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スーパーGT ニュース

投稿日: 2020.05.25 12:34
更新日: 2020.06.30 11:15

突き抜けた排気量で“1年勝負”。秘密裏に進められたトヨタ・スープラV8NA化計画【スーパーGT驚愕メカ大全】

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スーパーGT | 突き抜けた排気量で“1年勝負”。秘密裏に進められたトヨタ・スープラV8NA化計画【スーパーGT驚愕メカ大全】

 1994年に始まった全日本GT選手権(JGTC。現スーパーGT)では、幾多のテクノロジーが投入され、磨かれてきた。ライバルに打ち勝つため、ときには血の滲むような努力で新技術をものにし、またあるときには規定の裏をかきながら、さまざまな工夫を凝らしてきた歴史は、日本のGTレースにおけるひとつの醍醐味でもある。

 そんな創意工夫の数々を、ライター大串信氏の選定により不定期連載という形で振り返っていく。第4回となる今回は、あまりにも有名な「規定の穴」をついたエンジンについて。そこにはしたたかさに加えて、「覚悟」もあった。

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 初期のJGTC、スーパーGTの車両規則は、生産メーカーが同一である限りエンジンをベースモデルと関わりがない型式のものに換装することを許していた。できる限り改造コストを抑制して競技車両の高性能化を実現する「緩和特則」であり、世界のGTレースを見ても特に珍しい規定ではなかった。

 たとえばトヨタは、A80型スープラでJGTCを本格的に戦い始めるとき、市販モデルが搭載していた直列6気筒エンジンではなく、量産ラインアップには存在しなかった3S-GTE型直列4気筒ターボ過給エンジンに換装している。

 たしかに3S-GTEは軽量コンパクトでしかもレーシングエンジンとして長年にわたり熟成されてきただけに競技車両に適してはいたが、使われたエンジン自体はグループC時代に使用していた個体そのもので、TRDアメリカの倉庫からホコリを払って引っ張り出したものだったというから、あえていうならば「廃物再利用」によるコスト削減策でもあった。

 レーシングテクノロジーに関わる技術者たちは、改造範囲を規定する車両規則を隅から隅まで読み、そこにヒントが隠れていないか考える人々である。場合によっては明文化されていない、いわゆるグレーゾーンを見つけ出し、そこへ突撃してライバルを出し抜こうとさえする。傍観者にとってはこの、ちょっとひねくれた知恵比べが楽しくてしかたがない。

 3S-GTEを持ち出したスープラ開発陣は2003年にも結構な荒技を繰り出している。それがスープラV8化作戦だった。後から聞けばじつは1996年、JGTCにマクラーレンF1 GTRが登場してシリーズチャンピオンをさらったときから、当時の車両規則では大排気量エンジンが有利であることに気づいていたのだという。

 当時の車両規則では排気量によって吸気リストリクター径が決められており、排気量が増すに従って吸気量が制限されて最大出力が抑制される仕組みになっていた。

 競技専用のレーシングエンジンは、まず排気量規定があってそれに合わせて開発されるものだが、GTで用いられるのはすでに量産車用に開発されたさまざまな排気量の既存エンジンである。これらの性能をそろえ、広く流用しながらデッドヒートを実現するために考えられたのが、排気量区分で吸気を制限する当時の規定だった。

 基本的には、排気量をいくら増やしても制限が厳しくなって決して有利にはならないように定めてあるはずだった。

 ところが開発陣がよくよく排気量区分とリストリクター径を規定するテーブルを読み込んでみると、3.5リッター以上の自然吸気エンジンについては吸気リストリクター径が一定となり、排気量が増せば増すほどエンジンの単体性能という面では有利、つまり自然吸気大排気量エンジンが有利な設定になっていることが見えてきた。

 なぜエンジン規制にある意味こうした抜け道があったのかは不明だが、おそらくは自然吸気大排気量エンジンを搭載するアメリカ車を日本のシリーズへ誘致するための措置だったのではないか。アメリカの市販エンジンならどんなものが来てもそれほど脅威にはなるまい、いろんなのが来たらレースがおもしろくなるはずだよね、という読みもあったに違いない。

 だが、スープラの開発陣はこの規定に正面から突撃した。

デビュー前年、02年10月の富士でのテストを報じたauto sport誌面。この5号前でのスクープでは3UZエンジン使用の可能性に触れてはいるものの、排気量についてはまったくつかめていなかった。
デビュー前年、02年10月の富士でのテストを報じたauto sport誌面。この5号前でのスクープでは3UZエンジン使用の可能性に触れてはいるものの、排気量についてはまったくつかめていなかった。

■パイプフレーム化もきっかけに


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