レースで誰が勝ったか負けたかは瞬時に分かるこのご時世。でもレースの裏舞台、とりわけ技術的なことは機密性が高く、なかなか伝わってこない……。そんな二輪レースのウラ話やよもやま話を元ヤマハの『キタさん』こと北川成人さんが紹介します。なお、連載は不定期。あしからずご容赦ください。
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レギュレーション変更の議論が始まったのは後にMSMA(Motor Sports Manufacturers Association:モーターサイクルスポーツ製造者協会)の会長が件のメーカーの代表に替った時だった。それまでMSMAの会長は前身のGPMA(グランプリマシン製造社協会)の時代からイタリアのC社の会長が務めていた。GPMAが日本メーカーだけで構成されている偏った組織と見られるのを危惧して、敢えて欧州メーカーの代表を会長に迎えたわけだが、実際は象徴的な存在であった感は否めない。
その会長が引退するタイミングで次の会長をどのメーカーから出すかという議論になった際に、全体の意見としてやはり日本のメーカーにやってもらうのがよかろうという事になった。しかし候補に挙がったメーカーの代表に全員がお願いをすれどもなかなか首を縦に振ってくれない。
押し問答の末に「弊社が会長を受けるについては一つ条件があります。以前弊社が宣言したようにレースの安全性向上のために技術規則の変更を約束してください。排気量を小さくしてマシンの性能を抑えるという分かりやすい施策が社会的にアピールする上で重要です。具体的には800ccが妥当と考えます」というような趣旨の話を切り出された時には誰も表立って異を唱えることができず、800cc化はあっさりと既定の路線になってしまった。