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スーパーGT ニュース

投稿日: 2022.05.07 18:14
更新日: 2022.05.07 23:14

スーパーGT第2戦富士でのアクシデントで見えた、際だった対応の速さと全体の安全への意識の高さ

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スーパーGT | スーパーGT第2戦富士でのアクシデントで見えた、際だった対応の速さと全体の安全への意識の高さ

 5月4日、静岡県の富士スピードウェイで開催されたスーパーGT第2戦富士の決勝レースで、58周から59周に入るメインストレートで、トップ争いの最中激しくクラッシュしたCRAFTSPORTS MOTUL Z。5月5日には、ドライブしていた高星明誠が無事に退院したことが公表され、ファン、関係者ともホッと胸をなで下ろしたが、現行のGT500車両の安全性の高さに加え、極めて迅速な事故への対応がとられた。

 日本を代表するモータースポーツカテゴリーとして、スーパーGTでは前身のJGTC全日本GT選手権時代にあたる1998年第2戦富士での炎上事故、第3戦でのスタッフ負傷事故等をうけ、GTアソシエイションとしてメディカルドクターをおいたほか、2002年からFRO(ファースト・レスキュー・オペレーション)というシリーズ独自の救急システムを作り上げ、安全に向けた努力を続けてきたシリーズだ。FROは毎戦アクシデントの際には真っ先に駆けつける存在となっている。

 今回の第2戦富士で起きたアクシデントは、ドライブしていた高星の容態が危ぶまれるほどの大きなクラッシュだったが、J SPORTSオンデマンドで映像を見返すと、さまざまな状況が分かる(映像は2時間52分ほどから)。まず、クラッシュ直前に高星はほんのわずかな瞬間ながらブレーキを踏んでいることが、ブレーキランプが点灯していることから分かる。

 CRAFTSPORTS MOTUL Zはメインストレートのガードレールにクラッシュした後、回転しながら44番ピット前付近に停止したが、映像からはこの停止した瞬間から、わずか3秒後にセーフティカー導入が表示され、45番ピット奥のゲートから出動したFRO車両が、26秒後には現着し高星の救出にかかっている。さらに、37秒後にはコース全ポストでレッドフラッグが提示されレースが中断された。映像からの手元計測ではあるが、極めて速い対応がとられているのは間違いない。

 さらに、停止から1分37秒ほどというところで救急車が到着。搬送の準備にかかっている。今回のアクシデントでは、ガードレールはダメージを受けたものの、その日の夜には修復が完了。破片がスタンドに飛び込み怪我の情報もあるというが、重傷の報告がなかったのは幸いだった。

 またアクシデント後、すぐにスーパーGTオフィシャルアナウンサーのピエール北川さんがスタンドのファンに向け、すぐに何か異常があった際は係員に声をかけるよう呼びかけ、高星の容態が分からなかった状態での動画や写真撮影をしないようアナウンスをした。さらに、スタンド内に飛散した鋭利なカーボンパーツを手に取らないよう声をかけるなど、ファンの安全のための声かけを続けていたのが非常に印象的だった。

 1998年第2戦のアクシデントでは、その対応は大きな問題にもなったが、今回のアクシデントは非常に危険なものであったものの、スーパーGT全体、富士スピードウェイの対応は極めて迅速で、安全に対する意識の高さを感じさせることになった。こうして大きな怪我人が出なかったことは、1998年から進めてきたスーパーGTの安全のための努力が結実したと言って良いだろう。もちろん、高星を救った現行GT500車両の共通モノコックの堅牢さ、そしてニッサンZ GT500の安全が証明された出来事でもある。

■クラッシュ車両が目前に停止したつちやエンジニアリングの対応

 一方、J SPORTSオンデマンドで映像を振り返ってみると、アクシデント後ずっとTGRコーナーから映した映像のみが流されていた。高星の容態に配慮したものと推測できるが、この映像のなかでも、ピットレーンでのせわしない動きが見て取れる。この状況については、つちやエンジニアリングの土屋武士監督に聞くことができた。

 CRAFTSPORTS MOTUL Zが停止した場所は、HOPPY Schatz GR Supraの44番ピットの前付近。土屋監督は、HACHI-ICHI GR Supra GTのエンジニアとしてサインガードにいたが、目の前にCRAFTSPORTS MOTUL Zが停止した。

 まず土屋監督が真っ先に心配したのは、事故車から火が出ることだった。「消火器持ってきて!」と一度ピットに走り、サインガードに走った後、ほんの数秒ながらひと呼吸おき、状況を観察。冷静に対処することに努めた。そうこうするうちに、つちやエンジニアリングのメカニックたちが消火器を持ち「行っていいですか?」と聞いてきたという。

 先述のとおり、すぐに現着していたFROのクルーは、CRAFTSPORTS MOTUL Zの運転席側のドアがすぐには外れなかったこともあり、そちらに集中していた。当然、赤旗が出たとはいえ、チームクルーがコースに入ることは認められていない。しかし、CRAFTSPORTS MOTUL Zから火が出る可能性があった。ヘルメットと耐火スーツを着用している給油クルーに限り消火器を持たせ、土屋監督が全体把握をしながら、FROに声をかけ、クルーをコースに入らせた。

 この状況は映像にも小さいながら映っている。FRO車両の奥で消火器が噴射されている様子が見えるが、土屋監督はエンジン周辺など、熱をもっている部分を指示しながら、「かなりガンガン噴射した」と発火の危険がある部分を冷やし続けた。その間、FROのクルーがドアをこじ開け高星が脱出。さらに21番ピットのNDDP RACINGのクルーも到着し、つちやエンジニアリングのクルーが車両構造の確認をNDDP RACINGのスタッフに行いながら、発火を防いでいった。

 今回のつちやエンジニアリング、さらにNDDP RACINGのクルーの行動は素晴らしいものではあるが、決して規則に則ってはいない。ただGTアソシエイションのスタッフから「ありがとう」という声がかかり、きちんと安全を確保して消火活動に携わったことはレースコントロールからも映像で確認。チームの行動に感謝しているという。

ただ、この行為は「是としてやるべきことではない」と土屋監督は言う。「いちばんやってはいけないのは二次災害。それを考えていた」と事故車両の様子を見ながら、土屋監督自身の判断、管理のもと、あくまで自チームのクルーの安全最優先で出したのだという。「こうしてコースに出したことについては『ごめんなさい』です。だけど自分の管理下で行かせました」と土屋監督。

 ちなみに、こういったチーム同士の“横のやり取り”はスーパーGTではしばしばあること。別クラス、別チームではあるが、同じレースという興行に携わる “仲間”だからだ。なおレース後、NDDP RACINGからつちやエンジニアリングに「消火器はこちらで補充しておきますので!」という申し出もあったのだとか。

 今回はメインストレートでのアクシデントで、クルーが救助活動に関与することになったが、こういった状況下での規定等はない。ただ「事実は事実なので」と状況を語ってくれた土屋監督。レーシングカーの仕組みを知り、レースでの長い経験があるからこそ携われた部分もあるだろう。もちろん感謝こそあれ“おとがめ”はないが、今回の例を含め、安全に向けた議論に終わりはない。

 モータースポーツは危険。我々メディアでさえも、取材の際には「モータースポーツに関する取材活動が危険性を伴うものであることを十分認識しなければならない」という規定を承諾し、もし死傷したとしても「責任を問わない」と承諾しなければ取材はできない。

「今まで(こういった大きな事故が起きなかったこと)は運が良かったんだと思います」と土屋監督は言う。

 安全は忘れてはいけない大前提。今回の教訓をもとに、GTアソシエイションでもこういった事故が起きないよう、さらに良い対処はなかったのかなど、さまざまな検証を行っている。チェッカーとともに温かい拍手で迎えてくれたファンのためにも、安全に向けたさらなる向上を目指していきたい。


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