スズキで開発ライダーを務め、日本最大の二輪レースイベント、鈴鹿8時間耐久ロードレースにも参戦する青木宣篤が、世界最高峰のロードレースであるMotoGPをわかりやすくお届け。第24回は、第14戦アラゴンGPを振り返りつつ、話題となったKTMとヨハン・ザルコの関係や、速さを見せているKTM RC16について解説する。
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マーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハ・MotoGP)の調子がいい。「あっ、調子いいね!」と思える彼らしい走り、“深いバンク角からアクセルを開けてリヤをスライドさせて向きを変える”が毎戦できており、当たり前になりつつある。
マシンに信頼感が出てきたのも大きいし、ビニャーレス自身がマシンに一歩寄り添えるようになったこともあるし、「クアルタラロに負けてられるか!」と気合いが入っている面もあるだろう。それらに加えて、ずいぶん落ち着きが出てきたようだ。すべてを把握してライディングしているようで、コンディションによるムラが減ったし、今までは気分次第で変わっていたコメントにも芯ができてきた。
ビニャーレス、24歳。焦ってぶつけてペナルティを食らったり、1勝すれば「また勝たなくちゃ」「毎回表彰台争いしなくちゃ」と気負い過ぎたりしながらも少しずつ確実性を高め、オトナへの階段を着実に昇っている。
オトナといえばこの人、アンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)だ。第14戦アラゴンGPは予選10番手と振るわなかったが、決勝は別。気が付けばドヴィちゃん、振り向けばドヴィちゃんと言った感じでスルスルと順位を上げ、2位表彰台を獲得してみせた。
円熟味のある素晴らしい走り。特にブレーキングは見事で、「ミスをせずにこんなにちゃんと減速できるんだ」と感心するばかりだった。ドゥカティのエースになってから、レース運びもレース後のコメントも、本当に成熟した男になった。
レースで単発で勝つなら、若さだけあれば十分だ。勢いで何とかなる。でも年間を通してポイントを挙げチャンピオンを獲るには、やはりオトナでなければならない。引くべきところ、こらえるべきところを見極めて自分を抑えなければ、王座を手に入れることはできないのだ。
しかし、これはあくまでも人間界の話。若いもオトナも一切関係なく、ひとりまったくの別次元にいるのが、ご存知マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)である。この人、いや人かどうかも怪しくなってきたが、階段を10コぐらい上がっちゃっていて、もうどこにいるのか分からない。
アラゴンGPで優勝を決めた後には、「独走での勝利って簡単に見えるかもしれないけど、難しいことなんだよ」と言っていた。確かに独走しながらペースを守るのは困難なことだ。だが、仮にホンダRC213Vの出来が良いとしても、ワンメイクタイヤ、共通ECUの今のMotoGPであれだけのリードを築けるとは……。「難しいこと」のレベルが常人離れし過ぎていて、もはや理解不能だ。