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ル・マン/WEC ニュース

投稿日: 2022.08.31 16:03
更新日: 2022.08.31 16:20

フル参戦2年目の星野&藤井が語る手応えとWEC裏事情。“通知表”を気にするプロはスタート担当を嫌う?

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ル・マン/WEC | フル参戦2年目の星野&藤井が語る手応えとWEC裏事情。“通知表”を気にするプロはスタート担当を嫌う?

 2022年のWEC世界耐久選手権にフル参戦している日本籍チームはふたつ。ひとつはハイパーカークラスにエントリーするトヨタGAZOO Racingで、パワートレーンを中心とした車両の主要コンポーネンツを日本で開発、現場にも多くの日本人スタッフを送り込んでいる。ドライバーには小林可夢偉、平川亮という2名の日本人が名を連ね、その可夢偉は今季よりチーム代表も兼任するなど、さまざまな意味で“日本色”が濃いワークスチームだ。

 そしてもうひとつの日本籍チームが、昨年からシリーズフル参戦を開始したLMGTEアマクラスのDステーション・レーシングである。星野敏と藤井誠暢というふたりの日本人ドライバーが今季はイギリス籍のチャーリー・ファグとトリオを結成、TFスポーツのメンテナンスのもと、アストンマーティン・バンテージAMRで世界を転戦している。

 フル参戦2年目の今季、昨年は中止となった富士6時間レース(9月9〜11日)への凱旋も近づいてきたが、激戦の世界選手権を戦い抜くなかで、星野と藤井は“2年目の進化”を確実に感じているという。

 第4戦モンツァを終えたふたりに話を聞くと、彼らの現在地とLMGTEアマクラスのレベルの高さ、そこで用いられる“評価と戦術の妙”が見えてきた。

■2戦連続トラブルの原因は『速さ』と『気合い』?

「2年目ということで、ふたりとも昨年よりもコースに慣れ、習熟度が上がったと言いますか、クルマにも慣れまして、実際にタイムも上がっているんです」と語るのは、チームオーナーの星野だ。

 日本が誇るトップ・ジェントルマンとも言える星野は、国内外のさまざまなレースで経験を積み、WEC富士戦へのスポット参戦やアジアン・ル・マン参戦、そしてル・マン24時間レースへの参戦など着実なステップを経て、2021シーズンから世界選手権へとフル参戦を果たした。

 2021年はル・マンで完走、モンツァではクラス表彰台に上るなど、当初目標としていた項目を着実にクリアしていったが、星野と藤井にとっては“世界のレベル”をさまざまな面で味わうシーズンともなった。

 2年目の今季はマシントラブルが発生するなどした結果、ここまで納得のいくリザルトが残せていない。「ちょっと噛み合ってないのですが、あと2戦(富士とバーレーン)あります。富士も3年ぶりですし、Dステーション・レーシングとして出るのは初めてなので、地元で過去最高の結果を残したいですね」と星野は意気込む。

星野敏(中)、藤井誠暢(右)はDステーション・レーシングの777号車アストンマーティン・バンテージAMRでフル参戦2年目のシーズンを迎えている
星野敏(中)、藤井誠暢(右)はDステーション・レーシングの777号車アストンマーティン・バンテージAMRでフル参戦2年目のシーズンを迎えている

 Dステーション・レーシングのマネージング・ディレクターも務める藤井によれば、今年の第3戦ル・マン、そして第4戦モンツァで見舞われたトラブルに関しては、今季彼らが置かれた“状況”も遠因となっていたようだ。

「ル・マンでは、リヤのサブフレームのアッパーアームの付け根がちぎれました。原因はおそらく、疲労が溜まっていたことです」と藤井は説明する。

「昨年のル・マンは完走を目標にしていて、テストデーでも最初にトップタイムが出せて自信もついたので、そこからは縁石に乗らないように走らせていました。でも今年はタイムも上がっているし、レースまでにだいぶ縁石を使っていたし、クルマに負担をかけていたのだと思います。最後のフォードシケインなんて、縁石に乗らなかったら2秒くらい遅い。ただ、縁石も乗り方、乗る角度、その量などでだいぶ差が出るので、難しいところです」

「モンツァでは、スロットルペダルが折れました。純正のノーマルパーツで、樹脂でできているのですが、(Dステーションでメンテナンスしている)うちのクルマでも年2回くらい変える部品で、WECではル・マンの前に新品にしているんです」

「基本はそんなに折れるものではないのですが、モンツァはBoP(性能調整)がちょっと悪くて、フェラーリがめっちゃめちゃ速かったんですよね。スロットルペダルは(全開まで)踏んだあとに、さらにプラスチックの分、ちょっと踏み込めるんですよ。だから僕らがちょっと気合いというか力が入りすぎて(笑)、それがたまたま星野さんのときに踏んだらバキっと折れてしまい、それでセンサーがアウトになってしまったんです」

 2戦連続でのトラブルとなってしまったが、チームに非があるというわけではなく、メンテナンスを受け持つTFスポーツのレベルは「すごく高い」とふたりは声をそろえる。

 昨年のル・マンではメンテナンスを担当した3台すべてをトップ10に送り込み、今年のル・マンで公式競技として行われたタイヤ交換の速さを競う“ピットストップチャレンジ”では、1位と3位。「スタッフもレベルが高い人が集まっている」(藤井)というTFスポーツが、Dステーションのベースを支えていることは間違いなさそうだ。

2022年のル・マン24時間レースでは、シャシーにダメージが見つかったことにより、途中リタイアとなったDステーション・レーシング
2022年のル・マン24時間レースでは、シャシーにダメージが見つかったことにより、途中リタイアとなったDステーション・レーシング

■「日本のプロも負けると思う」アマチュアのレベルの高さ

 1シーズン半、世界選手権を戦ってきて、一番手応えを感じた瞬間はいつか。星野は「この前のモンツァですかね」と今季第4戦を挙げる。その理由は、決勝で好ペースを刻めたことにある。

 WECではすべてのドライバーのアベレージラップが算出され、各チームやドライバーは、その数字をもってポテンシャルが比較される。モンツァの星野のスティントのアベレージでは、“トップアマ”とも称される同じアストンマーティンのベン・キーティングを、星野が初めて上回ったのだという。

「キーティングは、めちゃめちゃ速いですよ。はっきり言って、日本のプロで負ける人はいっぱいいると思います」と藤井。

「彼はLMP2も乗っているし、30歳くらいからやっているし(※現在51歳)、キャリアはほぼプロ。そのキーティングを、最後のスティントのアベレージでは星野さんが上回ったんです」

LMGTEアマクラスにTFスポーツ33号車アストンマーティン・バンテージAMRから参戦するベン・キーティング

「ブロンズ(アマチュア)が速ければ、上にいけますよ。プロは変わらないんで」と話す星野に、「そうは言っても、だいぶ大変なんですよ」と藤井は笑う。

 FIAのドライバー・カテゴライゼーションでは、星野がブロンズ、藤井がゴールド、ファグがシルバーにレーティングされている。藤井が刃を交えるプロドライバーは、過去にフォーミュラのトップカテゴリーやプロトタイプをドライブしていた者や、メーカーのファクトリードライバーが大半を占める。

「僕のライバルって、(アストンマーティン陣営内なら)ニッキー・ティームやマルコ・ソーレンセンなわけです。世界選手権のトップの、バッキバキのドライバーたちですよね。(ジャンカルロ・)フィジケラも速いし、トニ・バイランダー、マッテオ・カイローリ、ハリー・ティンクネルといった錚々たるメンバーがいるわけで、しかも彼らは(WECが開催される)世界のサーキットを毎週のように走っているじゃないですか。僕ら、どのサーキットもせいぜい2回目とかなので……だから大変なのですが、楽しいですね」

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