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スーパーGT ニュース

投稿日: 2021.03.20 12:00
更新日: 2021.03.22 18:09

今明かされるマイナーツーリング、スターレットvsサニーの死闘。カギはエンジンではなく車体

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スーパーGT | 今明かされるマイナーツーリング、スターレットvsサニーの死闘。カギはエンジンではなく車体

『富士グラチャン(富士グランチャンピオンレース)』。この言葉に反応するオールドファンならば忘れられないのが、前座のマイナーツーリングだ。排気量1300cc以下のツーリングカーで争われるこのレースにおいて1970年代前半を席巻したのがB110型サニーだった。

 サニーの登場までこのクラスはトヨタの独壇場であった。失地回復を目指してトヨタは1975年新型スターレット(KP47)にDOHC4バルブエンジンを搭載して投入。エンジンパワーでサニーを圧倒した。スターレットの4バルブに対してサニーは2バルブ、しかもOHVだった。対抗しようと各チューナーは工夫を凝らし、吸排気バルブ駆動用プッシュロッドを軽量化するために、当時は最先端であるカーボン素材使用するなどチューニング競争を繰り広げた。

 1971年にガレージを立ち上げて、マイナーツーリングの雄として戦ったつちやエンジニアリングもそうしたチューナー競争の只中にあった。代表である土屋春雄氏が着目したのはエンジンでなく、足回りだった。もちろん、エンジンチューニングもさらにトルクを絞り出し、回転を上げようと努力していたものの、DOHCとOHV、その差は埋めようがなかった。

 舞台となるのは富士スピードウェイの旧コースである。メインストレートから飛び込む30度バンクの使用が中止されたものの、タイトな1コーナーの後は250R~100R~ヘアピン~300R~最終コーナーと連なるハイスピードコースだった。シケイン状のAコーナー、Bコーナーが追加されるのは後の時代だ。あるとき土屋氏はこの最終コーナーをスターレットが全開で抜けられないことを知った。もしも最終コーナーを全開のまま抜けられるのであれば、パワーに劣るサニーにも勝機があるのではないかと考えた。

 そして、もうひとつコーナリングで着目したのがヘアピンでのコーナリング姿勢である。旧富士のピットは今よりも最終コーナー寄りにあって、ピットから出るとすぐにヘアピンのコースサイドに行くことができる。そこでコーナリング姿勢を見ると、サニーは一様にコーナリング中に前のめりの姿勢になっており不安定だった。これではコーナーを速く走れるわけがない。

土屋氏が着目したのはヘアピンでのコーナーリング姿勢
土屋氏が着目したのはヘアピンでのコーナーリング姿勢

 スプリングレートを上げる、ダンパーの性能を上げるなど対処療法ではなく、土屋氏は根本的な解決策を練った。前のめりの姿勢はロール軸の傾きに起因すると着目したのだ。サニーのフロントサスは、ストラットタイプであり、リヤはホーシングを使用する当時は常識のリジット。重心高を落とすために車高を下げていくと、フロントのロールセンターは大きく下がるのに対して、リヤはリジットのため変化がない。結果としてロール軸は大きく前下がりになる。これがヘアピンでの前のめり姿勢につながっていると考えた。

 そこでフロントはストラットの下部を延長してピロボールを追加。ロアアーム長を伸ばすとともに、上反角がついてしまっているアーム角度を修正して水平から下反角がつくように矯正。さらにリヤは、ホーシングのセンター下部にピボットを追加して、左右にAアームを構成するような支持方法としてロールセンターを下げた。フロントは上げて、リヤは下げる。これによってロール軸を水平にした。結果は狙い通り。コーナーリングを武器に1979年、トムス・スターレットを破り、つちやエンジニアリングはサニーでチャンピオンを獲得することに成功した。

 これには後日譚があり、1983年、スターレット・グランドカップの車両を扱うようになり、同様のモディファイをしたところ、ホーシングの剛性不足から歪みが生じてしまったとか。補強を追加することで対策したという。

 翻訳物のレーシングカー・サスペンション設計の本は参考にしたとのことだが、1970年代後半に、サスペンション・ジオメトリーに着目してクルマづくりをしていたとは、土屋氏の先進性と観察眼、想像力に恐れ入る。当時、サスペンションのモディファイについて、ライバルに対して隠すことはしなかったと土屋氏は語るが、あまり誰もそこに着目しなかったという。「意図が理解できなかったのはないか」と土屋氏。

1979年宿敵スターレットの背後につけるつちやサニー。アドバン・スターレットの真後ろ3番手の赤いクルマ
1979年宿敵スターレットの背後につけるつちやサニー。アドバン・スターレットの真後ろ3番手の赤いクルマ

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 マイナーツーリングからスーパーGTまで。こうした知恵と工夫のつちやエンジニアリングによる50年間のクルマづくりが詰まった丸ごと一冊特集ムック『SUPER GT file 2021 Special Edition 一冊丸ごとつちやエンジニアリング大特集』が4月9日(金)に発売される。これまでのRacing onやauto sportで掲載した企画を集め、新規企画を追加し再構成している。

 50年間のつちやエンジニアリングの歩みを概観することで、日本におけるツーリングカーレース&GTカーレース史をも概観することができるだろう。過去を知ることで、今を知り、未来を語ることができる。オールドファンだけでなく、スーパーGTからファンになった読者にも手に取ってほしい一冊になっている。

『SUPER GT file 2021 Special Edition 一冊丸ごとつちやエンジニアリング大特集』の詳細はこちら
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