青空に包まれたスーパーGT第6戦鈴鹿の決勝レーススタート直前のグリッド。Audi Team Hitotsuyamaの一ツ山亮次代表は、別件で話をしていた筆者に「レース後、取材に来てもらえるように良いレースをしますよ」と笑顔をみせた。ふだんはあまりそんな会話はしないのだが、レース後、ふたたび笑顔の一ツ山代表に取材を申し込むことになった。Hitotsuyama Audi R8 LMSは会心のレース運びをみせ、GT300クラスを制し2016年以来の優勝を飾ってみせたのだ。
■予選、作戦、展開、幸運。すべてが味方に
長年スーパーGTに参戦を続けるAudi Team Hitotsuyamaは、アウディR8 LMSを走らせトップチームのひとつとして戦ってきた。しかし「ここ2〜3年のスーパーGTは、どのチームが勝ってもおかしくないくらいの体制ですからね。なかなか勝てず、心が折れかけたときもありました」と一ツ山代表が言うとおり、近年は勝てる体制を整えながらも、激戦のGT300では、なかなか栄冠には届かなかった。
今季チームは、メンテナンスを名門チームルマンに委託し、さらに若き川端伸太朗を招聘。本来はアウディワークスドライバーのクリストファー・ミースを起用し、開幕前のテストでもドライブしていたが、新型コロナウイルスの影響でミースの来日がかなわず、こちらも若き近藤翼を起用した。
ふたりは毎戦好レースを展開しており、すでに今季は2回の入賞を果たしているが、課題だったのは予選。グリッドがうしろではアクシデントに巻き込まれることも多く、また近年のGT300はグリッドが良くなければレースで大きく順位を上げるのは、よほど展開に恵まれない限りなかなか難しい。
「今年、レースペースはずっと良かったんです。一方で予選での速さが足りなかったので、そこをなんとかしようと公式練習から集中していました。それが功を奏し、6番手に食い込むことができたのが勝因のひとつですね」と一ツ山代表は勝因をまずひとつ挙げた。
迎えた決勝。スタートドライバーを務めた近藤はポジションを上げていくと、GAINER TANAX GT-Rの後方の4番手につけていく。近藤が履いていたタイヤは前日のQ2で使用したもので、ロングランも可能だった。戦略の幅を広げるべく、なるべく近藤のスティントを長く保つ作戦だったが、GAINER TANAX GT-Rはなかなか抜けず、引っかかる状態になってしまった。
このときトップはSUBARU BRZ R&D SPORTで、2番手にはADVICS muta MC86がつけていたが、このままでは上位2台とはギャップが開いてしまう。そこでチームは急遽作戦を変更し、19周を終え近藤をピットへ呼び戻した。その直後、CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rとの接触で埼玉トヨペットGB GR Supra GTがS字でクラッシュし、セーフティカーが導入される。このタイミングこそが“二つ目の勝因”だ。
レースはGT500が27周目に入ったときにリスタートを迎えるが、直後、ステアリングを受け継いだ川端伸太朗がヨコハマの温まりの良さを活かし、ADVICS muta MC86をオーバーテイクしてみせた。ここでADVICS muta MC86に抑えられていたら、優勝はなかった可能性が高い。これが“三つ目の勝因”となる。
チームにひさびさの優勝をもたらすべく川端はトップを快走することになるが、レース終盤にチームをヒヤリとさせたのが燃料だ。「レース終盤に向けて燃料が足りないんじゃないかという状況になってしまったんです。計算するとやはり足りない。残り10周程度でうしろとマージンもあったので、最後は落としてもらった」と一ツ山代表。
川端がレース終盤に2番手と接近したのはこれが原因で、さらにはラッキーも加わった。これは映像にも映っていたが、GT500上位陣がHitotsuyama Audi R8 LMSをラップしていったのだ。そのため、GT300の周回が1周減った。「それがなかったら止まってしまったかもしれません」と一ツ山代表。このラッキーこそが、“四つ目の勝因”となった。
まさにアウディのロゴマーク“フォーリングス”のように、四の勝因が輪を描いたからこその勝利。「うまくいくときはすんなり勝てるんですよね。あきらめなくて良かったと思っています」と一ツ山代表は安堵が入り交じったような笑顔をみせた。