更新日: 2020.07.31 17:22
スーパーGT:足りない経験をチームの力で補った埼玉トヨペットGreen Braveの綿密な計画
年を追うごとに戦いのレベルが上がり続けているGT300。経験とともにチームの総合力は高まり、GT500級のドライバーも少なくない。そのなかにあって、埼玉トヨペットGreen Braveは参戦4年目の若いチームだ。
今季からエースドライバーを務める吉田広樹においても、優勝したことはなかった。さらに、チームメイトはルーキーの川合孝汰、JAF-GT規定で製作したGRスープラのデビュー戦でもある。それぞれにとって、快挙と言える初優勝だった。
川合は「宝くじが当たったんじゃないかぐらいの運だと思います」と、自身のデビューウィンを笑顔で振り返る。たしかに、運が味方した部分もあった。第1スティント、トップを争っていたLEON PYRAMID AMGが先にピットイン。
タイヤを左側の2輪交換でピット時間の短縮を狙うが、左リヤのホイールナットが緩まないトラブルによりタイムをロスしている。これがなければ、第2スティントでも2台の接近戦が繰り広げられていただろう。
しかし、幸運だけでは勝てないのがいまのGT300だ。普段は各店舗で勤務するサービススタッフがメカニックを務めるディーラーチームは、タイヤ交換のリスクをなくすべく、タイヤ無交換の戦略を採った。
そのために3月の岡山テスト、6月の富士テストは、ブリヂストンから無交換の許可を得るためのロングランに徹した。
新車を投入するチームにとって、少ないテスト時間は初期トラブルの洗い出し、セッティングを詰めることに使いたかったはず。それでもノートラブルでトップを争えるクルマに仕上げてくれたチームに、吉田と川合は感謝の言葉を並べる。
「僕たちドライバーは、チームが用意してくれた道具でベストを尽くすだけ。しかも、とくに手がかかるJAF-GT。勝因はチームの力」と吉田。川合は「平沼(貴之代表)さんの支えもあって」と付け足す。
GT500にうまく抜いてもらうためにも、周囲の状況を把握して走らなければならないスーパーGT。平沼氏は自身のドライバー経験を活かし、スポッターとして川合にその情報を無線で伝え続けた。ライバルに対して足りない経験を、チーム一丸となって補い合っていたのだ。
ドライバーとしての仕事も優勝に相応しいものだった。ルーキーの川合がスタートを担当。ハコ車レース自体が初めてで、タイヤを温存してバトンをつなぐという役割を、LEON PYRAMID AMGにピタリと着いて完遂した。
だが、「前に集中していると、無意識にタイヤを使っちゃう。まだまだです」と川合。その走りを見守っていた吉田も「心配でした(笑)」という。
「でも、僕がスーパーGTのデビューレースでそれができたかというと、まったくできない。100点満点の走りですよ」
その吉田はセーフティカーの導入により20秒ほどあったマージンがなくなってしまっても、安定した走りで後続を抑え切った。
初優勝に喜びながら、「今後はタイヤ無交換ができないレースもあるだろうし、60kgのウエイトを積んで戦うのも初めて。僕も孝汰もチームも、もっとレベルアップしていかないと戦えない」とシリーズを見据えて冷静に語る。
川合は2006年のF1日本GP、鈴鹿で観たミハエル・シューマッハーの走りに憧れてドライバーの道を歩み出したという。
「彼のように感動してもらえるような、影響力があるドライバーになるのが一番の目標です」
今日、その一歩を踏み出せたのではないか。
「まだ1勝でしかない。まずはカワイじゃなくて“カワアイ”っていう名前を覚えていただかないと(笑)」
JAF-GTのGRスープラ、成長著しいチーム、エースとして頼もしい吉田、ルーキーの川合。今季のGT300は、彼らから目を離せそうにない。