KEIHIN NSX-GTが2018年開幕戦岡山以来の優勝で「ストップ・ザ・スープラ」に成功。塚越広大とベルトラン・バゲットが、GRスープラ勢を従え表彰台の最上段に立った。開幕戦富士でのNSX勢は予選こそスープラと互角だったが、決勝ではズルズルと順位を下げ、RAYBRIG NSX-GTの6位が最上位と惨敗を喫した。
しかし、開幕戦と同じような条件ながら、第2戦富士でのNSXは占有走行から決勝まで一貫して速さを維持した。予選ではARTA NSX-GTとKEIHIN NSX-GTがフロントロウを分け合い、決勝でも中盤まで激しい首位争いを展開。
ドライバー交代直後、野尻智紀がコールドタイヤでスピンアウトしなければ、ARTA NSX-GTが優勝していた可能性もある。NSXの相対的な戦闘力は、確実に向上していた。
開幕戦では「最高速の低さ」と「決勝のペースダウン」がNSXの弱点として浮かび上がった。GRスープラ勢がNSX勢を最高速で凌駕し、ストレートエンドでいとも簡単に抜き去る光景が何度も見られた。
その差を埋めるためにはエンジン出力を大幅に高めるか、ドラッグを低減するしかないが、前者は新エンジンへの交換なくして不可能。ドラッグの低減により最高速を高める方が現実的である。
何人かのエンジニアからは「ベース車の形状違いによりNSXはGRスープラよりも空力面でやや不利ではないか?」という声が多く聞かれた。スケーリングに関する規則が、ノーズが尖りキャビン後方がコンパクトなGRスープラに有利だというのだ。
結果、フロントのカナード周辺、ミッドシップのエアインテーク形状を残すCピラー周辺、リヤウイング下部の空力効率に差が生じ、それが最高速に影響を及ぼしている可能性があると彼らは見ている。
とはいえ、空力開発が許されない規則下では、リヤウイングの角度調整、車高、動的な状態でのレーキアングルコントロールくらいしか手段はない。
開幕2戦の予選での最高速を比較すると、多くのクルマが低下していた。気温が高くなり、GRスープラ勢に関してはヘビーウエイトを積んだクルマが多かったことを考えれば当然だが、NSX勢ではARTA NSX-GTとKEIHIN NSX-GTは最高速を落とさなかった。
気温等条件の悪化を考えれば、むしろ相対的には上昇したといえる。NSX勢でもRAYBRIG NSX-GTやModulo NSX-GTは3km/h以上遅くなっていたが、ARTA NSX-GTとKEIHIN NSX-GTが予選だけでなく決勝でも速かったことを考えれば、最高速が改善し、それがプラスに働いたと考えて良いだろう。
最高速を伸ばすためにダウンフォースを削れば、コーナーで遅くなるだけでなくタイヤの摩耗も厳しくなる。ARTA NSX-GTは開幕戦で早々にタイヤがタレ、スピードを維持できなかった。選んだタイヤが柔らか過ぎたのでは? という見立てもあったが、エンジニアのライアン・ディングル氏はそれを否定する。
「たしかに少しだけレンジを外していましたが、タレた後の福住(仁嶺)選手のペースは悪くなかった。クルマのバランスが一発に合っていて、オーバーテイク時など理想的な荷重をかけられない状況でのバランスが良くなかった。そのため第2戦ではコンセプトを大きく変えました」
ドライバーのコメントも鑑みて分析すると、開幕戦でのARTA NSX-GTはややナーバスな挙動をタイヤのグリップで抑え込むセッティングだったため、タイヤがタレると挙動がピーキーになっていたようだ。対するGRスープラ勢はタイヤのグリップが低下しても姿勢の乱れは少なく、それが決勝での強さにつながったと推測できる。
第2戦に向けて、決勝重視に切り替えたARTA NSX-GTのセッティングは奏功し、ロングランが安定していただけでなく、予選でもポールポジションを獲得するなど穴がなく、野尻は決勝に向けて大きな自信を示していた。実際、決勝でもARTA NSX-GTは速く、スタートを担当した福住のタイムはスティント終盤になってもあまり落ちなかった。