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スーパーGT ニュース

投稿日: 2021.03.22 18:41
更新日: 2021.03.22 18:42

グループAで繰り広げられたシビックvsカローラ対決。爆音ディビジョン3のエンジンチューニング

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スーパーGT | グループAで繰り広げられたシビックvsカローラ対決。爆音ディビジョン3のエンジンチューニング

 ノーマル然とした……というより外観についてはノーマルの維持がレギュレーションで決められており、当時を知らないファンにとってN1とあまり変わらないのではないかと思われても仕方がない。しかしグループA(全日本ツーリングカー選手権)のディビジョン3においては激しい開発競争が繰り広げられていた。ディビジョン3と限定するのには理由がある。

 1990年以降、1993年までのグループAの後半期、日本国内においてディビジョン1はスカイラインGT-Rによるワンメイク化が進み、ニスモが開発をコントロールしていた。ディビジョン2はBMW M3の実質ワンメイク。マシンの完成度も高く、参戦はプライベートチーム主体で開発の余地は少なかった。だが、排気量1600cc以下NAのディビジョン3だけはトヨタvsホンダの戦いが続いたのだ。

 余談だが、グループA当時、排気音量規制はなく、NAのディビジョン3では効率を最優先してメガホンタイプの排気管が定番。出力は200ps程度だが、排気音量はすさまじく大きかった。ピットで暖気していると、隣のピットを使うGT-Rを走らせるあるチームの重鎮ドライバーが「うるさい!」と一喝。暖気のエンジン音が止まったというエピソードもある。ピットで暖気しなければ、どこで暖気するのかと言いたくなるが、怒りたくもなるくらいの爆音を奏でていた。

 ディビジョン3の戦いにおいてホンダの実質ワークスである『無限』を相手に、一歩も譲らない戦いを繰り広げたのがつちやエンジニアリングである。『ADVAN(アドバン)』のワークスであることを示すゼッケン25番をつけてトヨタ・カローラを走らせた。

 サスペンションなど車体関係のパーツについてはホモロゲーションパーツを使用することが義務付けられており、軽量化を徹底するぐらいでライバルと大きく違うことはできない。一方、エンジンついては、ベース車両のヘッドやブロックを使うことが義務付けられているものの、インナーパーツについては変更や改造の範囲は広く、ここがポイントだった。

 つちやエンジニアリングがどんなエンジンチューニングをしていたのか、克明に調べたある人物がいる。借りて実戦に使用したエンジンを大胆にも無断ですべて分解、寸法や数値に至るまで調べ上げた。そのコメントを以下に引用する。

「いつだったか、オヤジ(土屋春雄/つちやエンジニアリング代表)が開幕戦を出ないことがあって、エンジンを借りたの。やっぱりそのエンジンはよく回って、無限をやっつけたりできたと思う。その後、エンジンを返す段になって、もったいないから全部調べることにした。最初、シリコンをプラグ穴から流し込んで容積を量ろうとしたらダメで、ヘッドをはぐってアクリル板の上に起き、シリコンを流し込んで量った」

「ピストン側をみてわかったのは、消耗品のピストンの加工はリセス(バルブの逃げ)加工くらいで最小限にとどめてばらつきも少ないこと。ヘッド側で精度を出していた。オレの場合にはそのままバルブガイドをリン青銅のレース用に換えていたけど、角度の微修正をしたうえでガイドを打ち替えていたのだと思う。ピストンの加工が少なければそれだけお金も掛からないし、自分たちでもできる。ヘッドにはお金が掛かっても長く使える」

「あと、シリンダーは摺動面がすごくきれいでびっくりした。なんでこんなにきれいなのかとピストンを外して、ピストンリングを外してみたら合口が広かった。ピストンリングの張力を下げて使っていたんだな。だから少しオイル消費が多いけども、フリクションが減って摺動面に傷が入らないのだとわかった。ブロックはメタルのキャリア部分が加工してあって、鉄のシートを追加、その上に純正のシビック用のメタルを使ってあった。部品代が安いしフリクションなどの点でメリットがあったんだろうな」

「バルブスプリングもスズキの750ccかなにかを流用していた。TRD製はすごく値段が高くて、レートも高くなおかつサージングも起きたけど、バイク用なら安いし、レートも低くてフリクションも減るし、12000rpmとか回すエンジンだからサージングの心配もない。オイルポンプまでばらせるところは全部ばらして確認してから、組み直して返した(笑)。これで『よし!』とおなじように組んだんだけど、おなじようにはならない。勝てなかった」

「とにかく、オヤジは純正も信じていないし、TRDのパーツも高価なものや耐久性に少しでも心配があるものは使っていなかった。安く使えるものを探すことに情熱を傾けていたね。AE82の頃にはインテークにアルミのやかんを使っていたし、MR2のときも純正のスバル・インプレッサ用タービンをIHIの知り合いに加工してもらって20万円掛からないと自慢していたな」

 つちやエンジニアリングがいかに独自のエンジンチューニングをしていたのかわかる証言である。対するホンダ・シビックを走らせる無限は、参戦車両にある程度均一な性能でエンジンをデリバリーする必要があり、ここまでは突き詰めることはできなかっただろう。ちなみに“無断で分解”とは書いたが、実際には土屋春雄も許容していたようだ。

 ディビジョン1、ディビジョン2にはそれぞれの背景と理由で制約があり、ディビジョン3のなかでも『つちや』だけが突出した存在だったことが、いまになってわかる。ある意味で、最もグループAを楽しんだチューナーがつちやエンジニアリングの代表であった土屋春雄だったのかもしれない。

4A-Gエンジンの外観はいたってノーマルで、オイルパンも鉄板を溶接して構成されていた
4A-Gエンジンの外観はいたってノーマルで、オイルパンも鉄板を溶接して構成されていた

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