「全然グリップがない……」
白バイ先導のパレードラップが始まってすぐにロニー・クインタレッリ(MOTUL AUTECH GT-R)はそう感じた。ミディアムソフトかミディアムの選択肢があるなかで、堅めのミディアムを予選および決勝スタートタイヤとしてマーキングしていた。
パレードラップの最中、周囲のライバルをみるとあまり真剣にタイヤを温めようとしているようには見えない。「余裕があるのかな?」感じた不安を払拭するために、アクセル、ブレーキ、ステアリング、すべてを駆使して2周に渡って必死にタイヤを温めた。タイヤグリップがない状況下、パワーアシストがあるといっても軽くはないステアリング操作と加減速を繰り返すのは楽ではない。
去年までの見切りで全開にできたスタートから変更され、シグナルグリーンのタイミングに対する緊張感は高まった。アクセルオンのタイミングをぴったりと合わせることに成功したロニーは、その加速を生かしてTGRコーナー(1コーナー)のブレーキングを遅らせてワコーズ4CR LC500のインに飛び込んだ。
「スタート直後、(タイヤレンジの)ぎりぎりいいところまで入れることができた」とロニーはレース後、この時のことを振り返り、こうも続けた。「(パレードラップとフォーメーションラップの間は)抜くことより、どう抜かれないようにするかを考えていたんだ」。
第2スティントの松田次生は、39号車デンソー・コベルコLC500を追おうとした矢先にアドバンコーナーでアウトラップと思われるGT300にひっかかる。運悪くイエローフラッグが出ており、ここで失ったおよそ7秒をなんとか4秒差まで削って39号車の1周後ピットに飛び込んだ。「(スティントの)最後までフルプッシュして、ピットロードに入る時も、4輪ロックしながらブレーキングしてギリギリのところまで攻めました」と次生。
ウォーマー禁止でアウトラップをタイヤ発動のために費やすスーパーGTでは、バトル相手の1周後に入るのが鉄則。「我々はノーチョイスでした」と23号車モチュール・オーテックGT-Rの中島健エンジニアをこの時の判断を振り返る。
「ノーチョイス」の理由は燃料残量がぎりぎりだったから。セーフティーカー(SC)運用ルールが変わって以降、SC時のピットインはペナルティの対象となる。SC導入時に走行を継続できるだけの燃料残量を残した上で、500kmを2回給油で走り切る燃費を成立させなければいけない。