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スーパーGT ニュース

投稿日: 2021.08.17 20:33
更新日: 2021.08.17 20:38

一度はあきらめた四輪の道。スーパーGTで輝きを放つ堤優威が歩んだキャリアとこれからへの思い

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スーパーGT | 一度はあきらめた四輪の道。スーパーGTで輝きを放つ堤優威が歩んだキャリアとこれからへの思い

 2021年のスーパーGTは、8月21〜22日に開催される第3戦鈴鹿でいよいよシリーズ前半戦を終える。今季も多くの注目の若手ドライバーがGT500クラス、GT300クラスとも参戦し注目を集めているが、なかでもひときわ異彩を放つキャリアの持ち主がいる。三宅淳詞とともにたかのこの湯 GR Supra GTをドライブしている、堤優威だ。そのキャリアと将来について、堤に聞いた。

 堤は1995年9月9日、神奈川県出身。5歳から父親の影響でレーシングカートを始めた。当時は坪井翔や山下健太、藤波清斗らが同世代のライバルで、彼らに堤について聞くと「昔から速いドライバーでした」とカート界では知られたドライバーだった。

 ただ、誰もが考えるカートから四輪へのステップアップについて堤は「18歳までカートをやっていたのですが、四輪には興味がなかったんです。スーパーGTは知ってはいましたが、地上波のテレビで知っているくらいで、そこに行きたいという欲はなかった」と言う。自動車メーカーのスカラシップを受けるわけでもなく、カートでは世界選手権にも出場したが、「カートである程度日本でも上にいったので、目標がなくなってしまったというか。そこで、周囲の方から『四輪をやってみたら?』と声をかけていただきました」と、スーパーFJに挑戦することを決意する。

 2014年、堤がともにスーパーFJに挑んだのは、B-MAX ENGINEERING。今でこそジュニアフォーミュラ界では知られる存在だが、まだチーム創設から4年目。「今にして思えば、もっとやるべきこともありましたが、カートのノリのままいってしまいましたし、自分でなんとかできると思ってしまっていた」ともてぎシリーズのランキング2位に終わってしまう。「自分にはセンスがない」と堤は失意を味わった。

 翌年からFIA-F4がスーパーGTのサポートとしてスタートする予定だったが、20歳になる堤に対し、父は「もうお金の援助はしない」と告げる。スーパーFJではチャンピオンが獲れず、堤は「FIA-F4の初年度でお金も必要ですが、知名度もないし、スポンサーもそれほどなかったので、無理だと思ったんです」と一度、レースを諦めることを決意した。

 しかし、捨てる神あれば拾う神あり。「たまたまカート時代にお世話になっていた方が、スーパー耐久でロードスターを走らせていたチーム監督の方と仲が良くて」、ロードスターパーティレースに出場しないかと堤に声をかけた。「ここで速かったら、S耐に出られるよ」と出場した堤は開幕3連勝。TC CORSEのスーパー耐久のシートをつかむことに成功した。

たかのこの湯 GR Supra GT
たかのこの湯 GR Supra GT

■「運が良かった」トントン拍子にチャンスをつかむ

 その後、スーパー耐久に出場していた堤に、さらに新たなオファーが届く。2017年に向けて、マツダはロードスター/MX-5を使った『グローバルMX-5カップ』を世界的にスタートさせようとしていたが、アメリカのラグナセカで、世界各国からロードスター乗りを集める『グローバルMX-5カップ』のエキジビションレースが行われる予定となっていた。このレースに2015年パーティレース王者として出場オファーが届いたのだ。

 ラグナセカという世界的なコースで、各国のロードスター/MX-5乗りを相手に戦った堤は、レース2で3位でフィニッシュ。21歳の誕生日を自ら表彰台で祝った。これがさらにチャンスに繋がる。2017年、CABANA Racingからチャンスをつかむと、グローバルMX-5ジャパン、86/BRZ Raceのクラブマンシリーズに参戦。速さをみせた。

 さらにここからチャンスが生まれる。2018年、本来は86/BRZ Raceのクラブマンシリーズに出場する予定だった堤だが、急遽プロクラスに出場することになる。そこで堤は、スポーツランドSUGOで行われた第2戦で、スーパーGTに出場するトップドライバーが数多く出場するプロクラスでポール・トゥ・ウイン。「あいつは何者だ?」と華々しい注目を浴びることになった。

 2019年には、スーパー耐久でADVICS muta Racingからのオファーを受け、さらにスーパーGTでも2020年にいよいよINGINGから、Cドライバーながら登録されると、さらにチャンスが広がっていく。

「2018年に86/BRZのSUGOで勝った後、挨拶もしたこともない方からたくさんメッセージをいただいたんです。そこからけっこう気にかけていただいていた坂東正敬さんから、コロナ禍で外国人ドライバーが出場できないなかで、arto RC F GT3に『乗れる?』と声をかけていただきました」とarto RC F GT3での出場のオファーが届いたのだ。

 コロナ禍に揺れた2020年は、最終的に第2戦から第5戦はarto RC F GT3で、小高一斗がレース直前の発熱で出場できなかった第7戦はADVICS muta MC86で、第8戦富士はたかのこの湯 RC F GT3で出場。そのまま2021年のたかのこの湯 GR Supra GTのシートを掴んだ。ジュニアフォーミュラをそこまで多く戦っていない堤が、あれよあれよとGT300で表彰台を争うポテンシャルをもつチームのレギュラーシートを獲得したのだ。

「運が良いんですよね。レーシングドライバーはみんな速いですが、昔から大事なレースで勝つときが多くて。例えば賞金があるレースやチャンピオンがかかるレースで勝てることが多いんです。その運の良さが今に活きているのかな、と思います。自分としてはいつも頑張ってはいるのですが、そういう結果を出さなければいけないときに出せているから、今残っているのかもしれませんね」と堤。

「今はこうして別のアプローチでここまで来られましたけど、やっぱりメーカーに所属していた方がいろんな経験もできたと思います。その点は後悔しているところもありますが、逆に言えば助けてくれて、良くして下さった方がたくさんいたので、ここまで来られました」

2016年にラグナセカで開催されたグローバルMX-5カップのエキジビションカップ。日の丸をもつのが堤優威。
2016年にラグナセカで開催されたグローバルMX-5カップのエキジビションカップ。日の丸をもつのが堤優威。
ラグナセカで開催されたグローバルMX-5カップで3位表彰台を獲得した堤優威
2018年TGR 86/BRZ Race第2戦SUGOで優勝を飾った堤優威
2018年TGR 86/BRZ Race第2戦SUGOで優勝を飾った堤優威
2018年TGR 86/BRZ Race第2戦SUGOで優勝を飾った堤優威。2位は平中克幸、3位は谷口信輝。
2018年TGR 86/BRZ Race第2戦SUGOで優勝を飾った堤優威。2位は平中克幸、3位は谷口信輝。
堤優威は今季arto RC F GT3佐々木雅弘とともにドライブしていた。
2020年にarto RC F GT3を佐々木雅弘とともにドライブしていた堤優威
2020年スーパーGT第7戦もてぎ ADVICS muta 86MC(阪口良平/堤優威)
2020年スーパーGT第7戦もてぎ ADVICS muta 86MC(阪口良平/堤優威)

■“感覚派”という堤。「GT500に乗ってみたい」

 そんな堤だが、近年はGT300でも“ダウンフォースの使い方”が重要とされるなかで、フォーミュラの経験はスーパーFJのみでここまでたどり着いている。「まわりからもよく乗れるね、と言われます(笑)」と堤は言う。

「『ダウンフォースとか知らないでしょ』って。でも乗れば分かります。タイヤのグリップもありますが、富士で言えば100Rなど高速コーナーで空力は感じることができます。だからフォーミュラをやっていなくても、GT300は乗れると思うんです」

「ただGT500になると、スーパーフォーミュラ・ライツはやっていないとキツいと思いますね。GT300はABSもついていたりするので制御に頼ることができますが、500はフォーミュラをやっていないと厳しいと思います」

 すぐにGTA-GT300を乗りこなせるあたりからも推測されるが、堤は自身を「感覚派ですね」という。データロガーなどもあまり見ることはなく、「参考にするくらいです。走り方は人それぞれですしね。大きな壁にぶつかったら考え方を変えるときもあるかもしれないですけど、まだそこまでいっていません」というから面白い。

「占いとかでもそうですが、『こうかもしれない』と思うとそうなっちゃうじゃないですか。病は気から……じゃないですが、フラットな視線でいきたいと思います」と堤。

「コーナリングも、限界までまず攻めて、ここまでいくと危ない……というのを把握して合わせるタイプです。リスクがある攻め方のタイプですが(笑)。パッと乗りでどんなセットでも乗れてしまうタイプですし、昨年も3台乗っても大丈夫でした。でも、乗れるが故に、昔の僕はいまクルマのどの部分が悪いのかは分かりづらかったんです」

 しかし、近年スーパー耐久や86/BRZ Raceで開発を担うこともあり、「今のクルマの状態を詳しく話す力がついてきたと思います」とクルマを進化させる力もつけつつある。そんな堤は今後、どういった目標をもっているのだろうか。

「ちょっと成長が止まってしまっている感じがあるんです。どうしたらもっと速くなるのかを常に考えてはいるのですが、『こんなものでいいんだ』というタイムも出ちゃうんです。もっとあるんじゃないか……とは思っていますが、スーパーGTも練習時間が短いので、その中でやるべきことが他にもあるので……。そういう意味では、スーパーフォーミュラ・ライツなども乗ってみたいです」と堤は言う。

「まずはMax RacingでスーパーGTに勝つのが目標ですが、自分としては、たまたま運良くでいいので、GT500に乗ってみたいですね。あと、フォーミュラを自分でも少しやりたいと思っているんです。ライツか、フォーミュラ・リージョナルに出てみたいです。いろいろなチャンスはありますが、悩んでいます。三宅くんがチャンピオン獲ってくれたら来年ライツのシートが空くんですけどね(笑)」

「三宅くんはライツのシリーズ3位ですし、僕が今まで見た中でいちばんボトムスピードが高いドライバーですね。初めて見たタイプです。でもそれも自分とぜんぜん違う走りだったので、収穫になります。ありがたいですね。そういう環境でレースができていますし、勝てるチャンスもなくはないと思うんです。結果を出したいですね。あとは、Q2でトップタイムを出してみたいです」

2021年のスーパーGTでたかのこの湯 GR Supra GTをドライブする堤優威
2021年のスーパーGTでたかのこの湯 GR Supra GTをドライブする堤優威

■あのリアリティ番組に出演していたかも!?

 スーパーGT参戦2年目で、少しずつ知名度は上がりながらも、まだまだ日本のモータースポーツファンのなかで『堤優威』という名はそこまで浸透しているわけではない。このインタビューが知名度向上の一助になれば……と、堤に「ファンの皆さんに、自分のどこを見て欲しいか?」という質問をぶつけると、「なんだろう。インスタグラム(笑)?」と思わぬ返事がきた。しかしそこには、堤ならではのモータースポーツへの思いがあった。

「スーパーGTだと、やっぱりトップ争いしか映らないじゃないですか。GT300でも中団以降もとんでもなく良いレースをしているので、もっと注目を浴びても良いと思うんですよね。そうすると、僕たちだけじゃなく、スーパーGTに出ている若手ももっと目立てると思うんです。だから、いまSNSをやっている20〜30代の若者に、レースを伝えるのが大事だと思うんです。だから本当はスター選手がいれば興味は湧くと思うんですよね」と20代の若者らしい意見が。

 そのモータースポーツへの思いから、実は堤は「レースを有名にしたくて」驚きのアプローチをしたことがあるという。リアリティ番組『テラスハウス』の出演に応募。「まさか受からないだろう」と思っていたところ、最終選考も通過したのだとか。

 ただ、堤は会社に所属しており、「社長に相談したんです。ただあの番組も、自分が悪役になってしまうとイメージ的に悪くなってしまうので、『会社の役員会議としては“イエス”とは言えない』となって出なかった」ということ、また「僕が出ようとしていたのは一昨年の夏で、まだスーパーGTにも出ていなかったですし、そこで『レーシングドライバー』として出るのもイヤだったんです。メーカーに所属していたり、過去の実績もないのに『レーシングドライバー』を名乗るのもイヤで。それも出るのを渋った要因」と残念ながら出演はしなかった。

 しかし「テレビに出ていたら、レースを知らない人たちも観てくれると思うんです。今で言うインスタグラマーとか、ユーチューバーとか、そういうところは欲しいな、と思います。そういう活動はしていませんが、そうなれたら良いですよね。こんなに面白いスポーツなんですから」とモータースポーツがもっとメジャーになって欲しいと願っている。

 一度は四輪へのステップアップをあきらめかけた時さえありながら、その速さを買われ、スーパーGTまで登り詰めた堤優威。今後、どういったキャリアを歩んでいくのか。楽しみなドライバーのひとりだ。

スーパー耐久ではmuta Racing GR SUPRAをドライブする堤優威
スーパー耐久ではmuta Racing GR SUPRAをドライブする堤優威


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