14車種29チームがしのぎを削る2019年のスーパーGT300クラス。そのなかから1台をピックアップし、マシンのキャラクターや魅力をドライバー、関係者に聞いていく連載企画。2019年シーズン第2回目は、今シーズンからスーパーGTを戦っているマクラーレン720S GT3をピックアップ。マクラーレンを「日本で走らせたい」と希望した当事者でもあるエースの荒聖治に、新たな愛機の素性を聞いた。(インタビューは第3戦鈴鹿で実施)
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2019年のGT300クラスで大きな注目を集めているマクラーレン720S GT3だが、開幕3戦を経た時点では性能調整や日本のレースフォーマットへの対応、使用タイヤの違いなどから、まだ真の実力はベールに包まれたままと言えそうだ。
ステアリングを握る荒は「クルマの根本的な設計や構成が、他のGT3マシンとは材質から違っていて、カーボンモノコックにエンジンを締結して駆動系を繋ぎ、そこにサスペンションが付いている。レイアウト自体がもうフォーミュラ(カー)なんですよね」と、720S GT3がレースカーとしての優れた構成であると説明する。
「だから乗った感触も低重心ですし、動きもすごくしっかりとしている。ロードカーの720Sもとても乗りやすいクルマで、パワーもあるし高いスピードレンジで本当に安定して走れるクルマになっているんです」と、720S本来のパフォーマンスと素性の良さも表現する。
往年のレースファン、とくにスーパーGTの前身であるJGTC全日本GT選手権を知る方なら、1996年シーズンにマクラーレンが達成した伝説的偉業はよく知るところだろう。チーム郷が送り込んだマクラーレンF1 GTRは全6戦中4勝を挙げてシリーズを席巻。前年度の1995年には関谷正徳が同型モデルをドライブしてル・マン24時間を制してもいる。
そんなルーツに加えて、2009年に設立されたマクラーレン・オートモーティブはF1からのフィードバックを活用しながらスーパーカー市場に本格参入し、2012年には初の量産モデルとなるMP4-12Cを世に送り出した。
以降、中核モデルとして650S、675LTとつながるモデル群の最新版が、この“最高出力”を名に冠した720Sということになる。
今回ともにGT300にカムバックしたチーム郷とともに、2004年にはル・マン勝者の系譜に名を連ねている荒としても、世界に先駆けてこの最新GT3車両でレースを戦いたい、という思いを強く抱いたという。
「僕はこのモデルのデビュー前に、開発テストでもドライブしているんです。これがマクラーレン・カスタマーレーシング向けにデリバリーされた1号車になりますが、事前の経験でその速さやダウンフォースのレベルなど、あらゆる面で高い性能を持っていることを実感していました。だから、このクルマでぜひレースに出たいなと思いました」
最初の説明にもあったとおり、新生マクラーレンはその初代モデルとなるMP4-12C以来、カーボン製のモノコックを連綿と採用しており、この720Sにもその最新版となる“モノケージII”と呼ばれるカーボンコンポジット製のシェルが採用されている。
GT3化にあたってはリヤサブフレームの取り回しやエンジンマウント、熱交換器の配置などに若干のモディファイが加わってはいるものの、それ以外は「ものすごく重たいクルマを軽量化するために造り変えるとか、そういうことはまったくありません。(720Sが)もともと持っている持ってる素性を活かして各レギュレーションに合わせたマシン」になっているという。
「GT3ではMP4-12CもアウディR8もポルシェも、そしてBMWではZ4もM6も乗りましたが、それぞれにメーカーの特徴が出ますね。ポルシェは抜群なリヤの強さがありますし、ブレーキングの安定性とトラクションがある。ウエットで乗っても怖いものなしです」
「Z4やM6に乗ったBMWも、大きくて重いもの……やはり重量物を真ん中に集めて作るというBMWのモノ作り思想がすごく活かされていて、BMWの個性である非常に素直なハンドリングを持っています」
「その点で、マクラーレンはもうLMP(プロトタイプ)というか、フォーミュラというか、そういった乗り味に近い。もともと剛性もありますし、それがレーシングカーになることでロールケージなど(の追加)も含めてさらに高まっている」
「フロントの回頭性が良くて、さらにリヤがしっかりしているという感じです。乗っていてすごく気持ちいいですね」