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F1 ニュース

投稿日: 2020.09.22 05:40
更新日: 2020.09.23 07:55

【中野信治のF1分析第9戦】リスタート時のマルチクラッシュまでのドライバー視点。ムジェロの特性と駆け引きの心理

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F1 | 【中野信治のF1分析第9戦】リスタート時のマルチクラッシュまでのドライバー視点。ムジェロの特性と駆け引きの心理

 前戦のイタリアGPで優勝したピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)ですが、今回は予選からイマイチでした。今回のムジェロはダウンフォースを効かせてコーナリングスピードを稼ぐというサーキットです。ですので、モンツァとはタイヤに掛かる負荷や入力などもまったく違ってきます。そうなるとマシンの良いところ・悪いところの特性は変わってきます。

 アルファタウリのマシンは前回のモンツァでも、すごく良かったというわけではなく、レース展開で勝てたという部分もありました。開幕戦からダウンフォースが少ないサーキットのほうがアドバンテージがあるのかなと感じていていましたが、今回、ダウンフォースが必要なサーキットではネガティブな部分が出てきてしまったのかなか思います。

 一方、ムジェロではそのダウンフォースが必要なおかげで、レッドブル・ホンダがメルセデスに少し近づけた部分もあります。ダウンフォースが必要なサーキットだと、すごくシンプルにアルファタウリ・ホンダより断然レッドブル・ホンダのほうが速くなる感じがあります。レッドブルのマシンはダウンフォース量やタイヤへの入力の仕方で、サーキットによっては自分たちの領域にハマって有利な方向にいくし、外してしまうとネガティブになってしまいます。

 そう考えるとやはり、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)のスタート直後のリタイアはすごく残念でしたね。走れていれば結構面白いレースを見せてくれただろうなと思います。パワーユニットのトラブルは結局、何のトラブルだったのかわかりませんが、いまは予選モードなど、レース中でもパワーユニットのモード変更はできないようになっています。

 解説のときにもモードというような言い方をしますが、ホンダに限らずパワーユニットを持ってくるときにエンジニアは、パワーユニットそのもののライフや、次のレースのことを考えて基本設定や出力設定をやりくりをしていくのですが、そのあたりをどれくらい攻めているかという部分で差が出てくると思います。今回のレースでは、ホンダはもしかしたら攻めてきていた可能性もありますよね。そういうのは、それぞれのエンジンメーカーでも当然、同じようにしています。

 残念ながらフェルスタッペンはリタイアしてしまいましたが、その分、今回はチームメイトのアレクサンダー・アルボンが初めての表彰台を獲得しました。アルボンのF1表彰台が初めてというのが意外でしたね。DAZNの中継で実況のサッシャさんが「初めての表彰台なんですよ!」と話していたのを聞いて『そうなんだ』と驚きました。僕もずっと解説させて頂いていて、もうアルボンは表彰台に上がったことがあると思っていましたし、表彰台に上がっていてもおかしくない実力は当然、持っていると思います。

 今回の決勝に関しては、アルボンの良いところが出たと思います。彼の持っているアグレッシブさというのがオーバーテイクにもつながりました。決勝の走りやアルボンのオンボード映像を見ていて、今回は思い切ってステアリングが切れていなくて自分の思いどおりの走りはできていないように見えました。若干、抑え気味に走らないとクルマの挙動がナーバスになってしまうように見えたのですが、それをレース中に冷静に合わせこんでいけた気がしましたね。

 ピーキーな挙動のクルマはオーバードライブをしてしまうと、クルマの挙動はさらに悪くなってしまいます。今回のアルボンはクルマの動きに対して自分のペースで自分のドライビングを合わせこんでいけていました。それができたことでレースの後半にかけてどんどんペースが上げられたし、乗れてきてるなというのが伝わってきました。これを機に、レッドブルのマシンはこういう動きをするんだ、というようなことをアルボンが掴んでくれたらよいなと思いながら見ていましたね。

 あと今回のレースで元気がよかったのはダニエル・リカルド(ルノー)ですよね。リカルドは今回すごい集中力でした。2回目のスタンディングスタートではキレがあったし、絶妙なタイミングでクラッチミートができていました。ドライバーの集中力というのは画面を通しても我々に伝わってきますし、今回のリカルドはクルマの持っているポテンシャルを本当に100%出し切っていたと思いました。F1ファンが選ぶドライバー・オブ・ザ・デーにも今回選ばれましたし、見ている人たちみんなにあの集中力というのは伝わっていたと思います。僕も『今回のリカルドすごいな』と思いながら解説をしていました。

 リカルドは、それほど大きな特徴のある走らせ方、ドライビングをあまりしないドライバーで、アグレッシブとスムーズの中間のドライビングをするドライバーだと思います。以前はアグレッシブ寄りだったんですけれど、最近は中間というか少し大人なドライビングに変わってきていたのですが、それが今回は再びアグレッシブ寄りに変わっているように見えました。ルノーのクルマもそのリカルドのスタイルに応えられるようになって、自分の思いどおりに動くようになってきたんだと思います。

 今回はチームメイトのエステバン・オコンの流れは悪かったのですが、ルノーのふたりは対照的なドライビングをしていると思います。オコンは一見アグレッシブなスタイルかと思われがちなんですが、実はすごくスムーズで、美しいくらい丁寧なドライビングをします。昔のルーベンス・バリチェロのような感じですよね。すごく丁寧に、クルマの動きに合わせてナチュラルなドライビングをするドライバーだと思います。そこがリカルドがよい場合と、オコンがよい場合とでルノーが別れる理由でしょうね。

 ムジェロは総じてアクシデントが多かったというのもありますが、非常に見応えの多いレースでした。オーバーテイクが多かったというのもありますし、初めてのサーキットで何が起こるかわからない『ワクワク感』というのも当然ありました。さすがに2回も赤旗中断があるとちょっと長くて腰が痛かったですけどね……(苦笑/編集注:中野さんとサッシャさんは栃木県でのスーパーGTもてぎ戦終了から急いで帰京してF1を実況していました)。でも、やっぱり新しいサーキットはドライバーも楽しいと思いますし、それぞれのドライバーにとっても新たなチャレンジになります。

 新しいサーキットにいくとドライバーたちはやっぱり『どう攻めるか』『どういうラインで通るか』『ここの縁石はどうやって使うか』という感じですごくワクワクするし、ドライバーごとに攻め方やプッシュの仕方が変わってくるので見ていて面白いですよね。それらも含めて、今回の第9戦はいろいろな角度から見ごたえのあるレースだったなと思います。

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24

2020年Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT 中野信治監督
2020年Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTのチーム監督を務める中野信治氏。DAZNでF1中継の解説も担当


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