1999年JGTC全日本GT選手権最終戦もてぎを前に、62点を獲得、ドライバーズポイントランキングでトップに立っていたのはザナヴィARTAシルビアの土屋武士/井出有治組だった。
これを1点差で追うのはモモコルセ・アペックスMR2の新田守男(パートナーの高木真一は第2戦から出場のため獲得ポイント差が発生)。土屋春雄代表が率いるつちやエンジニアリングが手掛けたMR2と、息子である武士が駆るシルビアが最終戦でタイトル獲得をかけて対決することになった。
最終戦に向けた公式テストでも有利な立場にあるのは武士が乗るシルビアだった。「少なくても(ラップタイムで)コンマ5秒は置いていかれていたね。完全に武士の勝ちだと思った」と春雄代表。シルビアを走らせるのはニスモ。ワークス体制と言ってもいい。S15デビューイヤーを飾るべく必勝体制を敷いていた。
対するつちやMR2は春雄代表がJTCC全日本ツーリングカー選手権のパーツを流用、ホームセンターで購入できるアルミ板やベニヤ板も使って安価につくり上げたマシンだった。96年第5戦において織戸学と土屋武士が乗りデビューし、以降熟成を重ねてきた。98年は鈴木恵一/舘信吾組でタイトルを獲得した。
このままだと連続タイトル獲得は危うい。その状況を救ったのはTRDのエンジン開発担当者だ。
「FASがあるけど使う?」。FASとはミスファイアリングシステムのこと。エンジン吸気にバイパスを設けて、そのバイバス内に少量の燃料を噴射して点火、スロットルオフ時にタービン回転を維持して過給圧低下を防ぎ、コーナー出口での立ち上がりトルクを上げる。
WRC由来の技術でありGT500のスープラに使われていたものが余っているので、使わないかと提案を受けたのだ(ちなみに今はこの機構の使用が現在のGT500では禁止されているため、点火遅角と燃料噴射タイミングで同様の機能をもたせている)。
3S-Gエンジンとターボの組み合わせはGT500のスープラと同様ではあるが、エアリストリクターサイズもGT500とGT300で大きく異なり出力も違う。エンジンレイアウトも横置きミッドシップのMR2とFRのスープラでは大きく違う。新規に機構を追加するにはレイアウトの上でも、エンジンセッティングの上でもリスクが想定された。
しかも、もう実走テストで確認や調整する時間もない。「でもやらなきゃどうせ負けるんだから、博打を打つことにした」と春雄代表。レースに向けてぶっつけ本番で春雄代表はFAS投入を決断した。
しかしクラスポールはザナヴィARTAシルビアの武士。モモコルセ・アペックスMR2がクラス2位につけた。以下GTアソシエイション公式サイトの決勝レポートを引用する。