ZENT CERUMO LC500の村田卓児エンジニアと言えば、現役ドライバーの誰もが組んでみたいという“優勝請負人”のひとり。その村田エンジニアは自身を自虐的にこう言う。「オレは雨が苦手」。さらに「混乱が苦手だ」とも。スーパーGT第2戦富士、その苦手な雨が決勝スタート前に降ってきた。
決勝はセーフティカー(SC)先導でスタート。その後は雷を伴う強い雨になるという予報で、さらにゴール前には上がると予想されており、混乱が起きる可能性は高い。村田エンジニアの心はざわざわしていたことだろう。
一方、立川祐路は燃えていた。前日の予選は8番手(レースは7番手グリッドでスタート)。これはドライバーの責任ではなく、Q2で履いたタイヤがコンディションに合っていなかったから。不可抗力とは言え、前夜は「モヤモヤしていた」という。そのぶん、決勝では「やってやる」と気合いが入っていた。その強い気持ちはSCがコースから外れたと同時に爆発。“オープニングラップ”のダンロップコーナーでまず2台を大外刈り。
その翌周はインから抜き、6周目には先頭集団に追いついた。その後も1台ずつグイグイ抜いていく。雷鳴が轟き、雨が激しくなり、周囲の走りがおとなしくなっていくが、立川の勢いは変わらない。ついに13周目の1コーナーでトップのモチュール オーテックGT‐Rのインを奪った。
これを頼もしげに、だが不安げに、ピットで見守っていたのはチームメイトの石浦宏明。
「みんな、探りながらブレーキングしているなか、立川さんは自信満々でインに入っていったりしていて、やっぱり違うなあと。ただ、一番恐れていたのは、僕のタイミングでスリックタイヤに替えて出て行くこと。だって、ラインを少し外したら水しぶきがバンバン上がっているのに、もう替えるって。『ええ〜、大丈夫なの?』と(笑)」
赤旗中断後、雨は上がり、路面は急激にドライアップ。と同時に、ライバルが盛り返し、モチュールGT‐Rに先行を許すことになった。レインタイヤからスリックの切り替えはドライバー交代と同時に行ないたい。そのピットストップウインドウは開いた。
でも、「まだまだ濡れてない?」と誰もが思う。タイヤウォーマーが禁止されているスーパーGTのアウトラップは、それはそれはスリリングだ。路面温度はこのときわずか19度。スーパーフォーミュラで2度のチャンピオンに輝いた男でさえも不安になる。