2021年シーズンはGT500クラスの2台のNISSAN GT-R NISMO GT500にタイヤを供給するミシュラン。4月10〜11日に岡山国際サーキットで開催された開幕戦では、2台ともに予選Q1落ち、決勝では序盤にポジションを上げたMOTUL AUTECH GT-Rはレース後半に接触からリタイアを喫し、CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rが辛くも9位入賞という結果となった。
開幕戦の後、ミシュランで長年スーパーGTタイヤの開発を担当する小田島広明モータースポーツダイレクターに、現在のタイヤ開発状況や全体の勢力図、そして今季導入された新たな規則などについて、話を聞いた。
小田島氏は開幕戦の予選について「(MOTUL AUTECH GT-Rは)シフトに問題があったという報告は受けていますが、それがなかったとしてもQ1突破はギリギリできたかどうか……。一発のタイムという意味では、車種ごとのパワーバランスがあったと思います」と、リザルトにも反映されているとおり、タイヤメーカーに関わらず車種ごとの勢力差があったことを示唆する。
ただ、決勝に向けては、ミシュラン装着車両に対し「レースでの強さは発揮できるのではないか、という期待はしていました」という。それには、ある理由があった。
小田島氏は岡山国際サーキットについて「低負荷のコースですので、ゴム的には摩耗を気にせず“攻める”ことができるのですが、一方でそういったゴムを使うとピックアップ(路面のタイヤかすを拾ってしまう、または自らのタイヤかすが飛んでいかず、一時的なグリップ低下を招く症状)になりやすい」と、コースとしての特徴を語る。加えてミシュランとしては「温度域とか、路面の状況、負荷などについて、ちょっと課題のあるサーキットでした」という。
だが、今回の開幕戦については「ピックアップの影響を少なく抑えることができた」ことを、小田島氏はタイヤの開発成果として挙げている。
じつは昨年後半から、“ピックアップ対策技術”を取り入れたタイヤはできていた。ただ、チーム側の意向もあってなかなか実戦に投入して確認することができなかったという。タイヤメーカーとしては「ピックアップ対策技術を入れたこのスペックを使ってほしい」と提案しても、チームとしては「ピックアップのリスクが多少あったとしても、戦える実績のあるスペックを選びたい」という形になっていたわけだ。
だが、このオフシーズンのテストでピックアップ対策を施したタイヤの評価・検証が充分にできた。それによって開幕戦・岡山への投入が決まったという。そして、公式練習の時点で手応えを感じていたのだ。
開幕戦の決勝ではMOTUL AUTECH GT-Rがレース前半スティントで順位を上げ安定感を見せたものの、ピットでのロスタイムがあったことで後半は順位を下げてトラフィックの中に入り込んでしまい、最後はアクシデントでレースを終えることに。とはいえ完走したCRAFTSPORTS MOTUL GT-R含め、タイヤメーカーとしては開発成果を感じることができたという。
「もちろん、それを使うにあたってはクルマの側(セットアップ)でも若干のチューニングは必要でした。ただ、タイヤとしてはひとつのブレイクスルーだったと思います」
今後は路気温ともに上がる時期を迎えるが、今回のピックアップ対策は他のサーキット向けのタイヤにも投入できる技術だという。このオフはマレーシア・セパンでのテストはできなかったものの、暑い時期向けのスペックは開幕戦後の鈴鹿でのタイヤメーカーテストで「ある程度確認」し、第2戦富士500kmレースでもこの技術を投入したタイヤを持ち込む予定だ。
その後のレースに向けても、たとえば昨年未開催のオートポリスでは「今回投入したピックアップに適応できる技術が、かなり有利に働くと思っています」と小田島氏は期待を寄せている。
昨年は鈴鹿で2勝を挙げているGT-R+ミシュランのパッケージ。今季は鈴鹿でのレースは一度のみとなるが、新たな技術が込められたタイヤを含め、この先どのレース/サーキットでその真価を発揮できるのか。ライバル勢ではピックアップに苦労するチームと、ほとんど苦にしないチームとが明確に分かれる傾向にもある。このあたりも、今季のひとつの注目ポイントとなりそうだ。