空力開発は完全凍結。モノコックやサスペンションなども共通パーツ。各社が独自要素を盛り込めるエンジンにしても大型部品は登録制で開発に規制がかけられている、2021年現在のスーパーGT GT500クラス。「じゃあ、クルマは昨年と同じでしょ?」と思いたくもなるが、ホンダ、トヨタ、ニッサンの3メーカー開発陣は2021シーズンに向け、開発の許されるわずかなエリアで改良を施してきている。しかもその努力の一部は、すでに結果となって現れつつある。
ここでは、メーカーの開発担当者への取材から、2021年型GT500マシンの進化を探る(取材は開幕前に実施)。ホンダ編、トヨタ編につづき、最後にニッサン編をお届けする。
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■名称変更で生まれた意識
2020年はエンジンの設計を大きく見直すにふさわしいタイミングだった。なぜなら、シリンダーヘッドやブロック、オイルパンにクランクシャフトなどの鋳物部品の開発凍結が一旦解除されるからだ。20年に登録した部品はこの年を起点に3年間開発が凍結される。
このタイミングを活かし、ニスモは新設計のエンジンを投入。これにともない、名称はNR20AからNR20Bに変更した。2ℓ直列4気筒直噴ターボに燃料流量規制を組み合わせた現行規定が導入された14年以来、7年目にして初の名称変更だった。それだけの価値がある変更内容だったことを示している。
なんとニッサン/ニスモは、21年シーズンを迎えるにあたってもエンジン名称を変更した。今度はNR4S21だ。記したように、鋳物部品は開発が凍結されているため大がかりな変更はできない。ただし、鋳物部品の機械加工は可能で、ポートの形状変更は行なうことができる。ピストンやコンロッド、カムシャフトの変更も可能だ(2基目を投入するタイミングでも可能)。変わっているか、変わっていないかと問われれば確かに変わっており、名称を変更しても不思議ではない。
ニスモでパワートレーン開発責任者を務める石川裕造氏が、その理由を説明する。
「ニッサン/ニスモはエンジン名称をなかなか変えないでいました。昨年は変えられる年だったので変えたのですが、我々のなかでも『変わったんだ』という意識が生まれました。名称の由来についてはご想像にお任せしますが、エンジンを進化させたのに合わせ、名前を変えていくことにしました」
エンジン名称を変更したことで、開発サイドにポジティブな意識の変化があったのだという。ファンに対して「変わった」ことを伝える意味もあり、2年連続での名称変更に踏み切ったそう。ひと言でいえば、NR4S21はパフォーマンスが上がっている。
「これまで何度も説明していることですが、一気に上に行くことはできません。とにかく燃焼を良くすることに尽きます。点火を見直し、圧縮を見直し、混合気を見直す。これらすべてはつながっていますので、こっちを変えたらあっちも変える。それを繰り返しながら修正していきます」