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スーパーGT ニュース

投稿日: 2021.11.20 11:42

【GT300マシンフォーカス】“取り残された長男”を救った滑空テストと専用ブレーキ。プリウスPHV、FR化3年目の熟成

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スーパーGT | 【GT300マシンフォーカス】“取り残された長男”を救った滑空テストと専用ブレーキ。プリウスPHV、FR化3年目の熟成

 スーパーGT300クラスに参戦する注目車種をピックアップし、そのキャラクターと魅力をエンジニアや関係者に聞くGT300マシンフォーカス。2021年の第6回は、現在も唯一のハイブリッド車両としてシリーズを戦い、規約変更の2019年からはFR車両となった31号車『TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GT』が登場。

 生みの苦しみを味わったデビューイヤーを経て、シャシーコンポーネントを共有する兄弟車『トヨタGRスープラGT』が誕生した2020年、そして“ファミリー大増殖”を果たした2021年は、その長男としてFR化後の初優勝も達成した。そこへ到達するまでの成長物語を、ご存知チーム代表兼車両設計者でもあるaprの金曽裕人監督に聞いた。

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 毎年のようにタイトル戦線に絡む実績を残したミッドシップ版のZVW51型プリウスから、FRの新型マシン開発に踏み切った背景にはシリーズ規定の変更があった。2019年より、4WDからFR、FFからFRのようにエンジン搭載位置変更を伴わない駆動方式の変更は認められるものの「ベース車両からのエンジン搭載位置変更不可」という条文が実効となったのだ。

 これに合わせ、プラグインハイブリッドを採用するZVW52型のプリウスPHVをベースとしたFRのGT車両を設計したaprは、これまでリヤバルクヘッドの背後に背負っていたレース専用開発の3.4リッターV8自然吸気のRV8Kから、レクサスRC F GT3などに搭載される5.4リッターの2UR-GSEをベースとする汎用型V型8気筒にスイッチ。そこに従来と同様、トヨタが開発を主導する専用ハイブリッドシステムをドッキングした。

「まずミッドシップのハイブリッドシステムから基本的に大きく変わっていないものが、FRのこのクルマにも載っています。たとえばS耐などの他カテゴリーで作ったことはあっても、FRというクルマをスーパーGT用の完全なJAF-GT(現:GTA-GT300規定)車両として作るのは、aprにとっても2019年が初めてだった」と、当時を振り返った金曽監督。

 シャシー製作初年度という点と、ノウハウ的に蓄積が不十分なFR車両という基礎に加え、新規のエンジン開発、ハイブリッドとの協調、プリウスPHVの空力的素性の見極め、そして後述するブレーキシステムの開発など、2019年は開発項目が一気に増えるかたちとなってしまった。

「今考えれば5つぐらい同時並行で進めたものだから、結論から言うと『何が何だかわからなくなった』というのが正直なところ。そのなかで、もちろんハイブリッドはミッドシップ時代からどんどん突き詰めていったものだし、トヨタがスポーツハイブリッドとして一生懸命開発しているモノだから、僕らが何か手を付けられるモノでもない。なのでここまでの3年間、ハイブリッド関連のトラブルは一切出てないのですよ。それで止まったとかはなく、単に『なんか、おっせーぞあのクルマ』っていう状態が延々と続いてきた」

 さらに新規のエンジンも、開幕からすぐに当時のJAF-GT規定に適合させた状態で走り出すことは時間的猶予からも難しく、開幕から数戦は特認車両扱いでの参戦となり、ベースの6連スロットルからツインのビッグスロットル化と、その吸気と燃焼の制御、さらにJAF-GT300規定に完全適合したリストリクターを装着し、晴れてエンジンへの縛りが解けたのは第6戦のオートポリスからとなった。

 そんな厳しい状況下ながら、FRのハイブリッドプリウスは毎戦毎戦、毎レース毎レースの週末セッションでテストを重ねていった。

「フリー走行、予選、20分走行(ウォームアップ)、それに下手したら決勝中にも1回入れてマップを変えたり“いらんこと”したこともあるしね。それぐらいシンドいクルマだった」と苦笑いの金曽監督。しかし、その努力は翌2020年シーズンに早くも実ることとなる。

 埼玉トヨペットGreen Braveのオリジナルマシンとして登場し、トヨタカスタマイジング&ディベロップメント(TCD)やaprなどのサプライヤーが開発協力として名を連ねるGT300規定GRスープラの52号車埼玉トヨペットGB GR Supra GTが、デビューウインを含む年間2勝を挙げる実績を残したのだ。

「普通、あの当時のクルマ(プリウス)を見て『欲しい』とは思わない(笑)。でもそれをずっと待ってくれて『あなた方のクルマは良いし、今ある問題をクリアしたら、絶対に勝つと思う』って彼らは言ってくれた。それで『開幕から勝つかな〜』とは思うけど(笑)、1番の理解者はやっぱり埼玉トヨペットさんだし、素直に『スゲ~なこの人ら』とは思ったね」

 このGRスープラとプリウスPHVでは、こちらも規定により「ベースとなる生産車のホイールベースが2600mm以下の場合、5%の延長が認められる」との条文を受け、2470mmが基本のGRスープラは2590mmに。一方のプリウスPHVは2750mmまで延長されている。

 こうした差異はあれど、ハイブリッド非搭載の30号車プリウスを含め2020年は実質的な“3台体制”で戦ったシーズンを経て、翌2021年はダンロップタイヤ装着の60号車SYNTIUM LMcorsa GR Supra GT、ヨコハマタイヤ装着の244号車たかのこの湯 GR Supra GTが加わり、一気に大所帯となった。

「僕らはここ2年、走らせる側よりも作り手側としての意識が強かった。そちらに徹していたから、(31号車に関して)シャシーの伸び代ってのがあまりなかったし、本音で言えばセットアップの領域に労力を割く余裕がなかった」と明かす金曽監督。

「そこが今度、2021年に(旧知の仲でもある土屋)武士が加わって。すぐに弱点を指摘して対策してくれるようになったし、SYNTIUM LMcorsa GR Supra GTの小藤くん(純一チーフエンジニア)とは、昔同じアパートに住んでた仲だからね。もうこの3者は素晴らしいですね。それで気がついたときに『うわ、長男であるはずのプリウスがスッゲー取り残されてる』って状態になった」と、HKSを経てつちやエンジニアリングで“丁稚奉公”として修行を積んだ経歴も持つ金曽監督は語った。

31号車 TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GT(嵯峨宏紀/中山友貴)
フロントに5.4リッターの2UR-GSEをベースとするV型8気筒エンジンを搭載。
31号車 TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GT(嵯峨宏紀/中山友貴)
リヤセクション。整備中のため写真内にはないがヒューランド製ギヤボックス後方(写真下部中央/リヤウイングの付け根)にハイブリッドシステムが搭載される。
31号車 TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GT(嵯峨宏紀/中山友貴)
31号車 TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GTのコックピット。
31号車 TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GT(嵯峨宏紀/中山友貴)
キャパシタ(蓄電器)とコントロールユニットはナビシートの位置に鎮座する。
31号車 TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GT(嵯峨宏紀/中山友貴)
GTA-GT300車両のため、床下のホイールベース間はフラットボトムとなる。
31号車 TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GT(嵯峨宏紀/中山友貴)
ホイールベースは「ベースとなる生産車のホイールベースが2600mm以下の場合、5%の延長が認められる」との条文を受け、2750mmまで延長されている。

■『ブレーキの足し算』が合っていなかった。“滑空テスト”で見えた解決策


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