スーパーGTのGT500クラスを始め、国内の各カテゴリーを最前線で戦うトムス。そのチーフエンジニアである東條力氏が、スーパーGTのレース後にコラムを寄稿してくださることになりました。
これまで2戦・2回にわたってお送りしてきましたが、今回はスーパーGT第3戦の延期に伴う“特別編”をお届け。今季、国内各カテゴリーで活躍する若手の代役ドライバーたちについて、東條氏の視点で書き下ろしていただきました。
本題に入る前に、まずは来るスーパーGTもてぎ戦への展望から、お読みください。
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オートスポーツweb読者のみなさん、こんにちは。トムスレーシングのチーフエンジニア・東條です。
スーパーGT Rd.3 鈴鹿大会が8月21~22日へ延期となり、Rd.4 もてぎ大会(7月17~18日)までは、長いインターバルとなりました。ファンの皆様には、お待たせしており大変申し訳ございません。お詫びを兼ねまして、コラムを1本追加させていただきました。今回もよろしくお願いいたします。
スーパーGTもてぎと言えば、昨年のトムスは苦戦しました。
その原因は、ブレーキングスタビリティ不足と中距離ストレートの伸び。そのポイントでライバルのNSX-GTに大きな差をつけられてしまいました。それに加えて、我々はコンパウンド(タイヤ)を攻め過ぎていたこともあり、思い描いたような力強いレースをすることができませんでした。
これらを踏まえ、オフシーズンテストではさまざまなトライを行ない、改良を加えてきました。
その甲斐あって、今季開幕戦の岡山と続く第2戦富士では、セットアップとタイヤのベースコンパウンドを一段階引き上げる事ができました。そして、岡山の中距離ストレートや富士のロングストレートでも、スピードの伸びは良くなりました。
今シーズンはもてぎ戦が2ラウンド予定されているため、チャンピオンシップを争う上でもとても大切な位置づけとなります。
NSXは今年ももてぎを得意としているでしょうし、暑くなってくればミシュラン+GT-Rのスピードは戻ると考えています。あるタイヤメーカーは、低ミュー路面での無交換作戦をも視野に入れているはずです。
また、それぞれの陣営にサクセスウエイトの軽いマシンが散らばっている事から、夏のもてぎは大混戦になるものと予想します。比較的ウエイトの軽い36号車au TOM’S GR Supraは優勝必達、37号車KeePer TOM’S GR Supraは首位奪還の3連続表彰台を目指して、準備を進めているところです。
■大パワー車の方が合っているかもしれないアレジ
さて今回は、トムスの代役ドライバーについて、考えてみたいと思います。
もはや国内よりも、WEC(世界耐久選手権)での活躍が明らかに目立っている中嶋一貴選手。スーパーフォーミュラ(以下、SF)Rd.1富士大会を消化して以降、WECの方へ出向いての開幕2連勝。チャンピオン街道のど真ん中を進んでおりまして、そのシートをトムスのスーパーフォーミュラ・ライツ(以下、SFL)のジュリアーノ・アレジ選手が暖めています。
初戦の鈴鹿では、いきなりのQ3進出で周囲を驚かせ、スタートで順位を下げるものの、その後のオーバーテイクショーでカメラを独り占めしてポイントゲット。本家のSFLは一体なんなのよ的なピットのざわつきを他所に、期待以上の大活躍を披露しました。
続く雨のオートポリスでは、奇跡のポールtoウインを果たしました。度重なる赤旗中断があって、正直なところラッキー感は否めません。しかし、2年も経てばポールポジションと優勝の事実だけが記憶に残るので、今はジッと辛抱です。ア●クサに「今、何時?」と尋ねたら、「アレジ」と即答するくらい、モッてる人のお手本のような好成績を収めました。
先日行なわれましたRd.4 SUGOでは3戦連続となるQ3進出とポイントを獲得しました。すでに一貴選手の戻る場所はあるのか疑惑さえささやかれるほど。どちらかと言えばSF的大パワーの方が、彼には合っているのかもしれません。
SFLとのWエントリーの甲斐あって、木曜日からたっぷり走行できていることも、好成績につながっているのは間違いないと思われます。
そして、それ以上に大切なのは、彼の心の中。謙虚さと明るい性格が、チームスタッフや周囲の人たちとの距離を近くしているようです。
御殿場住まいを選び、所用もないのに毎日ガレージに通ってくる姿勢は、トムスF3を卒業後に日本や世界のサーキットで活躍するドライバー達と同じです。今年は日本のレースを勉強し、来季以降大きく羽ばたいて欲しいと思っています。