今季、スーパーGT・GT300クラスに新型車両を投入したSUBARU BRZ R&D SPORT。そのステアリングを握る井口卓人選手と山内英輝選手が毎レース後、交互に登場する当コラム、今回は第7戦ツインリンクもてぎのレースを振り返ります。
前戦オートポリスでの表彰台獲得によりポイントリードを拡大、勢いに乗り挑んだもてぎ戦では予選2番手を獲得。最終戦前のタイトル決定も視野に入る状況で決勝を迎えましたが、ライバル勢の思いも寄らない“戦略”に、SUBARU BRZ陣営には戸惑いが広がることに。さらに終盤にはスピンもあり、順位を落として6位でのゴールとなりました。
そんなジェットコースターのような週末の裏側を、山内選手が明かします。そして、最近の“私生活”での幸せエピソードも、教えてくれました。
★ ★ ★ ★ ★ ★
みなさんこんにちは、山内英輝です。第7戦もてぎが終わりました。依然ランキングはリードしていますが、タイトルへの道のりはなかなか険しいなと実感したレースでした。一瞬、「つかんだかな」とも思ったのですが……。
前回の第4戦もてぎは、タイヤ選択などの面で今年の流れとは違う方向で挑みましたが、今回は最近の流れと同じ系統のタイヤ選択をして臨みました。
ただ、走り出しの感触はあまり良くありませんでした。
ハード側、ソフト側両方のタイヤを試したところ、ハードを履いた時の方がバランスは良かったんです。ただ、僕としてはグリップの高いソフト側のタイヤにクルマを合わせた方がいいと思っていて、そのソフトタイヤに合わせたセットアップにちょっと時間がかってしまいました。最近のなかでは、結構バタバタした公式練習になりましたね。
抜けないもてぎで前に行きたいということもあり、予選に向けてはやはりソフト側をチョイスすることに。僕らも含めて、ダンロップ勢はアタックタイミングが早かったですよね。僕はQ2担当、計測2周目に1分45秒6が出て、想定外の好タイムに自分でもビックリしました。アタックは会心の出来だったと思います。
チームからは無線で「次の周もアタックして」と言われたのですが、1コーナーと3コーナーのブレーキングでグリップが落ちてきている感覚があったので、2周目のアタックはそこで止めて、ピットに戻りました。
ピットロードに入ったら車検場のところで止められて、カメラマンさんたちが集まって来るのが見えました。それで、「あ、トップなのか。意外だな」と思っていたのですが、チェッカーが振られるくらいのタイミングで、そのカメラマンさんたちが一斉にサーッといなくなったので、「あ、逆転されたな」と(笑)。
それでもコースレコードを上回るタイムで2番手ということで、ウエイトも考えれば上出来だったと思います。
予選後、いつもはチームと「決勝に向けてこうやってアジャストしよう」という話になるのですが、今回は予選で走った状態のバネレートなどが決勝にちょうどいいくらいのイメージが僕のなかであったので、アジャストしないことに。むしろ、本来は予選はもう少し硬めの足回りで行ってもよかったかもしれません。
■JLOCランボルギーニ GT3との長い戦い
決勝は僕がスタート担当。ランキングトップということを考えれば「ライバルの前でゴールすればいい」と思われるかもしれませんが、僕はそうやって守りに入るのもカッコ悪いと思っていて、「ここで決めてやる!」という気持ちでいきました。
だから、スタート直後の1コーナーは狙っていたんです。逆転するならここしかない! と考えていたので、あそこは完全に狙ってトップを奪いに行った。ただ、55号車(ARTA NSX GT3)はタイヤが温まってしまえばペースが良く、抜かれてしまいました。
僕らはタイヤがソフトだったというのもあって、やはりグリップは落ちてきて、スティント後半は55号車の方が良かったと思います。もう少し車重が軽ければ大丈夫だったと思うんですけど……。
反対に、後ろからは88号車(JLOC ランボルギーニ GT3)が追いついてきました。オートポリスの卓ちゃんもそうでしたが、ここからが長い戦いでした(笑)。
向こうはストレートが速かったのですが、1〜2コーナー、4コーナー、S字あたりでは僕が優位な状況でした。4コーナーが速ければ5コーナーで抜かれないし、S字で速ければヘアピン、90度でも抜かれるまでには至らない。タイヤに関しても、序盤こそグリップの落ちを感じはしたものの、そこからは比較的安定していたので助けられました。
スタート前から、ライバル勢は無交換や2輪交換作戦でピット作業とアウトラップのタイムを削ってくるだろうと予想していました。正直、僕らにもリヤ2輪交換というプランはありましたが、想定以上に左フロントがきつくなってきた。後ろを走るライバルの56号車(リアライズ日産自動車大学校 GT-R)とのギャップをもありましたし、4輪交換がいいだろうという判断になりました。
もうひとつ追い風になったのは、僕がピットに入る3〜4周前くらいのタイミングで急に太陽が雲に隠れ、路面温度が下がったこと。これでタイヤが急激に回復して、0.3〜0.4秒くらい、ポンとタイムが上がったんですよね。後半はもっと路面温度も下がるだろうし、これは卓ちゃんもソフトでいけば有利だろうと。さらに、僕がピットインを引っ張って後半スティントを短くできれば、卓ちゃんもよりアグレッシブに行けるので、いい流れだと思っていました。
31周目にピットインして、卓ちゃんへ交代。4輪を交換しました。先にピットに入っていた88号車はリヤ2輪交換だったようですが、その前に出ることができました。卓ちゃんもアウトラップの1周をしのいでくれたので、これなら大丈夫だろうと思っていたんです。