空力開発は完全凍結。モノコックやサスペンションなども共通パーツ。各社が独自要素を盛り込めるエンジンにしても大型部品は登録制で開発に規制がかけられている、2021年現在のスーパーGT GT500クラス。「じゃあ、クルマは昨年と同じでしょ?」と思いたくもなるが、ホンダ、トヨタ、ニッサンの3メーカー開発陣は2021シーズンに向け、開発の許されるわずかなエリアで改良を施してきている。しかもその努力の一部は、すでに結果となって現れつつある。
ここでは、メーカーの開発担当者への取材から、2021年型GT500マシンの進化を探る(取材は開幕前に実施)。まずは昨年王者のホンダから。
* * * * *
■昨年は「クルマに対する理解度が低かった」
2020年は最終戦の劇的な逆転劇でレイブリックNSX-GTが優勝し、GT500クラスのチャンピオンになった。だが開発陣は「負けていた」と20年シーズンの戦いぶりを評価した。
「クルマに対する理解度が低かったのがシーズンを通しての課題でした。タイヤ選択を含めて、決まれば速くて強いレースができることもありました。しかし1年間を通してみると、速さ、強さの部分でスープラに負けていたというのが我々の印象です」
NSX-GTの開発を率いる本田技術研究所、HRD Sakuraの佐伯昌浩LPLはこう説明した。
Class1+α規定が導入されたタイミングに合わせ、ホンダはそれまでMR(ミッドエンジン・リヤドライブ)だったNSXのレイアウトをFR(フロントエンジン・リヤドライブ)に変更した。MRに特有のクルマの動きは現行規定が導入された14年以降の開発と実戦経験を通じ、熟知していた。だが、FRのGT500車両を走らせるのは久しぶりだし、現行規定では初めてだ。まずは素性を理解しないことには手が打てない。
「タイヤの選択に際しても、そのタイヤに対してこのセットアップが本当に一番正しいのかも含めて、理解が足りないままシーズンをスタートしました。そこが苦しかった部分です。ですから、21年シーズンに向けた開発テーマは、MRのときにメリットだったことをFRのクルマでも持たせ、速さ、強さを引き出すことでした」
FRになってリヤタイヤの負担は軽くなるはずだったが、リヤタイヤのピックアップ(タイヤかすを拾ってしまう現象)がひどいのは相変わらずで、フロントもきつくなってしまったという。MRの弱点を抱えたまま、FRの弱点が上乗せされたのが実状だった。20年シーズンのそうした経験を受け、デメリットをメリットに転換するのが、21年型NSX-GTの開発にあたり掲げたテーマだった。