

三浦:そうなのですね! 今年は正直昨年と比べるとちょっと苦戦していると思うのですけど、予選から決勝にかけて必ず順位を上げている印象で、“立て直す”という部分では家族の支えもあると思いますが、それにプラスして、何かドライビングの技術というか自分なりの立て直し方みたいなのはありますか?

山本:それも、結果が出てから「それが正解なのかな」と初めて思えるので、まだ結果が出ていないから、自分の今のやり方と気持ちの持ちようが正しいかどうかはまだわからないです。

でも、少し大人になったのかなと思うのは……当然結果が出てないから、隠さずに話すと焦りとプレッシャーもあります。今年このチームに迎え入れてもらって、やっぱりチャンピオンとしてここに来ているわけだから、やっぱり上位で走らないといけないし、走る責務が僕にはあると思っています。なかなか今の自分のポジションというのは、受け入れがたいというか……もっと上のポジションで走らないといけないなというのは思っています。

あと、みんなは一生懸命やってくれているので、いつかこのチーム、このメンバーとなら絶対に報われる日がくると思うと……今は結果が出ていないから正直苦しいですけど、そこには必ず理由があると思います。それをひとつずつ紐解いていって、絶対にゴールがあると思うので、そのゴールに向かっていく今の過程というのは、ある意味で楽しんでいる部分もありますね。

そこには3回タイトルを獲ってきたという自負もあるし、自分がしっかりと走ることができれば、ちゃんと結果がついてくるという、今まで自分が残してきた実績も自信になっています。

だけど、ここで一旦冷静にみないといけないのは、そのときそのときでタイミングもあるし、自分の気持ちを抜いてしまうと、自分が落ちるのと同時に、周り(のドライバー)はもっと努力をして自分をやっつけようとしています。いつか逆転されてもおかしくないわけです。

あまり自分のプライドに固執することなく、柔軟にそのときの環境に自分を合わせ込まないといけないなと思っています。

そのプライドと柔軟性をどう保つかというのが、今の一番の課題というか、大変なことかもしれないですね。

三浦:なるほど……。自分が思っていることを貫くことも大切だけど、ときには受け入れること大切ってことですか?

山本:そうですね。自分が正しいと思って、突進していくことって、意外と簡単だと思うのですよ。自分の信念を曲げないでいければ、それは辛いことでもなんでもないのだけど、逆にキャリアと実績を重ねれば重ねるほど、だんだん“聞く耳”を持ちづらくなっちゃうだろうし、逆に周りは賛同してくれる人がどんどん増えていっちゃうと思います。そうなったときに、誰が最後に舵取りをしてくれるのか? というと、やっぱり最後は“自分”だと思います。

若い頃は叱ってくれる人や、アドバイスをしてくれる人が周りにいるから、意外と楽だと思うんですよ。とはいえ、若手は若手で右も左も分からない時期があるから、苦しいは苦しいのだけど、上に立つともっと苦しくなるなというのは、年齢とポジションが上がるにつれて感じるようになっています。

導いてくれる人が良い意味でいなくなっているのが「マズイな……」と自分でも感じ始めているから、そうなったときに自分がしっかりしていないといけないし、やっぱり大事なのは自分と反対の意見を言ってくれたりとか、ちゃんと正してくれる人が周りにいるというのが、すごい大事だなと最近すごく思いますね。

山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)
山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)

【絶対に変わることのない伊沢拓也との関係】

三浦:それが家族であったりするのですか?

山本:家族であったり……身近な人で言えば、伊沢拓也選手ですね。

三浦:あ、そうなのですね!

山本:僕がこれから先何回勝ち続けても、タイトルを獲っても、伊沢さんとの関係性が逆転することは絶対に有りえないし、そういった関係性を保たせてもらっている環境にはすごく感謝しています。

あとは後輩ができると「しっかりしないと!」と自然と思えてくるところがあって、今の環境はすごく恵まれているなと思います。福住仁嶺とか牧野任祐が「尚貴さん」ってきてくれると嬉しいものもあります。

三浦:そういえば、福住選手にインタビューしたときに「尚貴さんは見習うところが多い」って言っていました。

山本:あ、いい奴ですね(笑)彼はスピードはあるけど、勝てない時期がずっと続いていますし、特にスーパーフォーミュラはまだ1回も勝ったことがないから……気持ちはすごく分かりますよね(福住はこの取材後に行われた第4戦SUGO決勝で見事初優勝を飾った)。

速さが結果につなげられないのは、どうしても自分自身に責任を感じ始めるから、辛いと思います。でも、その結果を変えることができるのは、最後は自分自身なので、本人も辛いでしょうけど、それは自分で乗り越えるしかないと思います。

でも速いチームにいて、自分の技量があるのだから、そんなに悲観することはないだろうし、そのまま自信を持ってやり続ければ、いつか報われるよと伝え続けてはいます。って言っても、僕より速く走られては困るから、タイトルは取られたくないですね(笑)

三浦:あ、そこはさすがですね(笑)ちなみに、伊沢選手との付き合いはいつからなのですか?

山本:伊沢選手とは、それこそ僕がカートをやっていたころからARTAで先輩としてずっといましたね。すごく関係性が近くなったのは、2010年に僕がスーパーGTにデビューした際にチームメイトとして組ませてもらったときから、すごくお世話になっています。

自分が一人暮らしをすることになって「家をどこにしようか?」となったときに、一緒に物件を見て回ってくれました。本当に公私ともにお世話になっています。

そういう先輩がいて今の自分があると思うと、今度は自分がしてもらったことを後輩の子たちに受け継いでいけたらいいのかなと思っていますね。

誰をみて、誰についていくかというのは本人次第だし、その選手の気持ちだったりとか信念みたいなのもあるから、何か助けられることがあれば助けたいなと思っています。

* * * * * * * *

 こうして、三浦さんの山本選手へのインタビューは予想以上に盛り上がりまして……続きは近日公開の第4回後編でお送りいたします!

【プロフィール】
三浦愛(みうら あい)

1989年生まれ。カートで実績を重ね、フォーミュラチャレンジ、全日本F3選手権などに参戦。2014年には全日本F3Nクラスで日本人女性初優勝を飾った。2021年はスーパー耐久に参戦しつつ、スーパーフォーミュラではテレビ中継の現場解説を務める。
三浦愛 公式HP

三浦愛さんの突撃取材、第4回後編もお楽しみに!
三浦愛さんの突撃取材、第4回後編もお楽しみに!


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