2020年に向けたシート争いは、いよいよ大詰めを迎えつつある。auto sport本誌では12月13日（金）発売号のNo.1521で、スーパーGT GT500とスーパーフォーミュラのストーブリーグ情報を掲載している。ここではその【GT500トヨタ篇】をお届けしよう。
誌面では今季のドライバーラインアップをベースに、相関図で各ドライバーの動き（離脱・移籍・新規加入など）を分かりやすくビジュアル解説している。
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「オートスポーツに書かれていたのですが、僕は来年、GT500に出られないみたいです（笑）。皆さん、応援をありがとうございました」
スーパーGT最終戦もてぎ、グランドフィナーレの壇上でこう発したのは、大嶋和也とともにチャンピオンを決めた直後の山下健太だった。例年どおりでいけばトヨタ陣営がその年の体制を発表するのは2月。つまり、山下がGT500に出ないことは、それまで正式にアナウンスされることはない。
しかしながら、声援を送るファンに少しでも早く自分の気持ちや来季の活動を伝えたいという思いが冒頭の発言につながったのだろう。その根拠として活用されたのは、本誌No.1515（9月20日発売号）と思われる。
山下がGT500に参戦できないのは既報のとおりWEC世界耐久選手権にフル参戦するためだ。2020年のスーパーGTも2019／20年シーズンのWECとレース日程（厳密にはル・マンテストデー）がバッティングしている。
2020／21年シーズン（2020年後半～2021年ル・マンまで）のカレンダーは、いまだ発表されていないものの、今年と同様であればWEC上海がスーパーGT最終戦と同じ週末に行なわれる可能性がある。
この先に発表されるカレンダー次第では、さらにかぶっている恐れもある。1戦だけならまだしも、2戦以上バッティングしていてはチャンピオンシップに大きく関わる。
スープラを投入するトヨタ陣営として、2020年は絶対に落とせないシーズンだけに勢いに乗る山下を失うことは手痛いが、同時にタイトル獲得は必達目標でもある。そうしたジレンマのなかから導き出された苦渋の決断なのだろう。
それは同じくWECにフル参戦する中嶋一貴にも当てはまる。つまり、トヨタ陣営は一貴と山下が抜ける大きな穴を埋める必要に迫られている。
その穴を埋めるべく、トヨタ陣営が早い段階から目をつけ獲得に成功したと言われるのは、2019年に全日本F3チャンピオンに輝いたサッシャ・フェネストラズだ。
フェネストラズはF1のランド・ノリスなどと同様にレーシングドライバー専門のマネジメントチーム『ADDマネジメント』に所属し、将来の目標に「F1」を据えている。しかし、その夢をかなえる難しさも充分に理解しており、その場合のオプションとして「日本でプロとして活動する」ことを視野に入れている。
今季のフェネストラズはニッサン陣営のKONDO RACINGからニッサンGT-RニスモGT3でGT300を戦っていたため、2020年はニッサン陣営のGT500にステップするのが自然な流れだが、実際はそうならない。
なぜなら本人にはフォーミュラ志向があり「スーパーフォーミュラを走りたい」という明確な意志があるからだ。そのためニッサン陣営にとどまらず、トヨタ陣営への移籍を決断したと考えればツジツマは合う。
一貴と山下の抜けた穴を埋めるためトヨタ陣営が狙いを定めていたのは、もうひとりいた。それは今季のスーパーフォーミュラでルーキーイヤーながら非凡な才能を見せつけたアレックス・パロウだった。結局のところこの話は実現しなかったものの、パロウの実力を証明するエピソードであり、各陣営が獲得に向けて必死になるのは当然とも言える。
こうした紆余曲折を経て、最終的にトヨタ陣営は一貴と山下が抜けた穴をフェネストラズと宮田莉朋で埋めることとしたようだ。
ただし、関口雄飛と比較的ドライビングスタイルが近いと思われるフェネストラズがトムス36号車におさまるのに対して、宮田は国本雄資と組ませ、BANDOHで大切に育てたいところだ。
坪井翔は、かつて山下が歩んだルートと同様に、BANDOHを離れて大嶋和也とともに栄光のゼッケン1をつけて走る可能性が高い。
そして、2020年のトヨタ陣営で最大の注目点は、そのゼッケン1をつけるWAKO’Sのチーム体制にある。auto sport本誌では2018年11月30日発売号より「2020年のトヨタ陣営は6台体制に変わらない」としつつも「1台のチーム体制に変更がある」という情報を追ってきた。そして、どうやらその正体は2019年チャンピオンのチームルマンである可能性が高い。
端的に言えば、TEAM LEMANSがGT500活動を終了するということになる。では、いったい、どのチームがゼッケン1を走らせるのか？ その答えはスーパーフォーミュラ合同テスト／ルーキーテストで垣間見えた。
このテストで片山義章を走らせていTEAM LEMANSだが、そのオペレーションの一部セルモスタッフが関わっている姿が目撃できた。この件についてチーム関係者に尋ねると、その答えは「ノーコメント」。
しかし、そうした周辺状況から察する限り、2020年のトヨタ陣営はトムスだけでなくセルモも2台体制を敷いてくると思われる。仮にメインスポンサーが今年と同じだった場合、エントラント名はひとつが“TOYOTA TEAM ZENT CERUMO”、もうひとつが“TOYOTA TEAM WAKO’S CERUMO”ということになるのだろうか。
