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MotoGP ニュース

投稿日: 2023.06.09 16:36
更新日: 2023.06.09 16:37

転倒や接触事故が多発するMotoGPに必要なマシンの安全性向上を提言(後編)/御意見番に聞くMotoGP

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MotoGP | 転倒や接触事故が多発するMotoGPに必要なマシンの安全性向上を提言(後編)/御意見番に聞くMotoGP

 2023年シーズンのMotoGPは序盤5戦を終えて、しばしの休憩を挟んで3連戦が待っています。スプリントレースと決勝レースの2レース制となった今季は、多くのライダーのクラッシュや接触転倒、怪我人も続出しました。

 そんな2023年のMotoGPについて、1970年代からグランプリマシンや8耐マシンの開発に従事し、MotoGPの創世紀には技術規則の策定にも関わるなど多彩な経歴を持つ、“元MotoGP関係者”が、番外編(コラム第7回目)として“MotoGPの安全性向上”について語り尽くします。

※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、MotoGPの安全性向上に関するご意見を伺っているわけですが、前回の技術規則に続いて今回はレース管制システムの改革という事でよろしいですね?

 その通り。前回のレブリミット設定とオーバーテイクのシステムを導入すれば、ある程度はアクシデントを減らすことが出来ると思うけれど、やってみないと分からない部分もある。そもそもアクシデントがなぜ起きるかというと、人間の認知・判断能力はそれほど機敏には働かないという背景があるんだよ。

 人間が視覚で情報を得て、状況を判断して行動に移すまでの反応時間は平均的に0.3秒程度と言われている。もちろんMotoGPのトップライダーは優れた反射神経を持っていると思うが、それでも0.2秒以下というのは稀じゃないかな。

 おまけに、ヘルメットを被っているライダーは限られた視野角の情報しか得られないし、バックミラーさえない状態でマシンを走らせているなんて、よく考えたら恐ろしい事じゃないかい?

たまに振り向いて後方確認するライダーがいますけど、それだけでバランス崩して転倒しそうになったりしていますよね。

 そうなんだよ。後ろに誰がいるかという最低限の情報さえ満足に得られない状況で、えいやっ! とコーナーに飛び込んでいくと、忽然とイン側にマシンが表れてギョッとしたり、逆に先行車は後続の存在に気付いていないかのように進路を閉じてくるので、こうなると接触するかしないかは『運』でしかない。

 仕方なくチョンとフロントブレーキを掛けたとたんにグリップを失って転倒とか、更に悪いパターンはイン側に忽然と現れたマシンがグリップを失ってスリップダウン、アウト側の2台を道連れにコースアウトというシナリオ。

今年はそういうアクシデントが多いような気がしますね。

 おまけにアクシデントの原因が正しく把握できないままに、そのつど曖昧な判断基準でペナルティが課されているようなので、ライダー側もストレスが溜まっているというかレースディレクションに不信感を抱いているようだね。

「無責任で危険な行為」という判断基準が明確にされていないのは問題だけれど、そもそもアクシデントの原因が、故意なのか過失なのか偶発的なのか判断するには絶対的に情報が足りないんだよ。

 つまりシステム改革っていうのは、そこのところを現代の技術で補えばいいんじゃないかっていう話なんだ。

具体的にはどういう技術を導入するか、アイデアはあるんですか?

 もちろんだよ。必要なのは様々な先進技術を統合したレース管制システムの構築だね。平たく言うと、レース運営のDX(Digital Transformation)だよ。

 キーとなる技術は、マシンとレース管制システム間の遅延の少ない高速通信による車両データや、高精度GPSによる正確なマシンの走行軌跡、複数のドローンを使用したコース全体の俯瞰映像などの記録、それらの情報を基に危険行為やアクシデント要因を瞬時に分析するAIの導入という事になるかな。

なんかよく理解できない部分もあるんですけど、それって実現可能なんですか?

 基本的には個々の技術は既に実用化されているし、現在のMotoGPにもエンターテイメントの要素として部分的に活用されているのは知っているよね。エンジン回転数、速度、バンク角とか時々画面に出るだろ?

 あの情報はドルナの映像システムが各マシンのECU情報を取得してビジュアルに加工して画面に表示しているんだよ。だから通信技術に関しては特に問題は無いと思われるね。

 課題は管制システム側からライダーにどうやって情報を提供するかという事で、現在はペナルティの指示はマシンのダッシュボードに表示されるらしいが、ライダーが見過ごす懸念がある。現にシフトタイミングライトすら見ないと豪語するライダーもいるしね(笑)

 という事で、情報はヘルメットのシールドに表示される、いわゆるヘッドアップディスプレイが必須だね。提供される情報は直近の前後車両との位置関係や、次のコーナーでのオーバースピードとか他車との接触・軌跡交錯のリスク、前回提言したオーバーテイクの情報とかで、これらはGPSによる位置情報からAIが判断して情報提供することになるね。

 このディスプレイに関してはヘルメットメーカーがアライアンスを組んで、技術仕様を統一してもらう必要があるけどね。

提供される情報が増えると、今度はライダー側の情報処理能力が問われますよね。

 そういう懸念は否定しない。だから導入に際してはシミュレーターによる訓練が必要かつ有効だと考えているんだ。この機会にゲームメーカーに協力してもらって、ライディングのトレーニングにもなるシミュレーターを作るべきだと思う。

 そこで実際にヘッドアップディスプレイに表示される情報に従ってプレイして、アクシデント回避の訓練とかするといいよね。シミュレーターに関しては二輪メーカーが既に技術確立しているしね、高価だけど。

ところで、ドローンの役目は何ですか? 必要無いような気もしますが。

 現在もヘリコプターや大型クレーンを使って空撮しているので、それの置き換えも兼ねつつシステムの先進性をアピールする狙い(笑)。

 というのは冗談で、実際にアクシデントが起きた際には、GPSの軌跡データとリンクして即座に俯瞰映像が提供できるようにすれば、何が起きているのか客観的な情報が得られるし、その後の適切な対応が瞬時に判断できるのは大きなメリットだね。視聴者にとっても非常にわかりやすいサービスという事で、ドローンの平和利用の模範的なケースという事でぜひ実現して欲しいね。


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