レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る

ル・マン/WEC ニュース

投稿日: 2023.06.23 14:05
更新日: 2023.06.23 14:06

藤井誠暢が作り上げたドライビングラボ『simdrive』に潜入。スキル向上の手法を根底から変える!?(1)

レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る


ル・マン/WEC | 藤井誠暢が作り上げたドライビングラボ『simdrive』に潜入。スキル向上の手法を根底から変える!?(1)

 WEC世界耐久選手権やGTワールドチャレンジ・アジアでドライバーとして活躍するレーシングドライバーの藤井誠暢が、4月4日に会員制ドライビングラボ『simdrive』をオープンさせた。その後、藤井自身から「ぜひ一度試してみてください」とお誘いをいただいたので、東京都港区東麻布まで訪れた。まずは実際にドライブした感想の前に、世界で活躍してきた藤井がなぜこの施設を作ろうと思ったのかを聞いた。

■シミュレーターの可能性に着目

 近年、モータースポーツにおいては重要な武器とも言えるのがレーシングシミュレーター。これはeスポーツを含めてどんなスポーツでもそうだが、スキルを上げるためにはやはり練習は欠かせず、練習なくして上達はない。ただ、モータースポーツが非常に特殊なのは、道具を使うスポーツの中でも道具が占める比率が高く、かつ高額で、さらに場所の都合もあって簡単には練習ができないことだ。レーシングシミュレーターは、そんなモータースポーツの特殊性から生まれた“練習不足”を補うものであり、現代は最高峰のF1チームでも活用するのが当たり前のものとなっている。

 近年ではシミュレーター向けの専用ソフトも一般で購入できるような環境ができつつあり、自宅に導入するファンも増えつつあり、そんなユーザーを中心にeスポーツも盛り上がりつつある。ヨーロッパではF1ワールドチャンピオンのマックス・フェルスタッペンをはじめ、実車とシミュレーターのどちらも速いドライバーなども生まれつつある。

 WEC世界耐久選手権などで活躍する藤井誠暢は、D’station Racingのマネージングディレクターを務めており、世界中のモータースポーツ界をウォッチし続けるなか、早くからそんな世界的なeスポーツの盛り上がりに着目してきた。コロナ禍の2021年からはD’station Racingとしてル・マンバーチャルシリーズにも挑戦し、海外のeスポーツアスリートとも連絡をとってきた。

 また一方で、藤井には悩みもあった。自らがドライバーとしてWECに参戦することが決まったが、やはり「練習できない」のが悩みだった。日本で藤井と戦ってきたドライバーたちも、やはり海外では日本との違いやコースレイアウトなどにショックを受けてきているのは知っていた。日本でいくら速いとはいえ、「そんな簡単じゃない」と藤井は言う。

 しかし藤井はそのキャリアの中で、海外で最先端のシミュレーターに接していた。「今は時代が良いんです。バーチャル重視のeスポーツやゲームのレベルではなく、本当にメーカーが使っているような施設レベルのシミュレーター環境があれば、それだけで実車走行はなしでもいきなり高いレベルで走れるんです。それを日本でできたらと考えていました」と、シミュレーターの可能性に着目した。もともとは自らのため……というのが『simdrive』誕生へのきっかけだという。

 そこで、D’station Racingの御殿場工場内に、シミュレーターを設置した。ただ、eスポーツで速いドライバーのセットアップでは「まともに走れなかった」状態だった。そこでシミュレーター自体を研究し、イギリスにある優秀なMOD(見た目のディテールではなく、エンジニアリング面を追求したMOD)を制作する会社とコンタクト。WEC向けのMODを制作したところ、かなり感覚が実車に近づいてきた。その後もさらに「深入りしていきました」と、実際のタイムや感覚、さらにペダルやステアリングなどをどんどんと感覚を近づけていったところ、「サーキットに行く意味がほぼなくなるレベルになりました」というオリジナルのシミュレーターが完成した。

「僕がWECで参戦初年度からまあまあ走れたのは、これのおかげです。もし今のシミュレーター環境が無くWECに行ったら、走り出しは1周で何秒落ちとか、ショックを受けるレベルだったと思うんです。それくらい、海外のワークスドライバーのレベルは高いし、ヨーロッパのサーキットを知り尽くす彼らとは走行マイレージも違いますよね」

「その時には、プロトタイプで今のシミュレーター環境を仕上げることができていたんですが、2021年のWEC開幕戦のスパの前に、このシミュレーターで走り込んで行ったんです。そうしたら、オー・ルージュを全開で行く感覚など、ほとんど一緒でした。そのスパは初戦でしたがレースでも良い走りができました」

D'station Racingのアストンマーティン・ヴァンテージAMR GTE
2021年WEC第1戦スパ D’station Racingのアストンマーティン・ヴァンテージAMR GTE

■藤井誠暢がこだわりにこだわった施設

 こうした体験を経ていた一方で、藤井にはもうひとつ直面していたことがあった。藤井は別事業でヨーロッパのプレミアムカーメーカーや販売ディーラーのサーキットイベントを請負うイベント会社も手掛けているが、「走りたい人が多いのに、教える環境がないんです。いま、日本はスーパースポーツカーの販売台数が伸び続けていて、走りたい人はどんどん増えているんです」と藤井は明かす。

 走行会やドライビングスクールでは、ちょっとした先導走行の後にいきなりプッシュしてしまうカスタマーもいる。そうすると、やはりアクシデントにも繋がってしまう。「例えばゴルフで、超高級なクラブを買ったとしますよね。でも、握り方を教えただけで前に飛ばせるわけがないんです。それと同じで、いきなり300km/h出るクルマで富士のストレートを走っても、ブレーキをしっかり踏むことすらできないでしょうし、危険なだけです」と藤井。まったくそのとおりで、冒頭にも述べたとおり、道具をうまく使うためには練習は欠かせない。しかし、練習する機会がないのがモータースポーツなのだ。

 そこで藤井は、自らの知見を活かしたシミュレーター施設を作り上げようと決意した。それこそが『simdrive』だ。メーカーのシミュレーター施設で体験できるレベルの環境を、それぞれのユーザーがドライブする車両に合わせたMODで提供するというものだ。さらにそれを実現するためには会員制というシステムを作り上げた。

 こうして、長い構想期間を経てできあがった『simdrive』は、藤井のこだわりが詰まった施設となった。場所もこだわりにこだわり、東麻布に場所を構えた。テレメトリースペースはまるで研究所のよう。さらにまるで高級バーのようなラウンジスペース。藤井が目指した会員制の“ドライビングラボ”に相応しいしつらえとなった。

ドライビングラボ『simdrive』のラウンジ
ドライビングラボ『simdrive』のラウンジ

 すでに施設は4月4日から稼働しているが、順調に会員数が増えているという。入会金150万円、プレミアム会員9万9000円、アドバンス会員6万6000円という会費だが、一般的なシミュレーターショップからすれば驚くべき高額ともとらえられがちだ。しかし、会員それぞれの車両に合わせたオリジナルMODをイギリスと日本で制作する費用がそもそも大きな値段がかかるものであり、さらに、例えば何度か富士スピードウェイのスポーツ走行枠に走りに行く……と考えると、実は妥当な価格とも言える。

 例えば、GT4カーを持っていて、スポーツ走行枠で走りに行くと、交通費やメンテナンスのスタッフ代、タイヤ代、さらにスポーツ走行料金を払い、それでいて近年枠がいっぱいのスポーツ走行枠を考えると、クリアなラップをとることも難しい。しかし『simdrive』ならば、タイヤがずっとフレッシュな状態で、時間内なら何周でも走ることができる。

 さらにこの施設が優れているのは、走っていながらそのままコーチングが受けられることだ。ふだん実際のコースを走った場合、まずオンボードとロガーのデータを取り出し、PCに移してそれを再生しながらコーチングを受けることになる。しかし、この『simdrive』は、走っている真裏にテレメトリースペースがあり、ロガーがリアルタイムに出てくる。コーナリングスピード、ブレーキ/アクセルの開度など、リアルタイムで見ながらコーチングも受けられる。まさに、プロが助手席に乗りながら走っているのに等しい。その次の周にはアドバイスをそのまま活かして臨むことができるのだ。

 世界トップレベルのF1チームや自動車メーカーのシミュレーター施設に限りなく近い次元の環境を実現した『simdrive』。「リアルのためのバーチャル」であり、自らのドライビングを磨くための『ラボラトリー』と言える。では、実際に体験してどんなものであったのかは、次項をご覧いただきたい。

藤井誠暢が作り上げたドライビングラボ『simdrive』に潜入。スキル向上の手法を根底から変える!?(2)へ

ドライビングラボ『simdrive』の様子
ドライビングラボ『simdrive』の様子
ドライビングラボ『simdrive』では各メーカーの車両に対応したステアリングも。
ドライビングラボ『simdrive』では各メーカーの車両に対応したステアリングも。


関連のニュース