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ル・マン/WEC ニュース

投稿日: 2022.12.22 19:33

【スタッフ選出2022総集編Best 3/WEC編】克服したプレッシャー。緊迫のトラブルで光った“耐久力”

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ル・マン/WEC | 【スタッフ選出2022総集編Best 3/WEC編】克服したプレッシャー。緊迫のトラブルで光った“耐久力”

●アレッサンドロ・ピエール・グイディ:『クルマを持ち帰る』ことの難しさと偉大さ

 最後のひとりは、LMGTEプロクラスでAFコルセのエースナンバーを背負い、最終的には2年連続タイトルを勝ち取ったアレッサンドロ・ピエール・グイディ選手(51号車フェラーリ488 GTE Evo)を挙げたいと思います。コンビを組む、ジェームス・カラド選手も付け加えたいところですね。

 2022年もまた、記憶に残る接近戦が各レースで繰り広げられたLMGTEプロですが、一番に思い出されるのは第4戦モンツァでしょうか。2021年のタイトル決定戦もそうでしたが、51号車にとってはもはや“永遠のライバル”と形容してもよさそうな、ポルシェGTチームの92号車911 RSR-19と接近戦のバトルを繰り広げました。

 92号車のケビン・エストーレ選手がレース後に「僕らが審議になるとペナルティを受け、フェラーリが審議されてもペナルティを受けない。これはいつものことのようだね」と語るなど若干不穏な要素もありましたが、コース上での軽い接触を伴ったバトル自体には、両者とも納得している様子だったのが印象的です。

アレッサンドロ・ピエール・グイディ(AFコルセ51号車フェラーリ488 GTE Evo) 2022WEC第5戦富士
アレッサンドロ・ピエール・グイディ(AFコルセ51号車フェラーリ488 GTE Evo) 2022WEC第5戦富士

 そしてもう1戦、ピエール・グイディ選手が最高の技量を発揮したのは、タイトル決定戦となった第6戦バーレーンだったと思います。

 正直、第5戦富士とこのバーレーンは、BoPが失敗なのでは? と考えたくなるほど、ポルシェにパフォーマンスが無いように見えました。実際、この最終戦ではFCYのタイミングという妙もあり、次第にフェラーリが優位にレースを進めていきます。

 レース終盤、トップ走行中のカラド選手に思わぬトラブルが降りかかります。「車内に爆弾が落ちたような音」が響き、4速ギヤを失ってしまうのです。

 その状態でマシンを引き継いだピエール・グイディ選手は、最初は「どうすればいいか、分からなかった」といいます。トラブルによってミッションオイルの温度が急上昇。しかし、さまざまな走り方を試しているうちに、高いギヤを使って走行すれば、温度上昇を避けられることに気づきます。

 シフトチェンジを最小限にとどめ、可能な限り5速のみで走行を続けるピエール・グイディ選手。これ以上順位を落とすとタイトル防衛が危ない、というラインまでラップタイムは落ちましたが、その状態でなんとか耐え忍んでフィニッシュし、見事にチャンピオンシップを制しました。

『何があっても、マシンをチェッカーに導く』。耐久レース、ましてやタイトル決定戦において何よりも重要で難しい命題を、絶体絶命の状況で成し遂げたピエール・グイディ&カラド選手、そしてAFコルセは、LMGTEプロ最後のチャンピオンにふさわしい存在だと言えるでしょう。

 付け加えると、相方のカラド選手の活躍も目立ったシーズンでした。とくに印象に残っているのは、第2戦スパの終盤。こちらもポルシェ92号車との直接対決となりましたが、燃費戦略も奏功し、なんとかフィニッシュラインまで92号車を封じ込め、首位を守ることに成功しています。

 参戦台数は少ないながらも、予想を上回る激戦を見せてくれた、世界最高・最強のGT使いたち。2023年からこのクラスの戦いが見られないのは、本当に残念としか言いようがありません。

52号車の優勝と、51号車のドライバーズタイトル、そしてフェラーリのマニュファクチャラーズタイトル獲得を喜ぶAFコルセ
52号車の優勝と、51号車のドライバーズタイトル、そしてフェラーリのマニュファクチャラーズタイトル獲得を喜ぶAFコルセ

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 上記では言及できませんでしたが、TOYOTA GAZOO Racingのチーム代表兼ドライバー・小林可夢偉選手の活躍は、やはり特筆に値すると思います。トップカテゴリーにおけるチーム代表兼任選手といういわば前代未聞の役回りは、かねてより“レース・クラフター”であり“チーム・ビルダー”であった彼にしかできないことだと思いますし、実際にチーム代表業の負担はかなり大きかったように見えました。

 しかし、トヨタの4年連続でのドライバー&マニュファクチャラーのダブル・タイトル獲得には、可夢偉チーム代表の貢献があったことは間違いありません。チームとして開幕戦セブリングでの7号車の大クラッシュ、続く第2戦での8号車の早期リタイアなどから立て直してのタイトル獲得には、相当な苦労があったことが想像できます。

 また、日本籍チームとしてWECフル参戦2年目を迎えた、Dステーション・レーシングの星野敏選手・藤井誠暢選手の健闘も賞賛に値します。藤井選手得意のオーバーテイクも何度も見られましたし、星野選手もアベレージ・ラップを上げることができた一年となったようです。TFスポーツのハイレベルなオペレーションとのコンビネーションも成熟の域に達し、地元・富士で表彰台に登壇したのは最高の結果だったと言えるのではないでしょうか。

 ル・マン100周年を迎える2023年は、新規マニュファクチャラーの参戦ラッシュ。3月のシリーズ開幕が、本当に待ち遠しいです。


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