レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る

F1 ニュース

投稿日: 2021.09.01 16:30
更新日: 2021.09.01 20:11

【中野信治のF1分析/第12戦】雨のスパでの『静』と『動』のアタックラップ。ノリスとラッセル、際立ったふたりのドライビング

レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る


F1 | 【中野信治のF1分析/第12戦】雨のスパでの『静』と『動』のアタックラップ。ノリスとラッセル、際立ったふたりのドライビング

 2021年F1シーズン、いよいよ後半戦がはじまりました。フェルスタッペンとハミルトンの息詰まるチャンピオン争いに、期待の角田裕毅のF1デビューシーズンと話題の多い今シーズンのF1、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で解説します。今回の第12戦ベルギーGPは残念ながら決勝レースは大雨で2周で終わってしまいましたが、同じウエットとなった予選では見どころが満載でした。今回は注目されたドライバーの予選の走りを中心に、雨のスパとドライビングについて語り尽くします。

  ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

 大雨のなか行われた2021年F1第12戦ベルギーGPですが、スパ・フランコルシャン(スパ)は中高速コーナーが多いのですがストレートが長いので、基本的にダウンフォースは少なめで走行しています。そんなダウンフォースが少ない状況で、路面μ(ミュー)が極端に少なくなる雨を走らなければならないので、すごく難しくなります。ダウンフォースが少ないマシンでの中高速コーナー+大雨、さらに今回のスパは気温と路面温度が低かったのでタイヤの温まりも難しく、ドライビングが難しくなる条件がすべて揃っていました。

 まずは予選での注目されたドライバーとして、ランド・ノリス(マクラーレン)がとても乗れていたということが挙げられます。今回のノリスのドライビングには正直驚かされました。もちろん、クルマのセットアップもそれなりに決まっていたのだと思いますが、個人的に雨のスパはドライバーの技量がすごく試されると思っています。

 ダウンフォースが少なく路面ミューが少ないなかで、マシンのコントロール、ブレーキングが当然うまくなくては速く走れません。とにかくスパはチャレンジングなコーナーが非常に多いので本当に度胸が試されますが、度胸だけでコーナーに飛び込んでいくとすっ飛んでしまいます。なので『技術に裏打ちされた度胸』みたいなものが必要になり、度胸とともに繊細な技術もかなり求められるので、雨のスパはすごく難しいです。

 表現が正しいかわかりませんが、とにかく、スパはちょっとでもビビってしまうとダメで、高速コーナーで大きくタイム差が出てしまいます。同じドライバーズサーキットでもある鈴鹿サーキットとも比較にならないくらい、雨のスパは難しいと思います。鈴鹿よりもスパの方がダウンフォース量が少なく、路面ミューもはるかに低いからです。

 そんなスパの雨の予選でしたが、ノリスは縁石に大きく乗って走行していたのが印象的でした。雨の走行では基本的に縁石は滑ることが多いので(一般道の白線のように)避けるのがセオリーですが、ノリスの縁石への“乗せ方”が重要です。

 昔走ったときの印象では、たしかスパでは、縁石によっては若干グリップする縁石とまったくグリップしない縁石があったと思います。それが縁石のペイントの仕方によるものなのかは分からないですが、スパのように昔ながらのサーキットは古いタイプの縁石を使っていることも結構あるので、場所によってはグリップするタイプの縁石を使用しているのかなと思いました。ですが、それでも雨になると縁石のグリップ力は下がってしまうので、縁石への角度やアクセルのタイミング、乗せる量を少しでも間違えてしまうとトラクションが掛からずスピンしてしまいます。

 僕が『ノリスは凄いな』と思ったのはイン側の縁石の使い方です。特に最終コーナーのシケインが一番分かりやすく、今回は縁石をまったく使わないドライバーや少しだけ使うドライバー、そしてノリスのように縁石の内側のソーセージ縁石まで使うドライバーがそれぞれいました。そのなかで、ノリスはシケイン進入でクルマを止め、さらにそこからクルマを曲げるきっかけに縁石にマシンを大きく乗せて、その先のソーセージ縁石まで使っていました。

2021年F1第12戦ベルギーGP土曜日
縁石にマシンを大きく乗せて走るノリス

2021年F1第12戦ベルギーGP土曜日
ノリスに比べて、ボッタスは縁石に触れずに走行。アロンソなどもボッタスと同様だった。

 雨のドライビングというは本当にイマジネーション(想像力)の世界で、雨量や路面温度などのコンディションに合わせて何通りもの走らせ方があります。『これくらいかな?』というさらに先にグリップの限界があったりします。それをうまく見つけてノリスは『そこまで使う!?』『そんなところを通る!?』という領域でタイヤのグリップを引き出していました。もはや『技』ですね。

 そのノリスも残念ながらQ3でクラッシュしてしまいました。あれはしょうがないですね。オー・ルージュからラディオンはサポートレースのWシリーズの予選でも大クラッシュがありましたが、それとはまた違う原因で、Wシリーズはスリックタイヤで走行中に雨が降り出して一斉にスピン、クラッシュしてしまうというような雰囲気でした。

 対してノリスのクラッシュはQ1、Q2、Q3と路面の状況が刻々と変化していた状況でした。最終的にQ3で雨の量が増えて、ここから雨が強くなっていくか弱くなっていくか分からない状況のなかで、おそらく雨が強くなっていくだろうということで先にアタックする戦略にノリスは賭けたのだと思います。なので最初の1周目しかチャンスがない状況でアタックをしました。

 もう少し雨の量が増えていたら、間違いなくオー・ルージュは慎重に行ったと思います。それに、ノリスのように乗れていない状態ならもっと慎重になると思うので、乗れているノリスだからこそ行ってしまったという感じがありましたね。ほんの少しのオーバースピードと、あの1周に賭けなければならないプレッシャーなど、いろいろなことが含まれてのクラッシュでした。あのクラッシュは非常に残念でしたが、仕方がないという感じで何とも言えなかったです。クラッシュがなければポール争いに間違いなく絡んでいたと思うので、それも見たかったですね。

 その後の予選でのもうひとつの衝撃がラッセルです。ポールのマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)と2番手ジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)のスロットル開度などを比較する動画があったので、その動画でふたりのドライビングを見ました。まさに『静(ラッセル)と動(フェルスタッペン)』という言葉がピッタリくるような走らせ方の違いがありました。

●F1公式サイト、フェルスタッペンとラッセルの予選オンボード映像比較

 今回のスパではノリスのほか、フェルスタッペン、ラッセルが三者三様、本当に違う走らせ方をしていたので分かりやすかったです。そのなかでもラッセルはまったく縁石に触らなくて、フェルスタッペンは縁石にマシンを乗せる方なのですがノリスほどは乗せていない。3人ともまったく違う走らせ方をしているので、見ていてすごく面白かったですね。

 ラッセルは本当に小さくクルマの向きを変えていて、縁石もほとんど使わないという走らせ方です。若干フェルスタッペンのほうが力技でクルマの向きを変えていて、縁石もトラックいっぱいまで使って走るのですが、ラッセルは『待ち』をします。

●次のページへ:ラッセルの走りは全盛期のライコネンに酷似。雨の経験不足が露呈してしまった角田裕毅


関連のニュース

F1 関連ドライバー

F1 関連チーム