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スーパーGT ニュース

投稿日: 2021.11.29 16:36
更新日: 2021.11.29 17:48

【STANLEY山本尚貴インタビュー】「どの感情を言えばいいのかわかりません」あまりにも残酷な100戦目で見せたそのプロ意識

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スーパーGT | 【STANLEY山本尚貴インタビュー】「どの感情を言えばいいのかわかりません」あまりにも残酷な100戦目で見せたそのプロ意識

 2021年スーパーGT最終戦、第8戦富士。2年連続チャンピオンが懸かった最後の一戦で連覇まで残り15周のところで、まさかの同士討ち、GT300クラスの追突を受けて夢が破れてしまった1号車STANLEY NSX-GTの山本尚貴。レース直後の山本尚貴は映像メディアの前に立つことなく、関係者への挨拶を優先させていた。その挨拶内容は、タイトルを逃したことへの謝罪だった。挨拶をひと通り終えた後、山本は丁寧にメディアの取材に応えた。

──レースが終わって、少し時間が経ちましたが、今はどのような心境なのでしょう?

山本:今はレースが終わって2時間くらい経っているので、いろいろ落ち着いてはきました。どの時の感情を言えばいいのかわかりませんが当然、(55号車ARTA NSX GT3と)当たった瞬間と、そこから普通には走れないということが分かった瞬間は全身の力がちょっと抜けちゃった感じがありました。それまで、ずっと気持ちが張り詰めていたので、なんかちょっと『あっ……』という風に気持ちが抜けちゃった感じはありましたね。

──55号車と当たったとき、どんなことが頭を過ぎりましたか。

山本:その瞬間にもうタイトルは無理だというのは悟ったのですけど……。走れるのだったら最後まで走らせて欲しいと言って。これまでそうやって自分もやってきて、それがここまでタイトルを獲ってきた数に繋がってきていると思いますし、自分のスタイルを曲げたくないというのもあって『走れるのであれば最後走りたい』と言って(マシンを)直してもらいました。クルマは元には戻らなかったですが、だけど最後にまたコースに戻らせてもらってチェッカーを受けさせてもらって、本当にチームのみんなに感謝しています。

─クルマは右フロントのアームが曲がってしまったと聞きました。

山本:タイロッドが曲がっちゃっていたみたいなので、もう全然真っ直ぐ走らなかったです。ピットで暫定的に新品のタイロッドに変えて一応走ったのですけど、エアロもちょっと壊れていたし、足のアライメントも少しズレてしまったところもあったのですけど、それでも走る分には問題がなかったので確認しながら走りました。当然、周りでチャンピオンがかかったレースをしているので、彼らの邪魔はしちゃいけないなと思いながら最後は一生懸命走りました。

─その時は、どのような気持ちでチェッカーを受けましたか。
 
山本:
昨年はまったくの真逆だったので、最後の1周まで本当に何があるか分からないというのは、昨年身を持って身近に感じたひとりなので……。今年も『最後まで何があるか分からない』ということで気はずっと張っていたのですが、今年はこういう終わり方、こういうまさかがあるとは思わなかったですね。

─レースを振り返ると、1号車は理想的な展開ではなかったにしても、あのペースで4位でフィニッシュまで行ける手応えはありましたか?

山本:ありました。ポジションキープというのはちょっとあれですが、当然トップを狙いたかったのであのポジションで終わるというのは悔しいところもあったものの、タイトルを獲るうえで最終戦というのは、ただ単に勝つレースではなくて、タイトルを獲るレースというのもやっぱり大事ですし、それを知っている人はみんながみんな知っているわけではないので、そこは冷静に、このポジションをちゃんと守れば、走っていればタイトルを獲れるというのは分かっていました。仮にすぐ後ろの38号車(ZENT GRスープラ)にやられたとしても、まだ大丈夫ということもちゃんと分かっていたので、もう全然冷静には走れていました。ただ、不用意なアクシデントに巻き込まれないことだけをずっと気にして走ってはいたんですけどね。

─あの51周目、目の前でGT300のタイトルを争っている61号車(SUBARU BRZ)と55号車がバトルをしていて、チーム側は『前の2台はタイトルを争っていて変な動きがあるかもしれないから気をつけて抜いて』と無線で伝えたと聞きました。山本選手も、その2台をストレートで安全に避けて、抜ききって1コーナーに入っていったわけですよね。

山本:そうですね。55号車はホームストレートの真ん中ですでに抜ききっていて、61号車も真ん中で抜ききっていました。ただ、61号車と55号車は直接チャンピオン争いをしている大事なクルマなので、すぐに僕は前には出たのですけど、アウト側の61号車の前に入ってレコードラインでブレーキングをすると、彼らのブレーキングを邪魔することになってしまう。彼らのブレーキングの邪魔をしないよう、真ん中を走っていました。だけど、逆に真ん中を走っていたことで内側に55号車が入ってきたという形なので、逆に61号車に当たらなくて良かったなという感じです。

─当然、GT300マシンがインから入って来ることは予想していなかった。

山本:そうですね。さすがにミラーをずっと見続けるわけにはいかないくらい切り込んでいたので、ちょっと避けきれなかったです。彼(55号車の佐藤蓮)も61号車しか見ていなかったと思うし、61号車を抜こうとした先にたぶん、僕がいた。ですので、視野が狭くなっちゃっていたのかなとは思うのですが、僕もまだ事情がいまいちよく分かっていません。

─クルマに衝撃があった時、状況は瞬間的に分かりましたか?

山本:死角からだったので、全然もう……さすがにちょっとパニックになりました。『自分が走る場所が良くなかったかな』とか『後ろにいたのに気づかずに切り込んじゃったのかな』など、短い間にいろいろ考えましたが、そんなに突っ込まれるような位置を走っていなかったはずなので、止まりきれないでぶつかったんだろうなとは、なんとなく思いました……いや〜、レースって難しいですね(苦笑)。

─チームに聞いたのですが、山本選手は無線でまず、チームに謝ったと聞きました。

山本:当然、謝りますよね。やっぱりハンドルを握っているのは僕ですので。それからはちょっとしたタイミングの違いや、ペースが逆に遅かったらあそこで巻き込まれていなかったのかなとか、もうちょっとペースを上げるタイミングが速かったら接触も避けられたのかなとか、いろいろ考えてしまいますね。これは自分の性格なのかもしれないですが、これだけプレッシャーのかかるレースのなかで、(牧野)任祐もそうだしメカニックさんも含めて、今日のレースに関してはあの時点でチームの誰ひとり、ミスをしていませんでした。

 あの接触は自分のミスではないのかもしれないけど、ただやっぱり最後にハンドルを握っているのは僕なので責任はあるし、どれだけ謝っても結果は帰ってこないですけど、逆に謝ることしかできないですよね。逃した魚を考えると、そんなすぐに気持ちを切り替えるには時間が掛かるかなという感じはあります。それでもまだレース人生は長いですし、このチームとまた続くわけなので、みんなの気持ちを落としすぎないようにしてあげないといけないというのも僕の仕事なのかなと思うと『来年また頑張りましょう』というのは無線でも伝えられたので、そこは自分でもちょっと大人になったのかなと思いますけどね。

─パルクフェルメでマシンを降りてから、しばらくヘルメットを取らずに立ってずっと何かを見つめていましたが、何を見ていたのですか?

山本:単純に力が抜けて空っぽになったという感じです。いろいろと自分のなかで整理をして、これから自分はどういった振る舞いをすることが正しいのかなということと、あとはやっぱり、みんな頑張ってここまでやって来たのに、その努力が一瞬で本当に泡になってしまったというのは、なんかちょっと押しつぶされそうな感じで、どういう顔をしてみんなに会えばいいかなというので、感情のまま行ったら収集がつかなくなりそうでした。ひとりになれる時間は、あのコクピットの中とマシンを降りた数秒しかないなと思ったので、あそこでちょっと気持ちを切り替えて、まず坪井(翔)選手と伊藤(大輔)監督(36号車au TOM’S GRスープラ)に会えたので、まずは称えるところと、あとはチームに戻ってみんなに謝らないとなという、それだけでした。

─本当はとても悔しいでしょうし、涙もたくさん流したと思いますが、レースが終わった後にチャンピオンになった36号車のドライバーを祝福しに行ったり、その後のフィナーレのイベントではファンのみんなに向けて笑顔を見せていた。心が強い、たくましいなと感じました。

山本:僕もいろいろな先輩やドライバーを見てきて、僕も常々言いますけど、やっぱりこういう負けたレースでその人の素性が出ると思います。調子がいいときはみんなにチヤホヤされるし自分も勘違いしやすい。仮にちょっと振る舞いが悪くても結果が出ていると、それがなかなか目立ちませんが、結果が悪いときは、本当にいろいろな意味でその人のすべてが出ると思います。自分の振る舞いが正しいかどうかは他人が判断することですが、自分が今できる精一杯の振る舞いをしたつもりです。

 今日の36号車は誰がどう見ても一番速かったですし、チャンピオンに値する走りをしたからタイトルを獲れたわけなので、純粋に祝福するのは当たり前だと思います。逆に号車は違うのですが、昨年と比べてチームとしては真逆ですよね。昨年は37号車(KeePer TOM’S GRスープラ)のトムスがガス欠で、僕らが喜んでいる姿を見て向こうは相当悔しかっただろうし、まさかその翌年にシチュエーションは違えど、起きていることがまったくの真逆になるとは。そう考えたときに、プロとして正しい振る舞いをしたいと思ったとき、自分が正しいと思った振る舞いをしただけです。

─その後、チームやホンダのスタッフたちに挨拶していましたが、どういった言葉を交わしたのですか。

山本:まず純粋に『1年間ありがとうございました』ということと、やっぱり『すみません』ですね。それだけ僕は光の当たる仕事をしているので、こういうことも受け入れないといけない立場です。最後にハンドルを握っているのは自分ですし、単純にこのクルマのために何十人、何百人、もっと言ったら何千人という規模の人がクルマを仕立ててくれて走らせて貰っているので、調子のいいときだけ『ありがとうございます』と言うのではやっぱりダメだと思います。

 僕も悔しいけど、やっぱりみんなも悔しいと思います。ましてやホンダの連覇がかかっているという重圧のなかで(タイトルを)獲れそうで獲れなかったとなると、ホンダとしても逃した魚は大きいと思いますし、またトヨタにタイトルを獲られたというのは僕も悔しいです。当然リスペクトの気持ちがあることが大前提ですが、やっぱりそういったライバルがいて、ライバルに負けないために1年間必死にいろいろなことを頑張ってきてサーキットに来ています。

 ポイントランキングトップでサーキットに来て、最後にタイトルを獲れるところまで走っていたのに終わり方がこうなので、余計に残念な気持ちになっています。今はポジティブにはちょっとなりづらいですが、どこかで『ひとりでタイトルを獲っちゃダメなんだよ』ということを言われている気がします。

─それは、開幕戦の3ポイント差がある牧野選手と一緒にということでしょうか?

山本:仮にチャンピオンを獲っても、やっぱり獲るのは僕だけですし、ホンダとしてもチームとしてもチャンピオンにはなりますが、彼(牧野)のことを思うと、やっぱり素直には喜べないんだろうなとずっと考えていました。それを言ってしまうと彼も気にしてしまうし、チームも連覇のためにみんな必死に頑張ってくれているのに、僕がそれをレース前に言ってしまうわけにはいきませんでした。ルールなので仕方ないですが、心のなかではやっぱりひとりでチャンピオンを獲ることに対して抵抗感はありましたね。『来年は牧野と一緒に獲れ』ということなのかなと、今はそう思って自分を静めています。

─一方の牧野選手も、複雑な気持ちだったと思います。

山本:アイツも辛かったと思いますよ。シーズンオフに病気になって、もうクルマに乗れないかもしれないというどん底まで落ちて、開幕戦は武藤(英紀)選手に助けてもらったとはいえ、やっぱり彼は乗れなくて、気づいたら最終戦でチャンピオンが掛かっているけど頑張っても2位にしかなれないというメンタルは、たぶん、このサーキットにいるどのドライバーも経験したことがないと思います。

 そのなかで彼は昨日の予選Q1であれだけぶっちぎってトップで帰ってきて、改めて彼の凄さを感じましたし、僕とチームのタイトルのために何ひとつ文句を言わずにひたむきに頑張ってくれていたあの姿勢は、やっぱりみんなの刺激になりましたし『コイツのためにやっぱり頑張ってあげたい』とみんなが思わされた。だから来年、キレイにふたりで、チームと一緒にタイトルを獲りたいです。

 もう一度連覇をするには2年掛かりますが、まだ勝ち星、タイトルの星、連覇という目標はまだあるので、モチベーションは全然下がることはないですし、むしろ『やり返してやる』という気持ちが今は強いです。100戦目という節目のレースで、またすごく大きいものを学びました。今は意外とスッキリしているわけでないけれど、これで僕は終わったわけじゃないですから。悔しい思いをしているのは僕だけではないので、ずっと僕が悔しいと言って下を向いているわけにはいかないので、次があるだけ幸せですし、また次、頑張ります。

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 レース後の正式結果では、55号車ARTA NSX GT3にはドライブスルーペナルティが課された。山本尚貴はこの取材後、SNSを更新。55号車の佐藤蓮に以下のコメントを掲載した。

「追記:接触のあった佐藤選手に関しては、彼もまだデビューしたての若手であり、ミスは仕方ないですね。そこに運悪く僕が居てしまったので。ミスは僕もたくさんしてきたので彼の今の気持ちは痛いほどわかります。ただ歳がいくつであろうとこの舞台に立ったらプロな訳なので、彼自身もこの経験を糧にしてほしいし、僕を含め彼を育てる側の人達にも今回の経験を無駄にしないでホンダ陣営としてみんなで強くなれることを願っています。」


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