2024年F1第3戦オーストラリアGPで、フェラーリのカルロス・サインツが優勝した。レッドブルのマックス・フェルスタッペンがトラブルでリタイアしていなかったとしたら、サインツとフェラーリはどこまで戦えたのか。F1i.comの技術分野担当ニコラス・カルペンティエルが分析する(全2回)。
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オーストラリアGPでのフェラーリのワンツーには、確かに少しは幸運に恵まれた部分はあった。ではもしレッドブルが信頼性の問題に見舞われていなかったとしたら、カルロス・サインツはマックス・フェルスタッペンから勝利を奪うことはできなかったのだろうか。
ランド・ノリスがインスタグラムでユーモラスに指摘したように、オーストラリアGPでのサインツの劇的勝利は、実に驚くべきものだった。いっそF1ドライバーは盲腸を取ってしまった方が、より速くなってレースにも勝てるのではないか。そんなジョークをつい信じてしまうほどに、サインツの走りは手術直後の体調不良を感じさせない完璧なものだった。
F1ドライバーがケガや病気から復帰した直後に優勝したのは、1997年のドイツGPでゲルハルト・ベルガーが副鼻腔手術を受けた後に勝って以来のことだった。
いずれにしてもサインツの勝利を可能にしたのは、体重が盲腸の分だけ数グラム減ったのが理由ではない。少なくとも 3つの要因が、サインツを後押ししたと言える。
まず第一に明らかなのは、フェルスタッペンのリタイアによる恩恵を大きく受けたということだ。この要因を否定する人は、誰もいないだろう。フェルスタッペンが最後にリタイアを喫したのは、2年前の同じサーキットでのオイル漏れによるものだった。
第二の要因は、サインツ自身の優れたドライビングだった。サインツはすでに前日の予選から、チームメイトのシャルル・ルクレールを圧倒していた。土曜日にはフリー走行3回目と予選の間に、急に風が強くなった。ターン1と3では追い風でアンダーステア傾向が増し、ターン9と10の高速区間では向かい風のためにオーバーステア挙動に見舞われるという非常にトリッキーな状況だった。
そんななか、ルクレールは特にフロントタイヤのグリップ不足から、自信を持って攻めることができなかった。対照的にサインツは、フェルスタッペンのポールタイムからコンマ3秒近い遅れをとったとはいえ、ペレスをしのいでフロントロウを確保した。ターン9でコントロールを失いコンマ4秒のロスを喫したが、セクター3だけでコンマ1秒縮め、その遅れを挽回したのだ。
サインツの勝利を可能にした第三の要因は、フェラーリが去年以上に戦闘力を増しているという事実である。開幕戦バーレーン、第2戦サウジアラビアと、確かにフェルスタッペンにはかなわなかった。しかしレッドブルとの差は確実に縮まっており、2位ペレスは射程距離内に捉えていたと言える。
今回のオーストラリアGPでのSF-24には、リヤウイングのピラーにミニスポイラーが装備されていた(黄色矢印参照)。それ自体は、ほんの些細なアップグレードかもしれないが、一方でレッドブル、メルセデス、マクラーレンにはアップデートはなかった。
そしてあの週末のフェラーリは、明らかにレッドブルをはじめとするライバルたちより、タイヤのグレイニング現象にうまく対処していたのだ(非常に路面温度の低かった去年のラスベガスでも、同様の現象が起きていた)。なのでもしフェルスタッペンに信頼性の問題が出なかったとしても、サインツは少なくとも互角、ひょっとしたらそれ以上の勝負ができていた可能性は十分にあった。
(第2回に続く)