レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る

スーパーGT ニュース

投稿日: 2021.07.31 15:48
更新日: 2021.07.31 15:50

WedsSportとの超接近戦を受け入れ、バトルをワザで制した山本尚貴の強さ/大串信の私見聞録

レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る


スーパーGT | WedsSportとの超接近戦を受け入れ、バトルをワザで制した山本尚貴の強さ/大串信の私見聞録

「自動車レースの主役は人間なのか機械なのか」という疑問は、きっと自動車レースが始まった頃からさまざまなかたちで投げかけられ続けた宿命みたいなものなんだと思う。レーシングテクノロジーが未熟だった時代は、きっと人間であるドライバーのテクニックがモノを言ったのだろうけれど、自動車技術が高度になった近年は機械からいかにうまく性能を引き出すかが競われるようになって、人間の関与する領域がかなり小さくなってきたように感じる。

 真夏のツインリンクもてぎで開催された2021スーパーGT第4戦でも、スタート前、ホンダの佐伯昌浩ラージ・プロジェクトリーダー(LPL)は「各チームが選択したタイヤがどのように機能するかがカギになる」と予想していた。これを拡大解釈すれば、人間であるドライバーがいくら頑張っても、タイヤがコンディションに合わせて機能しなければどうにもならない、ということになる。言ってしまえば、レースの勝敗はタイヤを含む機械が決めることになるということだ。

 もちろん、あまりデータのない夏のもてぎで路面温度が50度を超えるなかレースが行われたのだから、基本的にはそのとおりだったと思う。だから、スタート後トップを走っていたSTANLEY NSX-GTの牧野任祐のペースが上がらず、WedsSport ADVAN GR Supraに乗る国本雄資に迫られてなすすべなくオーバーテイクを許したときには、「今回のヨコハマタイヤ、スゲ~! 牧野、かわいそう!」と思っていた。

 ピットでレースの展開を見ていた山本尚貴(STANLEY NSX-GT)も、「週末初めて路温が50度超えるまで上がって、牧野選手のスティントでは圧倒的にヨコハマタイヤがスピードアップしたことが見ていて分かった」と思っていたという。

 だがその後、牧野はずるずる後退することもなくしっかりと国本に食いついていったから、ぼくは「オ~、苦しいだろうに頑張ってるぞ」とうれしくなったが、心の中では「でもかわいそうだなあ、こんな状況ではとても無理だよなあ」と、この先の展開が見えてしまったような気にもなっていた。

2021スーパーGT第4戦もてぎ STANLEY NSX-GT牧野任祐をオーバーテイクするWedsSport ADVAN GR Supra国本雄資
2021スーパーGT第4戦もてぎ STANLEY NSX-GT牧野任祐をオーバーテイクするWedsSport ADVAN GR Supra国本雄資
2021年スーパーGT第4戦もてぎ決勝
ドライバー交代の直前までモニターで戦況を見つめる山本

■“あえて”頑張りすぎない

 WedsSport ADVAN GR Supraがピット作業に手間取った隙に、牧野からSTANLEY NSX-GTを引き継いだ山本がトップに立っても、その差が4秒やそこらではすぐ追いつかれてしまうだろうと思っていたらそのとおりになって、山本は宮田莉朋(WedsSport ADVAN GR Supra)に攻め立てられ始めた。傍観者としては山本のトップ陥落は時間の問題だと思った。

 いくら山本が頑張ったところで、このときのタイヤパフォーマンスの差は、外から見ていても明らかだったし、山本自身も牧野のスティントを見ていてそれをよく分かっていたはずなのだ。レースはまだ半分残っていてブロックを続けるのは困難だ。凡人のぼくから見れば、絶体絶命の状況である。

 ところが、この先はぼくの考えられない展開になった。まず山本は、絶体絶命だとは思っていなかったというから驚いた。「4秒くらいギャップがあったのにすぐ追いつかれたのを見て、たぶんこれ、僕が頑張りすぎると簡単にやられちゃうから、それならむしろ相手を引きつけておこう。そうすれば相手が僕の後ろにつくことによってダウンフォースも抜けるし、タイヤの温度も上がるだろうからしんどくなるんじゃないかな」と考え、宮田の接近を受け入れたというのだ。

 相手が近づかないようにペースを無理に上げようとすれば、自分のクルマにもタイヤにも余分な負荷をかけてむしろ不利に陥る。それならば逆に相手を近寄らせ、しっかりと押さえ込むことで相手の負荷を増やしてやろうという計算である。これまで多くの経験を積んできたベテランだからこそできる計算だが、先がどうなるか分からない状態で、言ってみれば綱渡りのような戦略に踏み切る度胸は、小心者のぼくにはとても想像できない。

■次のページへ:王者になったからこそできる“絶妙なブロック”


関連のニュース