レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る

Blog ニュース

投稿日: 2021.08.03 16:01
更新日: 2021.08.05 15:10

【ブログ】全日本ロード第5戦鈴鹿(後編) 元ファクトリーチームのメカニック紹介/“ヘンタイ”カメラマン現地情報

レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る


Blog | 【ブログ】全日本ロード第5戦鈴鹿(後編) 元ファクトリーチームのメカニック紹介/“ヘンタイ”カメラマン現地情報

 レース界のマニアック“ヘンタイ”カメラマンこと鈴木紳平氏がお届けする全日本ロードレース選手権ブログ。今回は、7月17~18日に行われた2021年MFJ全日本ロードレース選手権の第5戦 第53回MFJグランプリ スーパーバイクレース in 鈴鹿編 後編です。

* * * * * * *

さてここからは前々からやりたいと思っていた元ファクトリーメカニック紹介企画になります。近年ファクトリーレーシングは縮小傾向にあり人員がプライベーターへ流出しています。そこでそういった方々が移籍先でどのような化学変化をもたらすのか、とても気になるところです。まずひとり目はヨシムラからST1000クラス、8号車 TeamWITH87BEETカワサキプラザRTに移籍した脇延孝メカニックです。

とは言ってもとても忙しそうなのでまずは8号車のライダー清末尚樹選手に話を伺います。昨年よりヨシムラでメカニックをされていた方が移籍されてきましたがざっくりどんな感じですか?

まずマシンのセットの振り方も含めバイクづくりのスピードは上がりました。整備に関しても安心して任せられ、昨年はノートラブルでシーズンを走り切る事が出来でいます。もともとチームグリーンの方でもあるので安心してお任せ出来るし走れていますね。

メンテナンスだけでなく乗り方やセットアップに関してもアドバイスをもらうのでしょうか。

そうですね。ライダーで消さなければいけないネガな箇所、マシンで解消出来る箇所が僕だけでは判断出来ないのでそこはアドバイスをもらい判断していきます。

マシンで解消出来る箇所についてもうちょっと詳しく教えてください。

やってみないと分からない事もあるので試してみてダメだったら大きく別な方向へ振って方向性を探っていく、といったやり方です。その判断は迷いが無くとても機動的です。セットアップに関しても無理しない安全方向から進めていけているので迷う事無く走れています。

具体的にどのようなアドバイスを受けますか?

レースウィークになると僕自身がどうしてもタイムを追っかけてしまい走りが雑になりがちになります。そこをロガーで見ながらブレーキのかけ方、アクセルの開け方のコントロールの指摘を受けます。僕自身で気付かなければいけない部分ですがそこをコントロールしてくれます。バイクのセットアップに関しても先ずは僕のフィーリングが良いように、嫌がらないようなフィーリングのセットで始めてそこから詰めていきます。とにかく安心感があるのでしっかりとマシンのバランス、セットを確認する事が出来ています。

元ファクトリーのメカニックがプライベーターにやって来る事に関してはいかがでしょうか。

ライダーもメカニックも一緒で次の世代に技を受け継いでいかなければならない。ですからそういった知見が広まる事は大事だと思っています。やはりファクトリーメカニックは勝利だけを見据えてやってきたメカニック。準備の段階からそういった姿勢を見る事ができるのはライダー、他メカニックともに勉強になります。

では改めて脇メカニックに話を伺います。よろしくお願いします!

お名前を教えてください。

わきのぶたか、延長の延にのぶたかのたかは親不孝の孝の字になります(爆笑)

移籍の経緯を教えてください。

ざっくり言うともともとチームグリーンでやっていてその後プライベーター、その後ヨシムラへ移籍しました。8号車 TeamWITH87BEETカワサキプラザRTの監督でもある西嶋修監督がST600にスポット参戦していた時にメンテナンスをしていたのですがヨシムラが2019年末で体制を縮小するとなった事をきっかけに西嶋監督に声を掛けてもらいました。最初は西嶋さんともう一度レース出来ると思ったのですがそうではなく‘ナオ(清末尚樹)’をみて欲しいと。それがおととしのシーズンオフです。

ご自身でショップを経営されているとの事でしたが。

奈良で‘モトファン’というバイクショップを経営しこのチームの2台をメンテナンスしています。レースで忙しいので殆どのお客さんを断っています。それでもいいという方だけたまに依頼を受けています。基本的に自分自身がネジを回すものだと思っているので他に従業員もいません。ですからホームページもSNSもやっていなく新規の方が店に来ると、メッチャ嫌そうな顔して出てくるという評判なので愛想はありません(爆笑)。

ヨシムラの頃と比べると笑顔が多いような感じがします。

ヨシムラの現場は分業制でひたすらメンテナンスだったのでそのような顔になっていたかもしれません。プライベーターは全部をひとりで見なければいけません。ですからある意味自分で全部をコントロールできます。そこが面白いところでもあります。ライダーも若いので自分が厳しい顔をしていると気を遣わせる事にもなるのでそこは厳しさの中にも笑顔があるようにしています。僕よりライダーの方がよっぽど大人ですね(笑)。

ライダーに伝えたい事、常に伝えている事は何でしょうか。

絶対に諦めるな、という事を言っています。その為には何が必要なのかという事も考えて貰っています。

この先どこが目標でしょうか。

僕としてはST1000でチャンピオンを獲り、JSB1000へステップアップしていきたいと思ってはいます。そのなかで若手を育てていければとも思っていますが現状ではファクトリーマシンを走らせるには人もモノもそのレベルには達していません。今シーズンは昨年のようにフル参戦出来ていないのでレベル的には後退したとも感じています。

脇さん自身の目標も聞かせてください。

僕は最初、かつてバリー・シーンその後水谷勝さんのチーフメカニックをされていた岡本満さんのところに転がり込みオートバイの基本を教えてもらいました。その後現在TOHOレーシングの戸井田剛さんにメカニックの技を叩きこまれました。その後色々な人々に教えて貰って今の自分があります。ですから僕も先輩たちのように技を後輩へ伝えていかなくてはいけないと思っています。もしメカニックになりたいと思った人がいたらウチのピットに来てください。ついてこれるのであれば面倒見ます。ただしくれぐれも工場には来ないでください(笑)。

‘技の伝承’というキーワードが出てきましたね。それではもうおひとり紹介したいと思います。

次に取り上げる方は昨年までヤマハ・ファクトリー・レーシングで野左根航汰選手のメカニックをされていた矢内淳一メカ。今シーズンからJDS DOGFIGHTRACING YAMAHAへ移籍されています。今回はまず御本人に伺います。

まず経歴を教えてください。

ざっくりですがワールドスーパーバイク(SBK)で阿部典史さんと組みそれが縁で中冨伸一さんとSBKで組みその後全日本ロードで沼田憲保さん、大崎誠之さん、篠崎佐助、藤田拓哉、野左根航汰とやってきました。ずっとヤマハ一筋です。

JDS DOGFIGHTRACING YAMAHAへの移籍の経緯を伺いたいです。

野左根航汰が昨年チャンピオンを獲り、SBKへ行くとなってヤマハ・ファクトリー・レーシングが一台体制となるという事でチームを離れました。それを聞きつけた藤田拓哉が自宅までやって来てしつこく誘われこうなっています。ただ未だに何故藤田が僕を呼んだのか分かりません(笑)。ただ藤田は僕と組めて楽しくてしょうがないらしいのでそれはいい事かなと思ってはいます。

現在の状況はいかがでしょうか。

今、僕はとても難しい事を藤田に要求していて少しずつそれが形になってきたところでしょうか。それが出来ないと先は無いと思っています。ただかつて僕は野左根にも同じような要求していた事があって、その後僕がチームを離れた後に野左根は速くなりました。ですから来年僕が居なくなったら藤田は速くなると思います。来シーズンの藤田に期待していてください(笑)。

では次は藤田拓哉選手御本人に伺いましょう。

JDS DOGFIGHTRACING YAMAHA 4号車 藤田拓哉選手、休憩中の自家用車(鈴鹿のCパドックに駐車)まで押しかけて申し訳ありませんがよろしくお願い致します。

注:藤田拓哉選手。千葉県出身 史上最年少15歳でJSB1000クラスに出場、2016年には鈴鹿8耐で4位。2015~2017 YAMALUBE RACING TEAMA YAMAHA。その後DOGFIGHTRACING YAMAHAへ移籍。2020シーズンST1000クラスランキング4位。2021年ヤマハYZF-R1でST1000クラス参戦中。好物はお寿司。

今シーズンから藤田さんを担当されている矢内メカについて聞かせてください。

僕ではなく矢内さんですね(苦笑)。矢内さんは僕が2015年にYAMALUBE RACING TEAMA YAMAHAに在籍していた時に僕のバイクをメンテナンスしてくださった方です。

どのような方なのでしょうか。

2015年にYAMALUBE RACING TEAMA YAMAHAで組ませて頂いた時、セットアップや走りに対して組み立てがスマートで単純明快、とてもライダーを大事にしてくれるメカニックという印象を憶えています。僕自身ある程度経験があった中、作業を進めていく過程で僕の考えプラスアルファを示してくれ新しい気づきを与えてくれた方でもあります。一緒にやらせて頂いたのはその一年だけです。ライダーに自信を持たせてくれる魔法のようなものを持っている方ですね。ただ物凄い小心者な方です。でもだからこそ細部まで目が行き届くのだと思っています。

移籍の経緯を教えてください。

2021年に矢内さんの身体が空くと聞きつけて連絡をしたら、絶対やらないってメッチャ断られました。そこを何とかと自宅まで押しかけて話を聞いてもらいました。じゃあ一回どういうチームで、今の藤田がどういった走りをするのか見てみるという事になり開幕戦前にツインリンクもてぎでテストをする事になったのですが初日に転倒。“転ぶライダーは嫌いだ”と言われて凹んで帰ってきました。ただ話を進めていく中で、“2015シーズン、あの時藤田を仕上げきれなかった。それが最後の心残り”と仰って頂き今に至っています。

その矢内さんを迎えた今シーズン、ここまでいかかでしょうか。

開幕戦こそ6位になりましたが、正直今のST1000のバイクに全く合わせられていなくなかなか難しい状況です。せっかく来て頂いたのに申し訳ないと思っています。

ただ色々な事を考え、シーズン始まる前から全日本ロードレースを走るのは2021シーズンが最後かなと思っています。最後になるかもしれないシーズンに悔いを残したくない、そう考えた時もう一度矢内さんと組みたい、そう思って連絡をしました。もし矢内さんが首を縦に振らなかったら今シーズン走るつもりはありませんでした。

鈴鹿は17番手スタートと最悪な位置ですがスタートで何とか巻き返したいと思っています(決勝結果10位)。そして岡山、オートポリスといいものを残し矢内さんに恩返しを、そしてお客さんにいい走りを見せたい、そう思っています。

ではこの状況を監督はどのように見ているのでしょうか。DOGFIGHTRACING YAMAHAの室井秀明監督に伺います。

矢内さんをチームに迎え入れる事に関しては、それで藤田が不安無く気持ちよく走る事が出来るのならいいんじゃない、という考え方です。一緒に仕事をした事はありませんが長い時間一緒の空間でレースをやり、見てきているので信頼して任せています。

ただ同じYAMAHA YZF-R1でもファクトリーはサラブレッド、ST1000はあくまで市販車ベースです。扱うサスペンションもKYBとオーリンズ、タイヤもブリヂストンとワンメイクのダンロップと異なります。ですから今まで経験してきた事がすべて当てはまるかというとそういう訳にはいきません。言わば矢内さんもここでは一年生なのです。ただ基本を解っている方なのでこちらからデータや情報を渡すことでアジャストは可能だと思っています。

またファクトリーは分業制、一方プライベーターはタイヤ運び、ガソリン補給、セットアップ、マシンの管理から予算編成まですべての作業をひとりでこなさなければなりません。それらが出来ないメカニックはファクトリーを出た後自分でバイクショップを経営するか、メカニックを辞めるという事になります。ですからレース業界を見て30~40代の元ファクトリーメカニックの数が少ないというのはそういう事なのです。

一時のスポンサーを得て花開く事もありますがそれは持続可能なモデルではなく結果将来を考えた時に皆辞めていく。メカニックも喰わせてもらうという考え方だけでは駄目で、自分自身でお金を生む、結果それがチームに利益をもたらし持続可能なビジネスとなっていく。そうでなければ年間何千万という予算が必要なロードレースではやっていけません。そしてやはり続けていかないと技術が伝承されていかない、それはロードレース界の衰退を意味します。日本のライダーに速さが足らない原因のひとつは本当の意味での“いいメカニックがいないから”、僕はそう考えています。

ロードレースを支えているのは我々のようなプライベーター達。やはりその中でライダー、メカニック達が目指すべきファクトリーがあるというのは重要な事で、今それが縮小傾向にあるというのは寂しい事と思っています。

皆様いかがだったでしょうか。全日本ロードレースはファクトリーだけではない、プライベーター達の中にも様々な想いを持ってライダーは走りメカニックは走らせる、そんな事を紹介したくインタビューを行いました。その中で繰り返し発せられた“技の伝承”。心からロードレースを愛しているからこその言葉だと感じました。

ファクトリーからプライベーターへ、それが人を育て、結果世界で通用するライダーを生み出す事に繋がる。そんないい流れが出来る事を願ってやみません。改めてファクトリーレーシングの凄さ、歴史を積み重ねてきたプライベーター達の熱を感じた週末でした。

それぞれの戦い、全日本ロードレースも残り2戦。見逃し厳禁!


関連のニュース

Blog News Ranking

本日のレースクイーン

TEAM UPGARAGE HONEYS
安田七奈(やすだなな)

Blog Photo Ranking

フォトランキング