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スーパーGT ニュース

投稿日: 2019.07.06 08:47
更新日: 2019.07.05 19:48

スーパーGT:第4戦タイ制したWAKO’S LC500大嶋和也が下したレース人生初の決断

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スーパーGT | スーパーGT:第4戦タイ制したWAKO’S LC500大嶋和也が下したレース人生初の決断

 6月29~30日にタイ・ブリーラムのチャン・インターナショナル・サーキットで行われた2019年スーパーGT第4戦。このレースを制したWAKO’S 4CR LC500の大嶋和也は、勝利のために“レース人生初の決断”を下していた。

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 36周目、ターン3からターン4までの直線区間をバンパー・トゥ・バンパーで走る2台。トップを走るWAKO’S 4CR LC500の山下健太に、au TOM’S LC500の関口雄飛が容赦なくヘッドライトでパッシングを浴びせながら、クルマを左右に振って威嚇する。

決勝の路温は前日よりも8度も高くなったなか、タイヤは大嶋はソフト、一貴はミディアムを選択していた。2台の間隔は広がることはなく、ピットインの直前に順位が入れ替わったが、ピット作業で再逆転を果たす
決勝の路温は前日よりも8度も高くなったなか、タイヤは大嶋はソフト、一貴はミディアムを選択していた。2台の間隔は広がることはなく、ピットインの直前に順位が入れ替わったが、ピット作業で再逆転を果たす

 その9周後、かろうじて関口の追撃を振り切った山下に、今度はKeePer TOM’S LC500のニック・キャシディが襲いかかる。WAKO’S LC500とKeePer LC500はターン3を並んで立ち上がり、通称“130R”と呼ばれる高速コーナー、ターン4に並走状態のまま飛び込む。

 このとき、鼻先をわずかに前に出していたのはKeePer LC500だった。それでも山下はインサイドから引かずに、並んだまま130Rに飛び込みトップを死守した。

 このバトルをピットで見ていた大嶋和也は「もうダメだ。抜かれる」と感じていたという。

「決勝でトムスのクルマが速かったことは第1スティントで分かっていた。それなのに、あそこまで並ばれてもトップを守った。気持ちが強いレースをするなぁと思って見ていた」

 もともとスピードに定評のあった山下は、この週末、予選Q2でポールポジションを獲得し、決勝でも“レクサスの先輩”関口、キャシディに臆することなく打ち勝ち、速さに加えて心の強さも見せつけた。しかし、その山下の実力を引き出したのは、じつは相方の大嶋だった。

 レース後、阿部和也エンジニアは「予選はともかく決勝でのクルマはウチ(WAKO’S LC500)がトムスに明らかに負けていた」ことを吐露した。

「タイに向けて“チャレンジしたセット”にしてきたんですが、走り出しから手応えがあって、その流れである程度自信を持ってQ1に臨んだ。ところが、Q1を走った大嶋から『やばい。何かがおかしい』と。かろうじてQ1は8番手で通りましたけどね」

「その言葉だけを頼りにフロントのメカニカルな部分を変更して、ぶっつけ本番でQ2を走ったら(山下)健太がポールポジションを獲ってくれた。Q1直後のフィードバックもそうですし、刻々と変わる路面を先読みしたタイヤ選択もそうですし、とにかく大嶋の的確なフィードバックがなければ、今回の優勝はなかった」

 阿部エンジニアは大嶋の功績を称えたが、しかし、週末を通して大嶋が浮かない表情を浮かべる瞬間もあった。顕著だったのはポールポジション会見直後。レース後、その理由を尋ねると大嶋は「ドライバーなら誰もが一番でいたいので」と言い、大きく息を吐いて続けた。

「もちろん僕だってそうです。たしかに予選ポールポジションはうれしいけど、できることなら自分がQ2を走って獲りたかった。だから悔しい。でも、自分がわがままを言って結果を残せないんじゃ意味がない。いまは、僕がいいクルマさえ作れば、アイツが速く走ってくれることは分かっているから」

「それでも、そんな簡単に気持ちの整理はつかないし、いまだに葛藤はありますけど」

 もちろん大嶋も速い。ただ、その大嶋のスピードをもってしても山下の速さが際立っているということだ。スピードを生業としてやってきたドライバーが“他人に速さを託す”決断を下すのは容易なことではない。

 ふり返れば、脇阪寿一監督の現役時代、アンドレ・ロッテラーと組んだときも壮絶なやり取りがあった。東條力エンジニアはいまでもはっきり覚えている。

「ふたりが初めて組んだ年の開幕戦。当時の予選はスーパーラップ方式だったかな? とにかく申告時間直前まで寿一とアンドレ、どっちが“先”で、どっちが“後”か、お互いに譲らずに決まらなかった」

「そりゃあ、ポールポジションを決める“後”のほうがドライバーは自分の力を見せつけられるだろうし、そっちを選びたいよね(笑)。だけど、GTというレースでそれをやっていると結局のところ勝てないんですよ」

 この年、寿一はある時点から「ロッテラーに速さを託す」ことに切り替えチャンピオンに輝いた。いまの大嶋/山下組は、当時の寿一/ロッテラー組とかぶっているように見える。

「僕はね、チームルマンの監督という立場で山下の末恐ろしさを感じつつ、(大嶋)和也が寂しく感じていることも理解している。自分も同じ経験をしてきたからね。もちろん、当時の僕にも葛藤はあった。だけど、その苦しみを知るとドライバーはもっと強くなれることも知っている。和也はまだまだ強くなるよ」(寿一監督)

 大嶋の勇気ある決断で6年ぶりの勝利を挙げたチームルマン。ランキングは一気に1位へ浮上。ライバルにとっては厄介なコンビが目を覚ました。


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