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スーパーGT ニュース

投稿日: 2020.06.16 15:46
更新日: 2020.06.30 11:12

1年でボツとなった野心的アイデア。02年型ニッサンGT-Rのラジエター移設大作戦【スーパーGT驚愕メカ大全】

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スーパーGT | 1年でボツとなった野心的アイデア。02年型ニッサンGT-Rのラジエター移設大作戦【スーパーGT驚愕メカ大全】

 1994年に始まった全日本GT選手権(JGTC。現スーパーGT)では、幾多のテクノロジーが投入され、磨かれてきた。ライバルに打ち勝つため、ときには血の滲むような努力で新技術をものにし、またあるときには規定の裏をかきながら、さまざまな工夫を凝らしてきた歴史は、日本のGTレースにおけるひとつの醍醐味でもある。

 そんな創意工夫の数々を、ライター大串信氏の選定により不定期連載という形で振り返っていく。第7回を迎えた今回は、R34型のスカイラインGT-Rがその“代名詞”を捨てて搭載したV6エンジンと、ラジエター移設という大技の成否を振り返る。

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 ニッサン陣営は、1994年にJGTCが始まったときから、ベース車両にGT-Rを選んできた。JGTCが始まった段階でニッサンの手元には史上最強のツーリングカーと言われるR32型GT-Rが競技車両の形で残っていた。その資産を有効に活用しようと考えるのは当然だ。当初、ニッサン陣営のよりどころは、ターボ過給直列6気筒エンジン、RB26DETTのパフォーマンスだった。

 だがJGTCでの技術競争が激化すると、前後に長くて重い直列6気筒エンジンは車両全体の運動特性を阻害するという点で逆にハンデになっていった。

 車両規則では市販ラインアップには存在しなくても同じメーカーのエンジンならば換装することができたが、ニッサン陣営は市販車営業上GT-Rの個性を維持せざるをえず、どんどん不利になっていくことを認識しつつも直列6気筒エンジンにこだわり続けた。

 ようやく鋳鉄シリンダーブロックを持つRB26DETTに見切りをつけ、新世代のアルミシリンダーブロックを持つターボ過給V型6気筒「VQ30DETT」へ換装したのは02年シーズン途中のこと。R34型GT-Rが生産中止となり一時的にベース車両が市販されていないという特殊な状況になったことを理由に、念願のV型6気筒エンジンをR34型GT-Rのエンジンルームに押し込んだのだった。

 このとき、開発陣は重い直列6気筒エンジンゆえのフロントヘビーに苦しんできた反動のように、あえて言うならばドサクサ紛れで非常に興味深い大改造をR34 型GT-Rに加えている。

 なんと、それまで車体前端部に置かれていたラジエターを車体後端部、トランク内に移設したのだ。軽くてコンパクトなV型6気筒エンジンに換装するとともに冷却水が回る重量物であるラジエターを車体後端に置いた結果、R34 型GT-Rの前後重量配分は劇的に改善された。

 ただし、ラジエターは位置を変えれば済むというものではない。車体前端に置いておけば走行時に空気がラジエターに当たって冷却が行なわれるが、本来密閉空間であるトランクの中に走行風は流れてこないからだ。だからと言って空気を導くために下手なダクトを設ければ空気抵抗が増大してしまう。

 開発陣はまず、改造範囲が拡大された新しい車両規定を受けてそれまでトランク内に置かれていた燃料タンクをキャビン内へ移設した。これだけでも前後重量配分が改善される大きな改良である。そのうえで、空になったトランクの底面に寝かした状態でラジエターが置かれた。

 冷却風を取り入れるインレットはリヤウインドウ下、トランクリッド上面前端部に開けられ、上方からラジエターを通り抜けて冷却を終えた空気はトランク底面からディフューザー上面へ抜けて後方へ向けて排出するようアウトレットが設けられた。

VQエンジンは第5戦から全3台のGT-Rに搭載された。トランク上にラジエターへのインレットを設置。大改良を施したGT-Rだったが、この年は未勝利に終わる。
VQエンジンは第5戦から全3台のGT-Rに搭載された。トランク上にラジエターへのインレットを設置。大改良を施したGT-Rだったが、この年は未勝利に終わる。

■野心的配置で上がってしまった02年型GT-Rの重心


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